『Fate/Zero』
ダ・ヴィンチニュース

 中国オタク事情を連載している百元です。第7回は中国でも大人気となっているTYPE-MOONのFateシリーズに関する中国オタク界隈独自の事情について紹介させていただきます。

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中国でも大人気となっているFateシリーズですが、ファンの受け取り方や人気の傾向に関して日本と異なる部分もあります。中でも特に目につくのは、
・Fateにおけるコミカルなノリやパロディの部分を敬遠する、受け入れられないファンが少なくない
・「Fate/Zero」のアニメの影響が極めて大きい
といった辺りでしょうか。この様な違いが出たのは中国本土における作品の伝わり方、広まり方が影響していると思われます。


■「Fate/Zero」以前の伝わり方、広まり方

 中国でオタク関連の動きが本格的に盛り上がるのは00年代半ばからですが、その当時からFateに関しては「日本の同人出身の会社が作った凄い作品」「日本のオタク界で有名なので、オタクならば把握しておくべき作品」として非常に知名度の高い作品となっていました。

 しかし作品の内容に関しては「Fate/stay night」がPCゲームでありテキスト量も膨大であったこと等から、内容をキッチリと把握、体験できていた人は少なかったそうで、当時の中国オタク界隈におけるFateに関する状況は、「情報は広まっているが実感の伴う人は少ない」という状態だったそうです。

 また当時は日本の情報を中国語化する流れも不安定で情報の質も量も不十分な所があったそうですし、伝言ゲーム的な混乱も発生していたとのことです。例えば、中国現地のオタク系ニュースサイトではセイバーがなぜか「騎兵」という中国語名で紹介されるといったことも当時は起こっていました。

 そしてその頃の中国オタク界隈にはほとんど広まらなかった要素というのもあり、それが「Fateにおけるコミカルなノリやパロディ関係について」でした。具体的には日常パートのライトな部分やタイガー道場、外伝作品の「Fate/hollow ataraxia」の日常シーン等の内容やはっちゃけ具合、そして作品を取り巻く日本の同人関係の空気といった辺りでしょうか。

 もちろんタイガー道場等が全く知られていないわけでは無く、日本語で直接作品に接することのできるようなファンはチェックしていたそうです。しかし中国に入った情報やマニア層による中国オタク界隈へのアピールにおいてこの辺りの内容や空気は伝わらなかった模様です。

 これに関して既に10年程Fateファンをやっている中国のオタク(この方は普通にコメディやパロディも受け入れているレベルなのですが)に聞いてみた所、中国では世界観やキャラ設定、ストーリーを強調するのが効果的なのに加えて、コミカルな部分に関しては現地の感覚で面白いと感じるレベルの翻訳をして紹介するのが難しいという事情もあったとのことでした。

 ちなみに作品のイメージに関しては2006年のスタジオディーン版のアニメからの影響もあったそうですが、アニメ独自のアレンジに加えて中国のオタク界の本格的な盛り上がりの前だったこともあり、Fate関連の情報や認識はさらに混乱してしまったそうです。

 例えば主人公の衛宮士郎に関しては当時のアニメの描写とその後の伝言ゲーム的な情報の伝達により、現在も中国では「壊れた所の有るキャラ」ではなく、「考えの足りない熱血バカな主人公」のイメージに「土狼」という蔑称付きで嫌われてしまっている模様です。

■Fate/Zeroによる大きな変化

 以上のような状況となっていたこともあり、中国ではFateという作品に対する知識、思い入れに関して個人差が非常に大きいという状態がかなりの期間続いていました。しかしこの状況は「Fate/Zero」のアニメにより大きく変化していきます。

 非常に高い知名度の所に面白くてクオリティも高い作品がアニメという分かりやすい、伝わりやすいメディアで入ってきたわけですし、昔と違ってコミュニティが格段に整備されていたこともあり人気が大爆発しました。それに加えて女性のファンも急増したことから創作関係でも大きな盛り上がりとなりました。

「Fate/Zero」のアニメにより、Fateは中国オタク界隈で名前だけ知られていた状態から名実ともに人気の作品となったと言えますし、現在の中国における本格的な人気はこの時期から始まったと言うこともできます。

 しかしその結果、中国のオタクな人達のFateに関するイメージや知識が主に「Fate/Zero」ベースのものとなり、日本との違いが更に広がったりもしているそうです。

 中国のオタク界隈ではFateの伝奇的な側面や殺伐としたバトルロイヤル、更には愉悦な展開等が強調されるようになり、作品に関する嗜好やイメージもそういった方向で固まっていきました。そしてその結果、原作である「Fate/stay night」に対して反発するファンも出ている模様です。「Fate/Zero」のアニメ以降にアニメ化された作品にも注目が集まり、活発なファンが増えたことによりFate関連の情報に積極的にアンテナが伸ばされた結果、Fateのコミカルな部分、ボーイミーツガールな部分等についても中国オタク界隈にどんどん広まることとなりましたが、それに対して拒否反応を示す人も少なく無いのだとか。

「Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ」や「Fate/stay night [Unlimited Blade Works]」を見て、「こんな不真面目なのはFateじゃない!」「こんなラブコメ小娘はセイバーじゃない!」といった反発の声をあげる人が出る等、「Fate/Zero」的なものを求めて他のFate関係の作品に触れてショックを受けたり困惑したりする人も出ているそうです。

 また逆に「Fate/Zero」についていけなかった層がファンになったり、ここぞとばかりに原作PCゲームから続くFate関係の世界観や設定を広めようとする人達が出たりする等、作品のイメージや知識に関する混乱は現在も続いています。

 しかしこの辺りについては徐々に摺合せが行われているそうで、パロディ的なノリに慣れたり、ハマったりする人が出る等の動きも出てきているとのことです。

 今後の中国オタク界隈のFate人気やファンの方向性がどう変化していくのかはまだ分かりませんが、イロイロと気になる所ですね。

文=百元籠羊

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