『ざるそば(かわいい)(MF文庫J)』(つちせ八十八 / KADOKAWA)
ダ・ヴィンチニュース

 ラノベレーベルMF文庫Jの新作になにやら不可思議なタイトルが……。そのタイトルは『ざるそば(かわいい)』。同書の著者であるつちせ八十八さんは本作で第11回MF文庫Jライトノベル新人賞を受賞してデビューとのことで、ニコ動でP(プロデューサー。動画製作者のニックネーム)として活躍していたなど、異色の経歴の持ち主のようだ。どんな作品なのだろうと、あらすじを見てみた。
『ざるそば(かわいい)』 つちせ八十八 / MF文庫J
真夏。笹岡光太郎がざるそばを注文すると、自称麺類寄りの魔法少女・姫ノ宮ざるそば(かわいい)が出前された。その超人類的かわいさに正気を奪われた光太 郎は、ざるそば(かわいい)とざるそば(動詞)する決意を固めてしまう。立ちふさがるは謎の月見そば、謎の麺inブラック、謎の夏の甲子園。
果たして人類と麺類は愛し合えるのか――。ざるそばかわいい。

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 うーむ。あらすじを読めばある程度内容が分かるかと思ったのだが、正直言って全く意味がわからない。むしろ謎が深まった印象!? 自称麺類寄りの魔法少女とはなんなのか? ざるそば(かわいい)は名前なのか? 百歩譲ってざるそばは名前だとして、(かわいい)はなんなんだ。あるいはざるそばがミドルネームで、(かわいい)が名前なのか?

 あらすじによると“ライトノベル史に伝説を刻む(予定)”ということなので、「読むか読まないかはあなた次第です」と某都市伝説風にリコメンド(?)しておくが、そんな謎多き作品『ざるそば(かわいい)』については、何より初めにタイトルに目を奪われた。「ざるそば」という4文字と「(かわいい)」という2つの言葉のハーモニー。塩辛とショートケーキを一緒に食べるようなクセになる感覚(食べたことはないが)。いずれにしても、この言葉選びはかなり新鮮だった。

 タイトルは著者と編集者の試行錯誤の結晶であると言えよう。ラノベに限らずタイトルとはいかにして他の作品との差別化を図り、読者の興味を惹くかということを突き詰めた結果でもある。同時に商業的に1つのタイトルモデルが大きな成功を収めると、同じモデルから数多のフォロワーが生まれ、やがてそのタイトルのモデル自体が淘汰、またはスタンダードとして定着されていくという運命にもある。市場という過酷なフィールドでいかに生き残るかという、生存戦略の一端がラノベのタイトルからは透けて見えると言ったら大げさだろうか。

 例えば、もはやネットではネタとなりつつある長文のラノベタイトルもそうした試行錯誤の産物と捉えることができる。長文系タイトルの代表としては『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』(電撃文庫 以下:俺妹)を挙げる向きもあるようだが、同時に本作は長文であると同時にタイトルにおける別のトレンドも内包していた。それは「〜ない」という否定形の形である。「〜ない」という否定形のモデルをとるタイトル自体は俺妹以前の『ブギーポップは笑わない』(電撃文庫 1998年発行)や『ぼくたちには野菜が足りない』(集英社スーパーダッシュ文庫 2005年発行)などにも見ることができるが、このモデルをとる作品である『僕は友達が少ない』(MF文庫J)や『機巧少女(マシンドール)は傷つかない』(MF文庫J)などが、立て続けにヒットしたことで、それ以降の長文系や否定形タイトルのフォロワー登場に拍車をかけたと言えよう。

 さてここで再び『ざるそば(かわいい)』に話を戻したい。ひらがな又はカタカナ4文字のタイトル作品というのは実はラノベにおいてかなり初期段階から存在していた。ライトノベルのランキング本『このライトノベルがすごい!』の初刊行である2005年度版を見ても『ムシウタ』『でたまか』といった4文字系のタイトルが見つけることができる。

 その後も『とらドラ!』『まよチキ!』『のうりん』といった多数の4文字系タイトル作品が途切れることなく登場している。そう考えると『ざるそば(かわいい)』はさほど新しくないとも思われるが、いやいやそんなことはない。なぜならその4文字が「ざるそば」だからだ。過去に存在した4文字系タイトルは基本的に何らかの文章の略称であるか、それ自体では意味を結ばない4文字のタイトルであることがほとんどだった。しかし「ざるそば」は麺そのものである。ここに新たなタイトルモデルの萌芽を感じずにはいられない。筆者は“勝手に”これを「NEO4文字系」と名付けたい。ちなみに、このモデルの先達として林トモアキ先生の『お・り・が・み』が存在していることを追記しておく。

 現在は毎月100点超(!?)の作品が各レーベルから刊行されるラノベ戦国時代。いったいどんなタイトルの形が飛び出してくるのか、ラノベタイトルをめぐる仁義なき戦いから今後も目が離せない!

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