※画像は、Thinkstockより
TOCANA

【ヘルドクター・クラレのググっても出ない毒薬の手帳】 

 さてさて、自殺といえば練炭、練炭といえば自殺です。最近は、暖をとるよりあの世への逃避行に使う人が増えたせいで、暖かい時期に、七輪を買っていると、「あの人まさか……!」なんて白い目で見られるご時世です。

 ともかく、練炭自殺のキー。それは一酸化炭素。

 ドライアイスのようにザブザブ使ってもなかなか毒性が出ない二酸化炭素より酸素がひとつ少ないだけの一酸化炭素は、一見無害にさえ見えるシンプルな気体です。けれども……?

 そうした毒性のホントのところと、実際に起きた事件などを振り返りつつ、一酸化炭素の恐ろしさを見ていきましょう。


■一酸化炭素.CO.JP

 一酸化炭素は人間のセキュリティホールを突いた、恐るべき毒ガスです。空気中にわずか50ppm(0.005%)含まれているだけで具合が悪くなり、1000ppm(0.1%)になると即死の可能性まで出てくる、なかなか凶悪といえます。

 製造法はいたって簡単。不完全燃焼すれば必ず出てきますし、酸素の少ない環境で物を燃やせばもうできあがりです。

 そして、一酸化炭素は二酸化炭素と違ってまだエネルギーが安定状態に至ってないため、よく燃えます(酸化力がある)。刀鍛冶などは、この一酸化炭素の燃焼時の炎が普通のオレンジではなく紫の燃焼光になるため、そこを見計らって焼き入れを行うのだとか。


■一酸化炭素のメカニズム

 一酸化炭素は名前こそ二酸化炭素に近いのですが、酸素に似た性質を持ちます。酸素と同様に物を燃やす働きもあるうえ、特に人間の体内での化学的な振る舞いは酸素に似ているといえるでしょう。

 ご存じの通り、酸素は肺から吸収されて血中に広がっていくわけですが、一酸化多炭素は赤血球の中の酸素運搬に使われるヘモグロビンと親和性が極めて高く、酸素より200倍身体に吸収されやすい(ヘモグロビンと結合しやすい)上に、いったん結びつくと今度は離れない…ということから、身体の酸素運搬能力自体を物理的に封鎖して文字通り窒息死に至らしめる猛烈な危険度の高さを誇っている毒物です。

 逆に、昆虫などの血液に多く含まれているヘモシアニンは同じく酸素を運搬する物質ですが、一酸化炭素と結合しないため、毒性はほぼゼロといえます。人間が即死するような0.1%なんてセコいことをいわずとも、たとえ99%一酸化炭素が充満している環境であっても残りの1%の酸素を使い、死なずに済むのです(昆虫は一時的な酸欠には比較的強い)。

 このように物理的な毒性なので治療法も物理的です。軽い中毒の場合は新鮮な空気を吸わせれば良く、死にかけの場合には100%酸素で呼吸をさせると復活することもあります。

 なんともシンプルですね。


■一酸化炭素と自殺

 この一酸化炭素を自殺に使うというのは、古くは都市ガスに一酸化炭素が多く含まれていた時代に遡ります。

 もともと都市ガスとして供給されていたガスは、主成分のメタンのほかに、数%~多いものでは10%ほど一酸化炭素が含まれていました。そこで、自殺といえばガス栓をひねって死を待つばかり、という演出が昭和中期のドラマなどでよく見られました。ですが現在はかなり難しいといえます。

 それもそのはず、いつの間にか都市ガス中の一酸化炭素はほとんどカットされて、ついでにひどい臭い(チオール類)をつけて安全性がひっそりと高まっているからです。

 現在も不可能になったのを知らずにガス自殺を計ろうとガス栓を全開。しかし、待てど暮らせど死ぬ気配がない…あまりに退屈だったため、タバコを吸おうとして、“爆死”というコントのような迷惑な事例がたまにあります。

 また車の排気ガスにも昔は多くの一酸化炭素が含まれていましたが、現在は触媒の進歩によって一酸化炭素濃度が非常に低く、死ぬ前に、窒素酸化物などの刺激性の強い成分で死ぬほど苦しむことになります。

 そこで七輪…となるようです。さてさて、では本当に楽に死ねるのでしょうか?


■苦しまずに死ぬはウソ!? 練炭自殺の意外な真実

 一酸化炭素は密室で空気の動きが少なく、燃焼が持続するモノであればなんでも発生します。要するに練炭と七輪を車内でGO! というのが、自殺系サイトでテンプレ化され、紹介されたことが引き金となり、自殺に用いることが多くなったようです。

 車内の空気は外気にしない限り、かなりの密閉度なので不完全燃焼が起こり、火の状態にもよりますが、1、2時間で中の濃度は危険流域になっていきます。

 一酸化炭素中毒は、死体が穏やかな状態で苦しんだ様子もない…ということから苦しまない自殺方法だと思われがちですが、即死なのは高濃度のものを一気に吸引した場合のみ。

 ゆっくりと、一酸化炭素濃度が上がる場合は末梢神経が麻痺し、手足が動かせなくなってから、中枢へと死の影が忍び寄ります。その間に起こるすさまじい吐き気と酸欠による猛烈な頭痛、そして呼吸ができなくなっていく自分をまじまじと感じ、あまりの恐怖に後悔して止めようにも手足が動けず穏やかな死に様となる…可能性が高く、無痛とは無縁の死に方といえます。

 また酸欠による脳障害はすさまじく、万一助けられると壮絶な人生が待ち受けているのでリスク工学的には選ぶべき自殺方法ではないといえるでしょう。
(文=くられ/ヘルドクター)

※画像は、Thinkstockより

全文を表示