2016年ももうすぐ終わりだが、今年はアニメや特撮の映画が盛り上がった年だった。それは「2016ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされた30語の中に「シン・ゴジラ」「君の名は。」のふたつが入っていることからも明白である。他に京都アニメーション製作の『聲の形』という作品もいまだに好調で勢いを感じさせるが、実はこの流れに続くべく11月12日に封切られた劇場アニメ作品がある。それが『この世界の片隅に』だ。

 ロードショー直後からネットなどで「名作」「素晴らしい」といった絶賛の声が上がり、一部には「今年一番の作品」という意見も。にわかに注目を集める本作だが、もちろんどんな作品かご存じないという人も多いだろう。そこで『この世界の片隅に 劇場アニメ公式ガイドブック』(『この世界の片隅に』製作委員会/双葉社)を頼りに、本作のさまざまな魅力について迫ってみたいと思う。

 やはり気になるのはストーリー部分だろうが、ネタバレは本意ではないので、公式サイトで紹介されている程度のあらすじでご容赦願おう。

 主に舞台となるのは昭和18年から20年頃の広島。広島市江波に暮らす「浦野すず」に縁談が持ち上がる。相手は呉の鎮守府で海軍軍法会議所の録事(書記官)を務める「北條周作」という青年。生活拠点を呉へと移し、北條家での生活を始めることとなった「北條すず」。夫の両親に義姉の径子とその娘・晴美を新たな家族として、すずは日々の暮らしを積み重ねていく。しかし戦争の影は、彼女の近くへ迫りつつあった──。

 以上が簡単なストーリーで、いわゆる「戦時中」の物語だ。ヒロイン・すずの戦時下での生きざまが細やかに描かれ、各所で感動を呼んでいる。「戦時中」ということで辛いシーンを想像する向きもあると思うが、確かにそんなシーンが皆無ではない。特に昭和20年の広島を舞台にすれば、あの「原子爆弾」と無縁でいられるはずもない。しかしそんな悲しい場面以上に、すずや周囲の人々の「生きていることの素晴らしさ」を丹念に描いていることが、多くの人たちからの絶賛を生んだのである。

 本作の監督である片渕須直氏は「すず」という架空のキャラクターを「実在の人物」として感じてもらいたかったという。そのため背景となる戦時中の広島を徹底的に調査し、当時の建物や町の様子などをリアルに再現したのである。また人物の動きを「本当に動いているように見せる」ため、1カットの動画枚数が300カットに及ぶこともあったとか。こうした作業の積み重ねによって、フィクションであった物語があたかも現実であるかのような感覚を観客に与え、共感となって広がったのかもしれない。

 製作者のこだわりが満載の映画ではあるが、上映までの道のりは平坦ではなかった。片渕監督が、本作を担当したアニメ制作会社「MAPPA」の丸山正雄会長に相談したのが「MAPPA」設立前後。その頃から企画は動いていたのだが、資金が集まらず難航したのだ。だが「クラウドファンディング」でパイロットフィルムの資金を集める名目で出資を募ったところ、目標額の2000万円を大きく上回る3500万円以上が集まった。そこから制作は軌道に乗り、晴れて公開日を迎えた。企画始動から実に6年が経過していたのである。

 この『公式ガイドブック』にはストーリーも詳しく掲載されているため、映画を観ていない人にはオススメしない(ネタバレを気にしない人は別)。しかし制作スタッフや声優のインタビューなど作品の理解をより深める内容なので、鑑賞後にはぜひ一読を促したい。特に舞台となった場所の紹介は非常に詳しいので、先に述べた「流行語大賞」ノミネート語のひとつ「聖地巡礼」にも役立つこと請け合いである。

文=木谷誠

『この世界の片隅に 劇場アニメ公式ガイドブック』(『この世界の片隅に』製作委員会/双葉社)