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 第一期叡王戦のベスト4に勝ち進んだのは郷田真隆九段、行方尚史八段、山崎隆之八段、村山慈明七段。

 この4名で山崎だけが関西所属の棋士である。東西の現役棋士数を比率で表すとおよそ2対1であるから、順当ながらも関西のファンにとってはもう一人勝ち上がって欲しかったと言ったところだろうか。

 竜王のタイトルを持つ糸谷哲郎八段を筆頭に、関西所属の若手棋士の活躍ぶりはよく知られている。その兄貴分たる山崎が大輪の花を咲かせることを期待するファンも多いだろう。今回の叡王戦は山崎にとって久々に訪れた大舞台へのチャンスである。

 大舞台へのチャンスという意味では村山も同様だ。4月に行われた電王戦では注目こそ大きく集めたものの、結果は不本意なものだった。第1期の優勝者としてソフトへのリベンジを果たす気概はいかほどのものだろうか。

 準決勝第1局は11月17日に東京の将棋会館で行われた。準決勝からは対局者が和服を着用することになっている。

■正調角換わり

 振り駒の結果、村山の先手に。そして戦型は正調角換わりとなる。山崎が正調角換わりの後手番を持つのは珍しい。後手番で角換わりを指すならば一手損というイメージが強い。村山も「正調になるとは思っていなかった」と意外さを隠さなかった。だが「最近の丸山さん(忠久九段)との対局で指していたのだからケアしておくべきだったか」と言う。

 もっとも、直前の振り駒で先後が決まる以上、事前に取れる対策にも限界がある。特に現代のプロ将棋は後手番における作戦に苦労しているという状況のため、自身が後手を引いたときの対策をより入念にせざるを得ない。そして正調角換わりは村山の得意戦型の一つである。直前の準備がやや足らずともそれを十二分に補う経験と知識がある。

 山崎もそれはわかっているので通常の定跡形ではなく、後手早繰り銀という前例が少ない作戦を採用した。20手目にして早くも未知の局面に突入する。

■意欲的な突き出し

【第1図】http://p.news.nimg.jp/photo/416/1694416l.jpg

 序盤の一つのポイントが第1図だ。ニコニコ生放送の解説を務めた三浦弘行九段はこの△3五歩を「なるほど、という手ですね」と感心する。手の意味は▲3六歩を突かせないことで▲3七桂からの活用を防いだものだが、この歩が伸び過ぎになって後手の負担になる可能性もあるのだ。

 「山崎さんらしい意欲的な一着だと思いました」と村山。

■手順前後

【第2図】http://p.news.nimg.jp/photo/417/1694417l.jpg

 第2図からの▲6五歩が手順前後。△7三銀▲4八飛に△7四銀と立たれる手を村山は軽視していた。のちに△7三桂から△6五銀とぶつける味が良いし、△8六歩からの攻めにも利いている。△7四銀以下の実戦は▲4五歩△同歩▲1七桂に△8六歩▲同銀△3六歩▲同歩△3七角と進んで後手が攻める展開となった。

 戻って第2図では先に▲4八飛と回るべきだった。△4二金右くらいだが、▲9六歩△9四歩という端の交換を入れて▲6五歩と突く。△7三銀に▲1七桂までが感想戦で示された手順だが、これは金寄りの一手を後手に指させていることで、先手が一手早く攻めることが出来る。

■感触が良い

 前記の手順前後について村山は「相手が時間を使わず飛ばしているので、こちらも終盤に残すためにじっくり考えられない。山崎さんの術中にはまった」と言う。

 だが第3図からの▲3五歩を「感触が良かった」と振り返った。後手の弱点である3筋を狙う手であり、また△3六歩という後手の突き捨てを逆用したことになるからである。

【第3図】http://p.news.nimg.jp/photo/418/1694418l.jpg

 対して△6五銀は自然な一着だが、続く▲3四歩が見た目以上に厳しいのが山崎にとって誤算だった。形は△4四銀とかわすのだが、▲4六歩の合わせがある。狙いは▲7七角~▲4五歩で、△4六同角成でも▲7七角△4三金右▲4六飛△同歩▲4五歩で先手優勢。

 やむなく△3四同銀だが、▲3九飛△3八歩▲同飛△1九角成▲3四飛と銀香交換を実現した先手が指しやすくなった。

 戻って▲3四歩に備えるならば△6五銀で△4三金右だが▲2五桂△4四銀▲4六歩でやはり▲7七角の筋が生じる。

 局後に山崎は「▲3五歩は考えていなかった。(第3図の局面で指せるという)大局観が間違っていたのはツラい。大局観くらいは良いと思っていたんですけどねえ」と苦笑する。

■飛車の引き場所

 駒損となった山崎だが、前記▲3四飛に対する△3三歩(第4図)に期待していた。飛車を引かせることで攻める手番を握ることが出来る。

【第4図】http://p.news.nimg.jp/photo/419/1694419l.jpg

 対して村山は▲3八飛と引いたが、▲3九飛と深く引くほうが勝った。△2八馬の飛桂取りがあるため指しにくい順だが、▲6九飛と回って▲6五銀からの攻めを見せれば、後手は△1七馬と桂を取る順がなかなか回ってこない。

 ▲3八飛に△2九馬▲4八飛△3九馬(第5図)と進む。

【第5図】http://p.news.nimg.jp/photo/420/1694420l.jpg

 「馬を寄ってくるのはやりにくいと考えていたし、まだ勝っていると思っていた。飛車の引き場所を誤ってからは苦しさを自覚するべきだった」と村山は言う。

 果たして次の一手が問題だった。

■軽視が全て

 第5図から村山は▲4四歩と垂らしたが、終局直後に「ひどかった」とうめいた。以下の進行は△5六銀▲同歩△6九銀、この割り打ちが想像以上に厳しかったのが村山の誤算だった。

 村山がこの割り打ちを軽視していたのは、6五の銀は働きが弱い先手の5六銀と交換するのではなく、△7六銀と玉頭にプレッシャーをかけるように使うのが本筋と考えていたことによる。また数手前までは1九馬の形だったため、△5六銀▲同歩の進行は△5五馬という味の良い手を消すことにもなる。

 △7六銀や△5五馬はいかにもプロという筋の良い活用だが、その手が見えてしまったことで俗手とも言える割り打ちを軽視したのが致命的だった。△6九銀に対して▲4三銀と攻め合いを目指したが、以降の手順は形作りの意味合いが強い。「△6九銀を軽視したのが全てです」と村山。

 第5図では▲1八飛と辛抱するしかなかった。以下△2九馬▲4八飛△3九馬▲1八飛は千日手。後手が打開するなら▲1八飛に△5六銀や△7七歩だが、明快に良くなるとは言えない。

 「打開には勇気がいるね」と三浦九段。

■山崎、決勝へ

【第6図】http://p.news.nimg.jp/photo/421/1694421l.jpg

 第6図の△6四香が決め手で、▲6八歩に△4九飛と打って先手玉は詰んでいる。

 山崎が決勝三番勝負進出を果たした。本局を振り返って「後手番なので力戦に持ち込んだのは作戦通り。その後の形勢が微妙に揺れ動いて難しい将棋だった」と語った。

(相崎修司)

◇関連サイト
・[ニコニコ生放送]【将棋】第1期叡王戦 準決勝 山崎隆之八段 vs 村山慈明七段【ニコルン対応】 - 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv241414662?po=news&ref=news
・将棋叡王戦 - 公式サイト
http://www.eiou.jp/

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