画像はTIME(2016年3月21日号)より
TOCANA

「TIME」誌の欧州版2016年3月21日号の表紙に、暴行されて妊娠した17歳の女性のヌード写真を掲載したことが、物議をかもしている。

 発端は、カリフォルニア大学の社会学者ゾイ・サムジー氏が、表紙について「TIME」誌に抗議したことだ。「弱い立場にある暴行の被害者を裸で表紙にするとは何事だ。ボスニア紛争でも同じような報道をしたのか、金儲けのために利用しているのではないか」と問いただしたのだ。

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■世界に訴える写真の力

「TIME」誌の表紙飾ったのは、南スーダンの内戦で暴行され、妊娠してしまったアヤックと呼ばれる女性だ。戦闘で家族をすべて殺されてしまったことに加え、暴行された際にHIVに感染してしまうという地獄の体験をしている。今後、結婚や子どもを持つことが難しくなってしまった彼女は、生まれてくる子どもだけが家族となるため、その誕生を待ち望んでいるということだ。

 そんな彼女の写真を撮影したのは、リンジー・アダリオという写真家である。紛争地域で戦場カメラマンとして10年以上活動している彼女は、自分自身も2011年、リビアでの取材中に性犯罪の被害にあっている。その経験から、暴行の被害者に対して十分に配慮しているということであった。

 この表紙について、サムジー氏以外から寄せられた意見は概ね「TIME」誌に同情的なものであった。米「ナショナルジオグラフィック」誌の写真家パトリック・ウィッティ氏も、「この表紙が戦争における性犯罪を終わらせる」とコメントし、擁護している。厳しい現実を伝えるために、人々の想像を喚起するような訴求力の強い写真を使うことは、ある程度許容されていることなのかもしれない。

 実際に今までも戦争報道において、たくさんの写真が報道の役割を果たしてきた。その中にはベトナム戦争中にナパーム弾から逃げる少女を撮影した、「戦争の恐怖」(1972年)という写真のように裸体を写しているものもある。そのことに鑑みると、今回の批判はすこし過敏であるようにも思える。


■悪の根源はどこにあるのか

 しかしサムジー氏は、アヤックさんをさらし者にしたことに対してのみ怒っているのではなかった。彼女は、欧米メディアが人種や地域によって取り上げ方を変えているのではないかと疑っているのだ。

 たとえば、「TIME」誌は2014年5月26日号でも暴行の特集をしている。当時コロンビア大学の学生であったエマ・スルコウィッツさんが学内寮で暴行され、それに大学がきちんと対応をしなかったため、抗議の意味を込めて犯行現場にあったマットレスを持ち歩いたことから、学内暴行が話題になったからだ。このとき、妊娠の有無の違いはあるが、スルコウィッツさんは表紙に出ていない。サムジー氏はそこに、欧米メディアが第三世界を他人事のように考えている事実が表出していると考えている。

 この点について、メルボルン大学の政治学の研究者サハ・ガムコー氏も、解釈のしやすい表紙を載せることで、その地域は野蛮であるとか、戦争は本当によくないものだという安直な感想だけを欧米社会にもたらしてしまう可能性があると主張している。

 南スーダンの社会が荒廃した原因は何だったのか。アフリカを植民地として、文化や社会を破壊したのは誰だったのか。インパクトのある写真はそのような視点をぼかしてしまい、今ある犯罪にのみフォーカスさせる危険性があるのだ。


■繰り返し批判を浴びている「TIME」誌

 「TIME」誌は以前にも、タリバンによって鼻を削ぎ落とされた、アフガニスタンのビビ・アイシャさんの写真を表紙に使い、批判を受けている。こちらも非常にインパクトのある写真で、2011年の世界報道写真大賞を受賞しているが、欧米がアフガニスタンに干渉した背景を無視して、タリバンの悪行を強調し世論を誘導するものだと指摘されていた。「TIME」誌は同じことを繰り返しているわけである。

 アフリカやアフガニスタンと同様に、欧米社会が混乱の原因を作った中東では、現在収集がつかないほど混沌が広がってしまっている。もちろん他者によって原因が作られたからといって、現代の犯罪者の罪が無くなるわけではない。しかし、このような写真1枚をとっても、第三世界の人々からすれば、欧米社会が歴史に対して目を背けているよう見えてしまうということなのだ。


※画像は、「TIME」(2016年3月21日号)より

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