プレジデントオンライン

ディスカウント大手のドン・キホーテが従業員に違法な長時間労働をさせたとして、東京労働局が執行役員ら8人と同社を1月28日に書類送検した。従業員6人に労使協定で定めた3カ月120時間を超える残業をさせた容疑だが、2店舗では2人に最長415時間45分、他の3店舗では4人に最長265時間30分の残業をさせていた。

415時間といえば1カ月138時間。1日8時間、週40時間の法定労働時間から計算すれば、1日平均6時間を超える残業だ。9時始業、18時終業(休憩1時間)の会社であれば、深夜12時を過ぎなければ帰宅できない異常ともいえる長時間労働だ。これは極端な例としても、長時間労働は同社だけの問題なのか。

そこで5人の人事担当者に集まってもらい、残業の実態について本音で語ってもらった。そこで共通するのはドン・キホーテが氷山の一角にすぎないという衝撃的な事実だった。

【ゲーム】うちは職種ごとに残業時間の上限が月17時間程度という数値目標があり、なんとかその範囲内に抑えようという意識が全社的にある。管理部門はその範囲内で回しているが、営業職など顧客対応の職種は繁忙期に40時間超の社員が多数出てくる。

【建設】一定以上の残業は記録しないように指導するとか、社員自ら残業を記録しないケースが横行していると思う。つまり、実際の残業時間と申告された残業時間のギャップが大きい企業が多いのが実態ではないか。

【電機】さすがに3カ月で415時間の残業は極端だが、月60時間程度の隠れ残業をしている人が結構いる。申告した残業が月に40時間なら、実際には100時間近くの残業をしているのではないか。とくに管理職の長時間残業が常態化している。

【食品】管理職には残業代は出ないが、すごく残業している。うちの製造部門では工場長が朝の5時に出勤し、課長も6時前には出勤し、6時から会議が始まる。これは流行の朝方勤務でもなんでもない。せめて早く退社するように言っているが、夜の8時、9時まで残業している。

【建設】部門別の残業代の予算を設定し、その範囲内で収めるように要請している。もちろん残業をつけるなとは法的に言えないし、上司もそこまでは言えない。一方、社員の側も残業時間を多く記録すると、能力がないように思われるので少なくつけてしまう。結果的にサービス残業が増えることになる。

【IT】ドンキの送検はカトク(過重労働撲滅特別対策班)の見せしめ的意味合いが強いね。ABCマートの摘発など小売業や飲食業が続いているが、次はIT業界じゃないかと戦々恐々としている企業も少なくないよ。

【ゲーム】そう。送検までされる企業はごく一部の企業にすぎない。実はうちも数年前に是正勧告を受けた。うちは裁量労働制だけど、社員の多くが月40時間以上残業するのが当たり前になっていた。勧告を受けてから部門ごとに残業時間を全管理職に公開し、部下の残業時間を全社ベースで厳密に管理するようにした。

■残業理由の多くは「上司や役員のこだわりのため」

長時間労働はドンキに限らない。表には出ないがじつは労働基準監督署から是正勧告を受けている企業が多く、その対策に人事部は苦慮しているという。ではなぜ長時間労働はなくならないのか、その原因について聞いた。

【建設】「成果を出すならば、時間をいくらかけてもいい」という考え方がなくならない限り、長時間労働はなくならないよ。経営トップ層は、「自ら若いときから猛烈に働いてきたからこそ会社が存在し、今の地位を築いた」という思いが強い。少ない時間で成果を出す社員にいい人事評価を与えるようにしなければなくなることはない。

【IT】根本的には日本人特有の生真面目さがあるんじゃないか。「同じ時間を共有しなければいけない」という暗黙の価値観、「上司の目を気にするヒエラルキー意識」が強い。先日の雪の日の出勤風景なんか象徴的だよ。なんであんなに無理して出社するんだろうと思ったよ。

【電機】会議資料や提案資料もなんでもパワポにするなど、資料の品質にルールがないために時間をかけすぎている。加えて会議や打ち合わせに人数をかけすぎているという問題もある。

【食品】IT化の弊害もあると思う。IDパスワードを使った仕事が増えて、何から何まで全部1人でこなさないといけない。交通費の精算や商品の引き当て、顧客データの入力などは忙しいときは事務の社員が見かねてやってくれたが、システムの権限設定を行わないと頼みたくても頼めないし、会社に戻って自分でやるしかない。

【電機】働き方で言えば自分自身の仕事を断捨離し、優先順位をつけて仕事を行う能力がある人はOKだが、それがないと結局ダラダラやることになる。「仕事が終わらなければ残業してでもやる」というタイプの人はダメだね。

【IT】そう。ゴールに向けてタスクを洗い出し、プロセス・スケジュールを組んで仕事を進めることが不得手だと、漏れやムダ、根回し不足でやり直さなくてはいけなくなる。結局、業務量が増えて長時間労働につながっていく。

【建設】残業理由の多くがじつは上司や役員の仕事に対する細かさやこだわりのためだったりする。指示された仕事は今日中にやらなければ許されないとか、資料の誤字脱字は許されない、事前説明がないと会議にかけてはいけないという暗黙のルールや長時間労働を助長する風土が、個人の問題よりも意外と残業の原因になっている。

