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 「部分解体が始まり、絶対に立ち退かないと言っていた喫茶店のオヤジも出ていかざるを得なくなった」。東京・千代田区にある九段下ビルの"最後の住民"となった画家・大西信之氏はそう語る。九段下ビルは1927年に建てられたビルで80年以上の歴史があるが、間もなく取り壊される予定だ。15年前からここに暮らし、この近代的な建造物を守りろうと取り壊しに抵抗してきた大西氏は「くやしいが最終的には出ていかなければならないだろう」と肩を落とす。

■住民が語る「地上げ屋」

 九段下ビルの歴史は古く、千代田区観光協会のホームページでも「歴史的建造物」として紹介されている。一つの建物ではあるが区分ごとに所有者が異なっていたため、都心にありながら、これまでいわゆる「地上げ屋」に買われることがなかった。だが、ここ数年買収が進み、残るは大西氏の自宅がある区分のみとなっている。「地上げ屋は『(ビルの)耐震強度が持たない』と立ち退きを要求してきたが、拒み続けていたら今度は買い上げたところから解体し始めた」と大西氏。

「壁一枚向こうのドーンドーンという轟音で、立ち退きには絶対応じないと言っていた喫茶店も商売にならなくなり、去っていった」

と当時の様子を語る。

 たまらず区役所に駆け込んだ大西氏だが、「解体の許可も禁止もしていないが、(業者からの)届け出は受けた」との返答があったのみ。法的手段に訴えようと弁護士に相談すると、解体差し止めの請求には数百万円必要となるため、実質的には難しいことがわかった。

 大西氏は語る。「アメリカで友人の家を訪ねると、まず自分の家がいかに古いかを自慢する。だから彼らはこういう古いビルを見れば、なんとしても住みたいと考える。そういう魅力を、地上げする人たちはわかってくれない」。また、明治時代に取り壊し予定のあった姫路城(現在は世界遺産)を例に挙げ、同じように「自分たちの行動が100年後、200年後にわかってもらえるのでは」と話す。

 自身、画家としての評価が高まりつつあるさなか対応に追われ、「この2ヶ月は絵を描けていない。子供の頃に絵を描き始めてからこんなことは初めて」という大西氏は、

「ペンは剣より強しというが、実際は剣のほうが強い。しかも私は画家なので、ペンより弱い刷毛で戦わなければならない」

としながらも、最後まで望みを捨てない考えでいると語った。

■若いアーティストら「ビルを媒介に作品を知ってもらえた」

 現在、九段下ビルの3階では大西氏の呼びかけに応じたアーティストらが展示会を開いている。取材したこの日までこの展示スペースを利用した女子美術大学大学院の古田さくら氏は、「他のアトリエでは『汚してはいけない』という制約のあることが多いが、ここにはそれがないので自分たちに向いている」と語り、同じく作品を展示した下村渚氏は、

「この古びたビルを媒介にして作品に触れてもらえた。美術館に飾られている作品だけがアートではないとわかってもらえたのでは」

と、アトリエとしての九段下ビルの魅力を話してくれた。

◇関連サイト
・九段下アトリエブログ - アトリエ公式ブログ
http://kudanatelier.blog.fc2.com/

(土井大輔)

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