安全保障関連法案(安保法案)が成立し、憲法改正までもが現実になる可能性も出てきた2015年。そんな激動の1年を締めくくる『新語・流行語大賞』にノミネートされたのが、「SEALDs」(自由と民主主義のための学生緊急行動)だ。

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 SEALDsは国会前などで安保法案への反対を訴えてきた学生団体だが、その姿は連日メディアで取りあげられ、メンバーの1人で明治学院大学4年生の奥田愛基さんは、参議院特別委員会公聴会で意見陳述も果たしている。今年一番、注目された存在なのは間違いない。

 彼らは9月に発売された『民主主義ってなんだ?』(河出書房新社)に続いて、『民主主義ってこれだ!』(大月書店)を10月20日にリリースした。前作が作家の高橋源一郎さんとの対談形式でまとめられていたのに対し、こちらはメンバーみずからが編集やデザインを担当。抗議行動でのスピーチやツイッターでのつぶやき、ビジュアルなどを多用した、いわば「SEALDsってなんだ?」がわかる1冊となっている。

 来年夏の参院選で解散する意向を表明したSEALDsだが、なぜ今、書籍を残そうと思ったのか。編集メンバーの植田千晶さん(写真左)と、須川杏珠さんにお話をうかがった。植田さんは日大芸術学部写真学科の2年生、須川さんは獨協大学の1年生。植田さんは高校3年生だった2013年11月頃、特定秘密保護法反対デモを撮影するために国会前に足を運び、そこで前身団体SASPL(特定秘密保護法に反対する学生有志の会)のメンバーと出会った。一方の須川さんは、2015年5月のSEALDsの結成当初から関わっている。今作は誰かが自身の目線でSEALDsを語るのではなく、メンバーのスピーチや独白をまとめた形になっているが、どんな意図があるのだろうか?

植田「学生が中心になって自由や民主主義のために運動するのは、日本では本当に久々のことだから、未来に引き継ぐためというか、2015年のことを思い出せるような本にしたかったんです。だから『SEALDsはこうしてできました』のプロセスやデモのノウハウを紹介するのではなく、『こんなことをしていた人達がいた』ことがわかるものにしたくて。誰か1人の思いをまとめるのではなく、いろんな人が集まって、いろんな言葉を発していたことを見せるのが重要かなと。スピーチは『これは入れるべきだ!』と私が思ったものを集めていますが、それだけだと足りないのでメンバーのモノローグも入れたり、ツイッターも入れたりして、ビジュアルブックにしようと思いました」

 7月16日の安保法案衆院可決をきっかけに、SEALDsの存在は一気に注目されることとなった。その頃から始まった企画と思いきや、2014年の秋に担当編集の岩下 結氏がSASPLのデモに参加したことで、アイデアが生まれた。当初はSASPLをふり返る本の予定だったが、SEALDsの活動が活発になるにつれ、今起きていることをまとめる方向にシフトしたという。岩下さんが注目したのは、「民主主義を守りたい」思いで集まった若者達の、みごとなまでのバラバラさ加減だ。

須川「最初のミーティングで、服装も考え方もみんな全然違うなって思いました。でもそれが面白くて。ヒップホップ好きのメンバーばかりが取りあげられるけど、あれはごく一部の人(笑)。そもそも団体って意識もなくて、ゆるい繋がりなんです。多分憲法9条や自衛隊に対する思いも、1人1人違うと思いますよ。だから『シングルイシューだけで繋がってて、それ以外の意見はバラバラってどうなの?』という批判は結構受けますね」

植田「家庭環境もバックグラウンドもバラバラだよね。だけどその違いを乗り越えて、同じ目標に向かって一緒にやりましょう、ってことなんです」

 瀬戸内寂聴やASIAN KUNG-FU GENERATIONのGotchなど、SEALDs支持を表明している大人は数多い。もちろん有名人だけではなく、彼らに希望を見いだしデモに参加する大人達もいるが、「希望ではなく勇気を持ってほしい」と2人は語る。

