「吉田調書」報道の記者を処分しないで――朝日新聞に弁護士が「申入書」提出(全文)
弁護士ドットコム

福島第一原発事故の「吉田調書」をめぐる朝日新聞の「誤報問題」について、原発問題などに取り組む弁護士9人が9月26日、朝日新聞社に対して「関係者の不当な処分はなされてはならない」とする申入書を提出した。

申入書は、中山武敏弁護士ら9人が、朝日新聞社の木村伊量社長と第三者機関「報道と人権委員会」にあてて、意見を述べたものだ。中山弁護士らは「吉田所長が所員に福島第一の近辺に退避して次の指示を待てと言ったのに、約650人の社員が10キロメートル南の福島第二原発に撤退したとの記事は外形的事実において大枠で一致しています」と指摘。朝日新聞の報道について、「政府が隠していた吉田調書を広く社会に明らかにしました。その意義は大きなものです」と肯定的に評価している。

そのうえで、吉田調書を報道した記者らへの「不当な処分がなされてはならない」と要望。もしそのような処分がおこなわれると、「現場で知る権利への奉仕、真実の公開のため渾身の努力を積み重ねている記者を萎縮させる結果をもたらす」と懸念を表明している。

中山弁護士らが朝日新聞社に提出した申入書の全文は、次のとおり。

●「吉田調書」報道記事問題についての申入書

朝日新聞社木村伊量社長 「報道と人権委員会」 御中

弁護士 中山武敏 梓澤和幸 宇都宮健児 海渡雄一 黒岩哲彦 児玉勇二 阪口徳雄 澤藤統一郎 新里宏二

    記

私たちは平和と人権・報道・原発問題などにかかわっている弁護士です。

9月11日、貴社木村伊量社長は、東京電力福島第一原発対応の責任者であった吉田昌郎所長が政府事故調査・検証委員会に答えた「吉田調書」についての貴紙5月20付朝刊「命令違反で撤退」の記事を取り消されました。取消の理由は、「吉田調書を読み解く過程で評価を誤り、『命令違反で撤退』という表現を使ったため」と説明のうえ、「これに伴ない、報道部門の最高責任者である杉浦信之編集担当の職を解き、関係者を厳正に処分します。」と表明されています。(9月12日付貴紙朝刊)

貴紙9月18日付朝刊では「『吉田調書』をめぐる報道について、朝日新聞社の第三者機関『報道と人権委員会』(PRC)は17日、委員会を開き、検証を始めました。」と報じています。

貴紙5月20日付紙面の「東電社員らの9割にあたる約650人が吉田所長の待機命令に違反し、10キロ南の福島第二原発に撤退した」と報じた記事の主な根拠として、「(1)吉田所長の調書(2)複数ルートから入手した東電内部資料の時系列表(3)東電本店の記者会見内容-の3点だった。吉田所長は(1)で、所員に福島第一の近辺に退避して次の指示を待てと言ったつもりが、福島第二に行ってしまったと証言。(2)の時系列表には、(1)の吉田所長の「命令を裏付ける内容が記載されていた。また、東電は(3)で一時的に福島第一の安全な場所などに社員が移動を始めたと発表したが、同じ頃に所員の9割は福島第二に移動していた。」ことを前記9月12日付記事に掲載されています。

「命令違反で撤退」したかどうかは解釈・評価の問題です。吉田所長が所員に福島第一の近辺に退避して次の指示を待てと言ったのに、約650人の社員が10キロメートル南の福島第二原発に撤退したとの記事は外形的事実において大枠で一致しています。同記事全部を取り消すと全ての事実があたかも存在しなかったものとなると思料します。

貴紙報道は政府が隠していた吉田調書を広く社会に明らかにしました。その意義は大きなものです。この記事は吉田所長の「死を覚悟した、東日本全体は壊滅だ」ということばに象徴される事故現場の絶望的な状況、混乱状況を伝えています。記事が伝える状況に間違いはありません。「命令違反で撤退」とはこの状況を背景に上記(1)、(2)、(3)を根拠事実として「所長の命令違反」との評価が記事によって表現されたものです。このことをみれば 記事全体を取り消さなければならない誤報はなかったと思料します。かかる事実関係の中で異例の社長会見が行われました。その中で記事の取り消し、謝罪がなされるなどいま朝日新聞の報道姿勢が根本的に問われている事態だと考えます。「吉田調書」報道関係者の「厳正な処分」を貴社木村伊量社長が公言されています。しかしながら、不当な処分はなされてはならず、もしかかることが強行されるならばそれは、現場で知る権利への奉仕、真実の公開のため渾身の努力を積み重ねている記者を萎縮させる結果をもたらすことは明らかです。そのことはさらに、いかなる圧力にも屈することなく事実を公正に報道するという報道の使命を朝日新聞社が自ら放棄することにつながり、民主主義を重大な危機にさらす結果を招きかねません。

「報道と人権委員会」が検証を始められたと伝えられていますが、上記の趣旨を勘案の上、あくまで報道の自由の堅持を貫き、事実に基づいた検証がなされることを求めるものであります。

以上 

(弁護士ドットコムニュース)

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