【ゲーム】そう。そもそも定時に帰ろうという気がない人や単に仕事が遅いといった個人に問題がある場合も多いが、上司のマネジメント力不足も原因として大きい。組織全体で長時間労働が当たり前だと諦めてしまっているパターンが非常に多く、なぜ定時に帰れないのかをとことん突き詰めて解決しようとする努力が圧倒的に足りないと思う。

■働き盛りの日本人の5人に1人が「過労死ライン」

長時間労働の原因としてトップ層の意識や上司のマネジメント力、個人の働き方、あるいは効率化を促すはずのIT化が逆に助長しているなど様々な要因が浮かび上がる。じつは公式の統計でも日本人の労働時間は先進国でも突出している。日本の法定労働時間は週40時間だが、49時間以上働いている労働者(週9時間、1カ月約40時間の残業)は23.1%。対してドイツは11.7%、イギリス11.6%。最も働いていると思われるアメリカでさえ15.4%(ILOSTAT Database2010年)にすぎない。

週60時間以上(20時間以上の残業)働いている男性雇用者の割合は9.1%(総務省「労働力調査」2012年)だ。フルタイムに近い週35時間以上の労働者に絞ると、12.6%に跳ね上がる。さらに働き盛りの30代では20%、40代は19.1%になる。月間の平均残業時間は86~87時間になるが、月80時間というのは、健康障害を引き起こして過労死してもおかしくないと国も認める「過労死ライン」だ。

■長時間労働は日本企業にとって「合理的」

日本の長時間労働体質の根本的な原因はどこにあるのか。賃金・労働時間データを駆使し、日本人の労働時間を実証的に分析している慶應義塾大学商学部の山本勲教授は「日本的雇用慣行にある」と指摘する。

「新卒で採用し、彼らに教育投資して一人前になったらそのリターンを得るために一生懸命に長く働いてもらうのが日本的雇用慣行だ。スキルを身につけた労働者を途中で辞めさせるのは大きな損失であり、雇用保障とセットで長く働いてもらうのは企業にとっても合理的。また、景気がいいときは残業で長時間働いてもらい、不況期には残業を減らして人件費を調整することができる。小売業などサービス業は製造・金融業に比べて日本的雇用慣行はそれほど強くないが、ドン・キホーテの場合、インバウンド需要などを背景に人手不足が影響し、限られた人数で長く働かざるをえないという要因もあるのではないか」

長時間残業を減らすのは容易ではない。現在、政府は大企業に適用されている月60時間超の時間外割増率50%以上を中小企業にも拡大することを検討している。だが山本教授は「割増賃金率を上げると人件費は増えるが、ボーナスを減らすことで調整が可能になる」と指摘する。

では企業各社は残業を減らすためにどのような対策をとっているのか。全社平均の残業時間が月10時間という中堅IT企業の人事担当者は「月単位で自分で就業時間を調整できる月間フレックス制度の導入や、在宅勤務など場所や時間を問わないリモートワークの推進、テレビ会議による打ち合わせ時間の削減などを進めている」と語る。

建設業の人事担当者は「出退社のゲート通過データと申告した残業記録を人事部が月単位でチェックし、組織・個人単位で改善に取り組むように指導している」と語る。

社員の残業時間とストレスチェックで長時間労働をさせている管理職を降格させるなど排除しようとしていると語るのはゲーム会社の人事担当者だ。

「人事評価などオフィシャルな情報以外に部下・同僚・上司が評価する『360度評価』、職場の『残業時間』と『ストレスチェック結果』の3つで管理職の適性を判断している。上司に対する部下の評価が低い職場はストレス度も高くなるなど相関している。加えて職場の残業時間が月平均50時間を超えていれば完全に管理職失格だ。パフォーマンスが高くても降格させるか、担当部署を外すようにしている」

また同社は社員の残業抑制策としてボーナスで格差をつけている。人事担当者は「人事評価が低いのに残業時間がやたらに長く、残業代を多くもらっている社員が、残業が少なく人事評価が高い社員よりも報酬が高いというのはどう考えても不公平。残業が少ない社員はボーナス時に50万~100万円増額し、残業が多い社員は同額を差し引いている。生産性の高い燃費のいい社員に報いるのは当然」と指摘する。

長時間労働と生産性は必ずしも結びつかない。山本教授は「分析の結果、必要な労働時間を超えて非効率的に働いている時間が週に2~3時間あることがわかった。小さいが年間では13~14日分に相当する。効率的な働き方を追求する必要があるが、加えて自分の仕事はここまでだというやるべき仕事の内容を明確化することだ。仕事の進め方が明確になっているほどパフォーマンスも高いという結果も出ている」と指摘する。

実際に人事担当者からも「業務をできる限り細分化して見える化し、誰でもでき、後工程に渡せる仕事を増やすことが必要だ」という意見や「人事評価項目に少ない時間にどれだけ生産性を上げたのかという生産性の指標を入れる予定だ」との企業もあった。

また、国の労働時間政策も重要な鍵を握るが、食品会社の人事担当者は「ノー残業デーをやるとなると、営業から顧客に対応できないという文句が絶対に出る。そうであれば残業を許している現行の労使協定も廃止すればよい。そもそも日本の法律は残業してはいけないのが原則だ。労使協定がなくならない限り長時間残業はなくならないと思う」と語る。

少々乱暴な意見かもしれないが、日本の長時間労働の常態化は労働人口が減少する中で、生産性の低下や女性活用を妨げる大きな要因になっているのも事実だ。個々の企業の抜本的な見直しが急務になっている。

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