植田「若者が抗議行動をしていて希望を感じるって言ってくれる人もいますが、私達は希望なんかもともとなくて、最初から何もないところから始まってるんです。本の最終章でエリック・ホッファーの『希望に胸を膨らませて困難なことに取りかかるのはたやすいが、それをやり遂げるには勇気がいる。』って言葉を引用していますが、伝えたかったのはまさにそれです。“希望を持ちましょう”ではなく“勇気を持ってやりとげましょう”って言いたいです」

須川「生まれた時から不況だったから何も思わないし、上の世代に対してのやっかみもないし」

植田「ある人が『私達の世代は絶望ネイティブだ』って言ったんですよ(笑)。まさにそういう状況だから、悲観してても仕方がない」

須川「よく『こんな世の中にしてごめんなさい』っておっしゃる年配の方がいますが、謝らなくてもいいし、そんなのは必要ないです。『じゃあ一緒に頑張りましょう』って思うだけです」

植田「あ、でも、どんな世代でも『応援します』って言ってくれるのは力強いかな。小林節さん(慶應大学名誉教授・弁護士)が国会前に来てスピーチしてくれた時は嬉しかった!」

 メンバーは、自身の顔と名前をオープンにしている。実名主義であることから、彼らはSNS上などで嫌がらせやバッシングを受けてきた。それでも主張を止めないのは、「思っていることを言うだけで叩かれる社会はおかしい」と感じているからだ。

須川「なぜ政治や社会に対して思っていることを言っただけでバッシングされるのか、それが理解できないんです」

植田「顔や名前を出したくない人は出さなくてもいい、と言ってますが、出している人が多いです。やっぱり、実名でないとリアルさがなくなっちゃうからかな。自分で考えたことを、自分の言葉で話すのが前提なので。これも一種の賭けなのかもしれない」

 SEALDsは2016年の参院選をもって、解散することを表明している。しかし「また誰かが始める」から、残念な思いは微塵もない。自分達がいなくなっても、誰かが民主主義のために立ち上がってくれれば、それでいい。いわば「自分で考えて自分で行動するための種をまく」のが、SEALDsの役割なのだ。

植田「もともと安保法案に反対するために生まれたものではないし、私達も人類の長い歴史における、ほんの小さな点でしかないし。今この国では、声をあげて何かを伝えるのはすべてにおいて難しいけれど、ホッファーの『闘いに勝ち、大陸を耕し、国を建設するには、勇気が必要だ』って思いを、未来の人がSEALDsから感じとってくれれば嬉しい。だからこの本は言ってみれば、2015年のタイムカプセルなんです。表紙に『2015』って入れたのは、そういう理由です」

須川「最初に本のデザインを見た時には、『暗すぎるんじゃない?』って感じたんです。暗い色調の表紙から始まって黒い見開きの次に青空が来て、明るい色が続いたあとに最後は黒に戻るという。でも黒は、始まりの黒だと思いました。この本を読むことで、自分が知らなかったSASPLのことや、今までの流れがわかって『なるほど』って思ったから、通りすがりにぱらっとめくるだけでもいいので、政治は特別な人達だけのものではなく、自分の日常の延長線上にあるんだってことを考えるきっかけにこの本がなってくれれば。こういう運動を知らない人や、考えたことがなかった人に一番読んでもらいたいです。だって生きている以上、政治に関わらないことは不可能だから」

 ところで、「民主主義ってこれだ!」の、これって何?

須川「実際のところ、本の中には答えはないんです(笑)。『これだ!』って書いてるけど、それは読んでる人への問いかけなんです。これを読んで、自分なりに答えを出していただければ」

植田「あー、その言葉でしっくりきた(笑)。1人で孤独に思考することはとても重要だから、自分の頭で考えて結論を出すことを読む人に問うために、あえて『これだ!』にしたのかもしれない」

取材・文=朴順梨

『民主主義ってこれだ!』(SEALDs:編/大月書店)