数年前の『マンスリーよしもとPLUS』に載った又吉さんの本棚を見て、坪内氏は「すごくいいんだよ。でもシブすぎて、この人はお笑いの世界でやっていけるのかしら?と思った」
日刊SPA!

週刊SPA!の人気連載『坪内祐三×福田和也 文壇アウトローズの世相対談「これでいいのだ!」』。今回は、文芸評論家・坪内祐三 特別編として、お笑いコンビ・ピースの又吉直樹さんとの対談をおおくりします。

 今回のゲストは、又吉直樹さん。処女作『火花』で芥川賞を受賞し、250万部のベストセラーを記録した又吉さんは、小説を執筆する前から坪内氏と縁があったそうで――。

◆ふざけてるのに、まともな発言と思われて心が折れたりします

坪内:最初に会ったのは、神保町なんだよね。五反田の古書展で古本を買ったあと、神保町に移動して、じゃあ飲みに行くかってときに交差点のところに偶然又吉さんがいて。

又吉:そのときの坪内さんが渋かったんです。僕が「うわ、こんなところで」と言ったら、「こんなところだから会うんでしょう」と。

坪内:それにしても、又吉さんの芥川・直木賞のパーティはすごかったね。綿矢りささんとか西村賢太とか、話題になったことはたくさんあるけど、そういうレベルじゃなかった。報道陣も多かったけど――テレビの人はトンチンカンなことを言うからね。又吉さんの挨拶もよかったし、羽田(圭介)さんの挨拶もすごくよかった。オレ、羽田さんがその後テレビに出まくってるのは立派だと思うんだよね。昔と違って小説一筋じゃ食えないから、テレビに出てお金を稼いで小説を書く――大島渚システムだよね。大島渚はテレビで稼いだお金で映画を撮ってたわけだから。羽田さんはかなりクレバーだよ。ああ見えてデビューが早いから、いろんなことを見てるよね。

又吉:不思議やなと思うのは、小説家の羽田さんがテレビに出たら変なことを求められるじゃないですか。それは「小説家やのに変なことをやってる」って面白さがあると思うんですよ。それが、僕はずっと変なことを言う仕事をしてきて、テレビでも変なヤツとして扱われたのに、小説を書くとまともなコメントを求められるようになったんです。単にふざけてても、「何か意味があるんじゃないか」と思われたりして。

坪内:やりにくいでしょう。

又吉:2人で出るときは相方がツッコむから簡単なんですよ。ただ、一人で出てふざけたとき、皆に「なるほど」とか言われると心が折れそうになりますね。聞く側がどう受け取るかで、発言って全然変わってくるじゃないですか。それを感じてますね。

坪内:文学の賞、特に芥川賞を獲ると、文学青年崩れのオッサンから手紙が来るでしょう。80ぐらいになっても「芥川賞を狙ってます」みたいな人がいるんだよね。玄月さんが芥川賞を受賞したとき、彼は大阪文学学校出身だから、OBのオッサンたちから批判の手紙が来て大変だったらしいよ。「お前ごときの作品が賞を獲るなんて、芥川賞もおしまいだ」と。

又吉:手紙は結構来ますね。批判されると腹も立つんですけど、一番怖いのは自分が納得する批判ですね。「うわ、そこは目が行ってなかった」っていうときは気になります。ツイッターとかの、パターン化された批判の仕方やったら、「こいつはもしかしたらすごい才能がある人間なんじゃないか」っていう恐怖感がありますよね。手紙の場合は、2枚書いてくれたら、その人がただの変なヤツやってわかるんで、その安心感はあります。

坪内:やっぱり、『火花』を発表してからは手紙を送ってくる年齢層も広がった?

又吉:年配の方からもだいぶもらいましたね。「頑張れ」とか、「久しぶりに小説を読んで懐かしかった」と書いてくれた方もいます。

坪内:あの話は年配の人にも響くよね。昔、『グリニッジ・ビレッジの青春』って映画があったでしょう。あれはニューヨークで演劇のスターを夢見る青年たちのドラマだけど、芸事の世界に共通する話だよね。かつては映画の世界にもそれがあって、大部屋だった役者がワッと引っ張り上げられたりね。お笑いの世界にはまだそれが残ってるんだね。

又吉:いろんなジャンルの人から「共通する部分があった」と言われます。

※この対談は週刊SPA!3/1号「これでいいのだ!」坪内特番 ゲスト又吉直樹(前編)より、一部抜粋したものです

<構成/橋本倫史 撮影/山川修一(本誌)>

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