『あまちゃん』の影響で再評価されるようになった80年代カルチャー。ブームは今も続いていて、「うちのタマ知りませんか?」「占いゲーム機 ハーピット」「観光地メルヘンしおり」など、当時のファンシーカルチャーを凝縮した書籍『ファンシーメイト』(ギャンビット刊)が、話題になっている。

圧巻は、14ページに及ぶ原宿タレントショップのリバイバル特集。ピーク時、竹下通りの界隈には30軒以上のお店が連なり、なかでも賑わっていたのが田代まさしのショップ「マーシーズ」だった。一等地にあり3階建て。マーシーグッズも無数にあり、「MASASHI TASHIRO」の刺繍が入った高級スタジャンまで販売! あまりのスターっぷりに、筆者はうっかり現在の姿を画像検索してしまったほどである(後悔)。

さらにコロッケや大西結花、島崎俊郎ら、今で言う“ひな壇クラスのタレント”も店を出していて、そこそこ人気を集めていたというから不思議。その理由は皮肉にも、「マーシーズ」のコンセプト「夢を売る」に求められるだろう。アイドルに会いに行ける日が来るなんて、思いもよらなかったあの時代。テレビっ子たちは芸能人に会いたい気持ちを、タレントグッズにぶつけていたのかもしれない。


■熱愛カップルがチークダンスを踊っていた紅白歌合戦

クラスでは女子のほとんどが光GENJIのファン。学校で禁止されている『毎度おさわがせします』を盗み見ては、翌日、友だち同士で盛り上がっていた。最新ヒット曲は『ザ・ベストテン』か『歌のトップテン』で入手。テレビのスピーカーの前にラジカセを置いて、テレビから流れる歌をじーっと録音したのである。で、録音中に「早くおふろに入っちゃいなさい!」と母親の声が入ってしまうのも、この頃のあるあるネタ。華やかなブラウン管の世界とこちら側は、完全に次元が違っていた。

80年代のエンタメカルチャーについて、『ファンシーメイト』著者のひとり、竹村真奈さんは「自主規制がほとんどなかっため、テレビに勢いがあった」と話す。

「当時はアイドルよりも番組制作側(作り手)のほうが、いい意味で偉かったような印象があります。近藤真彦さんと中森明菜さん、郷ひろみさんと松田聖子さんの熱愛報道が出たときに『紅白歌合戦』で、噂のカップルのようにチークダンスを踊らせたことも。今だったら考えられないようなことが起こりうる、刺激的かつリアルなおもしろさがあったんですよね」

マッチはジャニーズ事務所所属。若い読者には、松潤と井上真央がテラスハウスにお試し一泊するようなものといえば、イメージがつきやすいだろうか? 芸能人の熱愛報道はエンタテインメントとしての側面も持っていたのである。


■新人アイドルのプロモーションに40億円

同書のもうひとりの著者、ゆかしなもん所長は「バブル時代の恩恵もあり、タレントに惜しまずお金をかけられたことも80年代の大きな特徴」と言う。

「歌番組の中継、セット、衣装しかり、一連のタレントショップの隆盛しかり。セイントフォーや少女隊を40億円をかけてプロモーションしたかと思えば、田中美奈子さんは瞳に1億円の保険をかける。長山洋子さんなんて新曲のプロモーションのために皇居でマラソン大会を開いていましたからね(笑)。その分、タレントたちも一生懸命で、『水泳大会』『レコード会社対抗運動会』にもめちゃくちゃ真剣に取り組む。デパートの屋上のささやかなキャンペーンにも手を抜かない、むしろがむばる! 当時のアイドルは“やらせ”なし(多分)のガチだったんです」

タレントが本気ならファンもマジ! 独女通信で実施した80年代カルチャーに関するアンケートでは、

「とんねるずのノリさんの熱愛報道をテレビで観て、どしゃ降りのなかを泣きながら週刊誌を買いに走った」
「男闘呼組のファンでした。ファッションを真似しようと、持っているジーンズを切り裂き、親にこっぴどく叱られました」
「アイドル誌を観賞用と保存用に2冊買いたいがお金がなく、大好きなタレントの顔を鉛筆で模写して持ち歩いていました。おかげで美術は5」

といった黒歴史を暴露してくれる人も……。ヲタレベルの熱意を、当時はフツーの小中学生が抱いていたのだ。

「諸星和己氏の言葉で『アイドルらしいアイドルは自分たちが最後』という名言がありますが、90年代以降のアイドルは暑苦しさがそぎ落とされ、洗練されるように。キョンキョンの歌詞ではないけれど『過剰に異常』なところが、よかったのではないのでしょうか」(ゆかしなもん所長)

もはやタカラヅカにしか、アイドルを崇拝できる、昭和なエンタテイメントは残されていないのかもしれない。ヅカファンたちが眩しく見えるのはそのためか。メディアが限られていた時代、「アイドルに会いに行けない」幸せは、たしかにあったのである。(来布十和)

<取材協力・参考書籍>
ファンシーメイト(ギャンビット刊) 編著:竹村真奈/ゆかしなもん所長
80年代〜90年代初期のティーン誌をまるごと再現した、アラフォーの胸ときめかす1冊。「テレビだけでなく紙媒体も同様で、当時はもっとはちゃめちゃ。情報を伝えるだけじゃなく、誌面から編集者やライターの人格まで見えてきそうなナマっぽさが魅力だったんです。『ファンシーメイト』でも現代のネットに負けない情報量と当時の自由度だけを意識して作りました」(竹村真奈さん)

全文を表示