文藝春秋新館(「Wikipedia」より)
Business Journal

「週刊文春」(文藝春秋)のスクープ報道が止まるところを知らぬ勢いで、各方面を震撼させている。ベッキーが不倫相手とのLINEのやり取りのなかで使った同誌を指す言葉にちなんで「センテンススプリング砲」とも呼ばれ、2月には国会議員を辞職にまで追い込んだ文春パワー。その源はなんなのだろうか。

 文春の取材力の高さはマスコミ業界でも知られているが、今年に入ってからだけでも、以下のスクープを立て続けに飛ばしている。

・ベッキーと川谷絵音(ゲスの極み乙女。)の不倫騒動
→ベッキーが芸能活動休止

・前経済再生担当大臣・甘利明氏の現金授受疑惑
→甘利氏が大臣辞任

・衆議院議員・宮崎謙介氏の不倫疑惑
→宮崎氏が議員辞職

 また、先般逮捕された清原和博やASKAの覚醒剤使用疑惑をいち早く報じたのも文春であった。さらに歴史をさかのぼると、次のようなスクープも報じている。

・東京足立区で起きた女子高生コンクリート詰め殺人事件
→少年4人の実名と顔写真を少年法に反して報道して議論に

・NHK紅白歌合戦のチーフプロデューサーによる横領事件
→NHK受信料の不払いが増加、海老沢勝二氏の会長退陣

・作曲家・佐村河内守のゴーストライター問題
→CDは実質廃盤措置

・ファーストリテイリング(ユニクロ)の店舗や中国工場における労働問題
→ファストリ側は記事の内容が真実と異なるとして2億2000万円の損害賠償請求訴訟を起こしたが、東京地裁は訴えを退ける判決

 そこで今回、文春の強さの秘密に迫るべく、同誌関係者・X氏(仮名)にインタビューを行った。そこから見えてきた文春の各種取り組みは、メディアに限らず一般企業でも応用できるヒントを秘めていたのだ。

●「取材力」の根源とは

 文春の創刊は1959年(昭和34年)。出版社系の週刊誌では、56年創刊の「週刊新潮」(新潮社)と並ぶ老舗だ。発行部数は65万5000部で、一般週刊誌ではトップの座にいる。

 編集方針は「新聞・テレビが書かない記事を書く週刊誌」であること。ジャーナリスト・作家の半藤一利氏、花田紀凱氏、勝谷誠彦氏などを輩出し、立花隆氏も一時期編集部に在籍していたことがある。

(1)取材費を惜しまない

 週刊誌業界では取材経費が年々縮小されているなか、文春ではいまだ「ネタを取ってくるなら経費は惜しまない」という空気がある。

 ある大手出版社では、取材でも飲食代は1万円までという決まりがあり、タクシー代も出づらく、「1週間で2~3万円の経費を提出しただけで白い目で見られる雰囲気がある」(大手出版社社員)があるという。

 しかし文春の場合、「一行の裏取り」(=事実関係を明らかにする)のために莫大な時間とお金をかける、というポリシーが確立している。ひとつのネタに対して複数名の取材チームが編成され、必要であればデスクの許可を取る必要もなく、沖縄でも北海道でも経費で出張することができるのだ。

 そして、時間とお金をかけて検証した結果、仮に「この情報は真実ではない」と判明したとしても、お咎めはなし。これが他社であれば、「そんなに経費をかけたのだから、何かしら記事にしろ」という雰囲気になるのだが、文春の場合は「記事にならなかったけど、真実がわかったのだから、それで良しとしようという空気」(X氏)なのだという。

「ちなみに昨年度は、年間8ケタの取材経費を使った記者が複数いましたよ。でも、彼らはそれなりの結果を出していたため、上層部から呼びだされはしたものの、苦笑されただけでした」(X氏)

