『日本懐かし即席めん大全』(山本利夫/辰巳出版)
ダ・ヴィンチニュース

 インスタントラーメンを一度も食べたことがないという人はほとんどいないだろう。そう思えるほど日本の食文化に浸透しており、一般家庭の身近にある「即席めん」。漫画『オバケのQ太郎』に登場する小池さんというキャラクターが即席めん好きなのはよく知られているし、即席めんを調理して提供する「インスタントラーメン専門店」まで存在するのだから、人気のほどが分かろうというものだ。
 そういう国民食であるから、人それぞれに思い入れの強い商品は当然あるだろう。中にはもう販売を終了してしまったものもあるかもしれない。そういうアイテムを含めた即席めんの歴史を振り返ろうというのが『日本懐かし即席めん大全』(山本利夫/辰巳出版)だ。本書は1958年に日清食品が「チキンラーメン」を発売してから今日までの即席めんの足跡を、人気ブランドや個性的な商品といった視点で紹介している。

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 前述の通り、即席めんの歴史は1958年の「チキンラーメン」から始まった。そしてそのチキンラーメンは、現在でも当時と変わらぬ味と名前で販売されている。いかに愛されている商品であるか、容易に想像がつくだろう。本書ではこうしたロングラン商品を中心に、各メーカーの主力ブランドをパッケージ写真付きで掲載。著者の私物であるのか、中には色あせた値札がついているものもあり、何ともいえない味を感じさせる。

 本書での即席めんの分類は、いわゆる中華麺系の「ラーメン」と、うどんやそばといった「和風めん」、そして「やきそば」が続き、それ以外を「ユニーク」としている。さらにそこから「袋めん」と「カップめん」に枝分かれするので、その数は膨大だ。年間の発売銘柄数は1300以上というから、販売競争の熾烈さがうかがえる。そして年間300銘柄以上も新製品が投入され、その多くが時代の徒花として消えていくのだ。もちろん本書でもそういうアイテムが目白押し。「棒棒鶏(バンバンジィ)風味」や「楊婦人(マダムヤン)」など、懐かしい顔ぶれが並ぶ。その中でも個人的に印象に残っているのは、やはりハウス食品の「シャンメン」だ。味がどうとかではなく、CMである。「わたし作る人、ぼく食べる人」というセリフがあったのだが、それが差別的だと批判を受けて放送中止となってしまったのだ。商品もいつの間にか見かけなくなり、記憶にのみ残ることとなった。

 人の記憶を惹起するという点では、地方で販売されている即席めんの紹介も見逃せない。西日本出身の私としては、サンポー食品の「元祖焼豚ラーメン」や徳島製粉の「金ちゃんヌードル」が馴染み深い。関東でも稀に入手できるが、やはり懐かしの味というべきものであろう。また日清食品の「どん兵衛」のように西日本と東日本でスープの味を変えているものもあり、即席めんは「地方グルメ」としても注目すべき存在といえる。

 著者の山本氏はコラムで、幼い日にマルちゃんの「たぬきうどん」を食べようとして火傷したという思い出を語っていた。そういう即席めんにまつわる記憶は誰にでもあるものだろう。受験に落ちたときに食べた苦い思い出かもしれないし、失恋時に食べた悲しい記憶かもしれない。しかしどのような思い出があるにせよ、食べているときは皆、心温かなハズだ。誰にでも簡単に作れて、幸せになれる。それこそが即席めんの存在意義なのかもしれない。そして食べた人々の笑顔こそが、チキンラーメンの生みの親・安藤百福氏の願いだったと、今はそう思える。

文=木谷誠(Office Ti+)

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