アイドルグループBerryz工房の「ももち」こと嗣永桃子ファンだから「(ももちざくら)」。ウルトラマンタロウにちなんだ界最軽量力士の「虎(うるとら)」といったキラキラ四股名の力士や、ニコニコ動画稽古の模様を生中継したり、FacebookTwitterを通じて部屋の広報活動を展開するなど、何かとお堅いイメージ相撲業界の中で異を放っているのが、式守秀五郎親方(元・北桜)率いる式秀部屋だ。

 親方自身もプロクターを装着してぶつかり稽古に参加し、「いいよ!」「強くなっちゃうよ!」と、やたらとポジティブ力士煽りまくったり、動画編集ソフトを使って力士の活躍をYouTubeアップしたりと、なかなかキャラが立っている。

 そこで今回は、そんな親方に独特の哲学を尋ねてみた! 「明るく、楽しく、元気よく」をモットーとする式秀部屋は、いかにして作られたのか。そこには意外とで、合理的な理由が潜んでいた……。

──ニコニコ動画Facebookを通じて、親方のコミカルキャラや、個性的な四股名の力士たち。はたまた式秀部屋の和気あいあいとした力士たちの日常や、稽古の風景が多くの人々に話題を振りまいていますね。

親方 「明るく、楽しく、元気よく」をモットーに、部屋を運営させていただいています。自分は明るい性格で、ちょっと変わり者ということもあって、楽しいことが好きなんです。相撲部屋っていうと、稽古がきついとか上下関係が厳しいというようなイメージが強いですが、本当はどの力士もめちゃめちゃ明るくて邪気なんです。

 相撲というのは古くから続く伝統がある世界ですので、力士メディアに出るときはまげを結って、ちゃんと着物を着てなきゃいけないという側面があります。土俵に立てばしっかりと礼をして、きちっとした姿を見てもらう必要もあります。

 でも、力士といえども一人の人間です。それぞれ性格も違いますし、その個性を生かした相撲を取れるような力士になってほしいんです。やはり土俵に上がるとプレッシャーを感じてしまいます。そこで、力士たちが大事な場面で自分のを最大限に出し切るにはどうしたらいいかということを考えますと、普段の生活が大切ではないかなと思いまして。部屋は、自分のにいるようなリラックスした感覚でいられるほうがいいのではないかなと考えています。

──にいる感覚ですか! 世間一般の相撲部屋に対するイメージと、反対ですね。

親方 私の師匠北の湖親方は、力士の持つ個性、才、素質というのはそれぞれ違うので、一人ひとりちゃんと伸ばしてあげることが大事だと導してくださいました。個性を伸ばすということは、力士の取る一番にも性格が出るということ。そう考えると、普段の生活も重要なんです。だからこそ、相撲という世界は規と伝統が重んじられているとも思います。

 現役引退後に、少し人間の体のメカニズムについて勉強をしたんですが、どんなに体を鍛えても、やっぱり精も強くないと相撲に限らずスポーツって勝てないし、実を発揮できないんですよね。みそというのは喜びを感じると喜びのホルモンを出して、ストレスを感じるとネガティブホルモンを出す。ストレスホルモンって免疫が低下したり、体にいい影がない一方、喜びのホルモン免疫を上昇させたり記憶を上げたりする効果がある。じゃあ力士には、怒りのホルモンと喜びのホルモンのどちらを与えたらいいのかというと、私としては喜びホルモンのほうがいいと思うんです。普段から力士たちが喜ぶホルモンを出すようにしておけば、病気もケガも少なくなる。ひいては、相撲の結果も良くなるんじゃないかと。

──ニコニコ動画開された、稽古前のウォーミングアップ風景も意外でした。まず、リンゴをみんなで食べてからストレッチ。その後、ようやくぶつかり稽古という、ゆったりした雰囲気に驚きのコメントが上がっていました。

親方 これが私の腕です(笑)。うちには毎「頭が痛いっす」「やる気が出ないっす」っていうところから始まる現代っ子力士がいるんです。その子は呼吸症候群で、寝てる時に呼吸が止まっちゃうんですが、そうすると起きた時にあんまりすっきりと覚めることができないわけです。だから、まずうちの部屋ではみんなでリンゴを食べるところから始めます。リンゴというのは一日の始まりにぴったりな、いろいろな栄養分が含まれています。それをまず補給してから、時間をかけてストレッチをします。そのうちにがだんだんとを覚まして、腸の動きも活発になる。そうするとトイレに行きたくなって、大も小も全部出る。それからまわしをつけて稽古を始めると、2時間くらいトイレに行かなくても気なんですね。結果的に、集中した稽古ができるようになるわけです。