(2)「カネ目的」のタレコミは相手にしない

 文春は取材経費が潤沢なことから、いわゆる情報の「タレコミ」に対しても高額な見返りを支払っているように認識されがちだが、事実ではない。「金目的の証言は信憑性に欠ける」というスタンスで取り扱っており、通常の特集記事の取材謝礼は数万円程度なのだ。

「文春は、ASKA事件のときでも情報提供者にお金を払ってません。別の某雑誌のほうがよほど払ってますよ。ある事件のときにインタビューした証人や、有名人の写真に対して数百万円払っていました」(X氏)

 その文春もベッキー不倫と甘利元大臣の金銭授受報道によってタレコミが急激に増えたようで、今や女子中学生からもタレコミのメールが来ているという。

(3)芸能事務所が交渉できない

 文春が芸能系のスクープに強いのは、芸能事務所が交渉できないからだ。

 ほかの大手出版社であれば、週刊誌以外にもファッション誌や情報誌などを出版しているため、「そこにウチのタレントを出させない」「ほかのタレントのこんな情報を提供するので、今回の件は報道しないでほしい」などと交渉することで、スキャンダル記事を表に出させないように取引ができる。しかし、文春はそのような交渉には応じない姿勢を貫いている。

 また発行元の文藝春秋は文芸誌中心の出版社であるため、他雑誌の出演バーターができず、事務所としては「交渉が難しい相手」との認識をされているのだ。

(4)記者のレベルが異常に高い

 週刊誌の世界で一口に「記者」といっても2種類ある。将来のデスク編集長候補で、一流大学出身のいわゆるキャリアである「社員記者」と、年棒制の「契約専属記者」だ。

 一般的な週刊誌では、社員記者が司令塔となり、複数の専属記者が現場に飛んで取材する。専属記者は取材後、取材データを整理し、社員記者がそのデータをもとに原稿を書く。つまり、社員記者は現場に来ることはない「アンカーマン」であり、専属記者は原稿を書かない「データマン」という扱いになっているのだ。

 ところが、文春では組織のシステムそのものが根本的に違う。専属記者は他誌で10年以上経験したベテラン揃い。初心者は見向きもされず、他誌で実績を残した記者をヘッドハンティングするかたちで採用している。そんな、あらゆる修羅場を潜り抜けてきた海千山千の専属記者の下に、若手の社員記者が見習いで付き、徹底的に社員を現場で鍛えあげるという仕組みなのだ。

 そして、原稿は他誌のように社員記者が書くのではなく、専属記者本人が責任を持って書きあげる。当たり前のことだが、現場にも行っていない者が臨場感のある原稿を書けるわけがないという考えからだ。

「私が文春に来た時に一番驚いたのが、社員記者のレベルの高さです。文春の社員記者の優秀さには度肝を抜かれました。出版社系週刊誌には伝統のようにアンカーマン、データマンのシステムが受け継がれていますが、悪しき風習だと思いますよ」(X氏)

(5)厳選された取材ネタ

 文春編集部では毎週木曜日に、デスク、社員記者、専属記者が集まり、プラン会議を行う。持ち寄る取材ネタについては「ひとり5本」というノルマがあり、一人ひとりがプレゼンをするかたちで会議が進んでいく。

 総スタッフ数は約50名いるので、毎週250本のネタが集まり、その後のデスク会議において250本の中から厳選された20本が選ばれ、取材チームが編成されて、取材がスタートしていくのだ。

「下手なネタを会議で出そうものならバカにされるため、若手もベテランも毎週のネタ出しに命を捧げています」(X氏)

 文春は理念に基づいた編集方針を貫き、組織運営まで徹底的に運用することで、結果的に他誌に先駆けた報道ができ、ビジネスも成立するという好循環が成り立っているのである。これは決して雑誌業界だけの話ではなく、一般のビジネスにおいても参考にすべき点が多いといえるだろう。
(文=新田龍/株式会社ヴィベアータ代表取締役、ブラック企業アナリスト)

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