──なるほど

親方 そうすると、さっきまでやる気がなさそうだった子が、ギラギラした顔つきになってくるわけです。それを見て、今度は「やれちゃうよ!」「できちゃってるよ!」「できる子だよ!」って言ってあげられるわけです。

──実は非常に合理的な考えのもとに、式秀部屋の空気は作られていたんですね。

親方 私見ですが、今の日本子どもたちの環境って、50年前とは全然違うと思うんです。かつては戦争があり、食べる物があまりないような環境で育ってきた子どもたちは、もともとハングリーを持っていたのではないのでしょうか。あらゆる環境が厳しいので、「なにくそ!」という気持ちで結果を出すことができていた。でも今は、そういうハングリーさが必要な環境というのは日本では見られなくなった。少なくとも、食べる物がなくて飢え死にする心配はそうそうない。でも、よくないニュース社会に対する不安から、子どもたちは漠然としたプレッシャーを受け続けている。そんな今の世代の力士たちに、かつての時代と同じように厳しく接するのは、あまりよろしくないのではないか。ストレスホルモンが出てしまうのではないかと思うわけです。

──「褒めて育てる」のメカニズムですね。

親方 そうです。稽古の一例を挙げると、四股を100回踏むのって大変ですよね。だんだんきつくなってくる。そうすると、人間は同じ動きをしているようで、本来鍛えないといけない筋肉以外を使って負担を逃がそうとするわけです。でも、それは悪い癖の原因にもなります。だから、うちでは1セット10回を数セットやるようにしています。それでもだんだんと体はきつくなってくるわけですが、そこで私が「もう理するなよ!」「それ以上やると強くなっちゃうよ!」とをかけると、「もう一回お願いします!」ってみんな頑っちゃうんですよね。なぜかというと、みんな強くなりたくて力士をやっているからです。

 正しい選択肢、やりたい選択肢を与えてあげれば、でも自分のを十分に発揮できるようになる。スポーツで強くなる人というのは、そのスポーツが好きで、自分が練習しようと思えるメニューが勝手に出てくる人です。一方で伸び悩んでいる子というのは、次の選択肢に迷っている子なんです。そこで、子たちに次の選択肢を示してあげて、彼らのをうまくアウトプットさせてあげることが、導者である私の仕事だと思っています。これがなかなか難しいんですが、褒めて育てるということと選択肢を示してあげるということをかみ合わせることを日々意識しています。

──お話を伺っていると、スポーツ導だけではなく、教育全体に対する考え方にも通じるように感じます。

親方 それを言っちゃいますか! その言葉は、私にとって今日一番のご褒美です(笑)。実は、自分は小学校の頃、勉強が嫌いで挫折した経験があるんです。それで、自分は当時やっていた柔道で生きていこうと決めたわけです。結局、その後、相撲に移行したわけですが、もし自分が勉強好きだったら、どんどん自分で勉強をするという選択肢を選べたはずなんです。柔道もきつかったんですけど、好きだったから続けることができました。そう考えると、小学校の時にもっと勉強を好きにさせてくれていたら、それを努と思っていなかったかもしれないですよね。小学校の授業って、今日はここからここまで、明日はここからここまでと、みんな同じ進度じゃないですか。だからついていけなくなった間に、面くなくなってしまうんです。

──導者自身が、子どもたちの可性を潰していた可性もあるのかもしれないですね。

親方 だから私が相撲導する時は、みんなに相撲を好きになってもらいたいんです。もちろんプレッシャーや苦しみもあるかもしれないけど、相撲が好きなら、みんな自分から稽古をするようになります。ただ、あまり厳しいと、やらされている感が強くなってしまうわけですが。そう考えると、小学校における教育の仕方について、もうちょっと子どもたちを勉強に引き込む環境って作れるんじゃないかなと思うんです。今は教師があふれていると聞いたことがあります。さすがに子ども一人に教師一人、というのは厳しいとは思うのですが、教師の側がもっと子ども一人ひとりの学力を分かってあげて、その子ならではの教育の仕方を提示してあげることもできるんじゃないかと、期待もしているんです。そういう具合に、子どもたちにもう少し選択肢を与えてあげるべきじゃないかなと。私は、それが教育じゃないかなと思います。そういう考えをもって挑戦させてもらっているから、うちが新しい変わった感じの部屋になっているのかもしれませんね。
(取材・文=有田シュン

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撮影=大木正人