「Thinkstock」より
Business Journal

 結婚生活は、他人同士だった男女が一緒に暮らすものだけに、お互いに不満を持つ夫婦も多いことだろう。夫婦生活が長くなればなるほど、その不満はさらに大きくなっていく。

『夫に死んでほしい妻たち』(朝日新聞出版)の著者で労働経済ジャーナリストの小林美希さんによると、特に妻が抱える不満は夫の比ではないという。心の奥底で、夫に「死んでほしい」と思っている妻が非常に多いのだ。

●妻にとって離婚より死別のほうが得?驚愕の理由

『夫に死んでほしい妻たち』は、家事や育児における妻の「してほしい」と夫の「しているつもり」の間にある大きな溝を浮き彫りにし、長年怒りをため込んだ妻が「死ねばいいのに……」と夫の早死にを望むという、なんとも恐ろしい内容のルポルタージュだ。

 小林さんが本書を執筆したのは、前著の『ルポ 母子家庭』(筑摩書房)でシングルマザーたちを取材したことがきっかけだったという。

「たくさんの女性を取材してきましたが、『離婚したくてもできない』という妻の数はかなりのものになります。そんな女性の多くは、『夫と離婚したい』と思いながらも、収入面の不安や子どもの教育などの問題から、離婚に踏み切ることができない。すると、どうなるかというと、『どうせ夫と離婚できないのなら、いっそのこと死んでほしい』という結論にたどり着くわけです」(小林さん)

 この「死んでほしい」には、感情論だけではなく、合理的な理由も含まれている。実は、妻にとって、離婚するよりも夫に死んでもらったほうが経済的メリットが大きいのだ。小林さんによれば、妻がそのメリットに気づくきっかけは住宅ローンが多いという。

「住宅ローンを組むとき、金融機関の融資担当者が『ご主人が亡くなられた場合を考えて、ローンの契約期間は少しでも長くしておいたほうがいい』という営業トークをすることがあるそうです。ローンの名義人(=夫)が団体信用生命保険に加入していれば、仮に返済途中で死亡した場合、残りの返済は免除されるからです。さらに、夫が死ねば遺族年金や生命保険も入るので、当面の生活には困りません」(同)

 だから、妻たちは「離婚のわずらわしさを考えたら、絶対に死別のほうが得だ」と口をそろえて言うのである。

●こんな夫が妻から「死んでほしい」と思われる

 とはいえ、「夫に死んでほしい」と願うのは物騒で極端な結論であることは否めない。妻たちは、なぜこんな考えに行き着くのだろうか。小林さんは「日本の社会構造に原因がある」と分析する。

「昔と違い、現在の日本では、結婚後も妻が働くのが当たり前になっています。しかし、いざ妊娠して出産となると、育休を取るのは女性側というケースが圧倒的に多い。せっかくやりがいを持って働いていたのだから、妻たちが『なぜ、私が女だからということで当然のように仕事を中断しなければいけないのか』と疑問を持つのは当然です。特に、キャリアを重ねてきた女性の場合、『これまでの努力を断ち切られた』という恨みが後々まで強く残るのです」(同)

 政府は女性の活躍を成長戦略の柱に据え、「すべての女性が輝く社会づくり」を推進しているが、実際には女性が社会で輝き続けるのは困難以外の何物でもない。

 国立社会保障・人口問題研究所の「第15回出生動向基本調査」に「第1子出生年別にみた、第1子出産前後の妻の就業変化」という項目がある。それによると、2010~14年の「就業継続」は53.1%で、「出産退職」は46.9%。「就業継続」は上昇傾向にあるが、それでも約半数が出産を機に退職していることになる。

 本書でも、順調にキャリアアップをしてきた女性が、出産を機に退職を余儀なくされたケースが紹介されている。

 その女性は、育児と仕事を両立させて死に物狂いで働き、なんとか以前の年収の水準まで戻ることができたという。しかし、そのためにかかった時間は11年。さらに、小林さんによると、こうしたケースは稀であり、多くの妻たちは、仮に復職できても育休前と同等のポジションに就くことはほぼ不可能。時短勤務を採用している企業もごく一部で、実際に利用している人も7%程度しかいないという。

 そうやって妻が我慢している一方、そのそばでは、夫が当たり前のように働き続けている。妻側のフラストレーションがたまるのも無理はないのだ。また、専業主婦の場合は経済力がないことを引け目に感じ、「自分が我慢しなければ」と思い込んでいるケースが多いという。

「経済学的には、家事はれっきとした労働です。ところが、それを理解できない夫たちは、専業主婦に対して『俺が食わせてやっている』『家事や子育ては楽でいいよな』などと、まるでお門違いなことを言います。本書でも紹介していますが、そういう考えの夫は、間違いなく妻から『死んでほしい』と思われています」(同)

●夫の歯ブラシでトイレ掃除、遺骨は山手線に放置

 夫への憎しみが頂点に達すると、妻たちはどういう行動に出るか。ある妻は、腹いせに夫の歯ブラシでトイレを磨き、また元の場所に戻しておくという。また、「夫が死んだら、遺骨は山手線の車内に置いてきてやる」とうれしそうに話す妻もいるという。

 鉄道会社に遺失物として回収された夫の遺骨は、持ち主が現れなければ警察に届けられ、やがてどこかの寺にひっそりと納骨される……。それくらい、妻たちは不満を長年ため込んでいるのだ。

 では、「夫に死んでほしい」と願う妻たちの不満は、どうすれば解消することができるのだろうか。

「当たり前の話ですが、妻としっかり話し合うこと。これに尽きます。中途半端に家事や子育てをしてみても、妻たちに『たったそれだけ?』と思われ、逆に不満が増す可能性があります。妻が今、何を我慢していて、何を望んでいるのか? それを聞いた上で、自分はどんなことならできるのかを提案してみる。それをやれるかどうかで、その後の夫婦関係が大きく変わっていくでしょう」(同)

 本書では、多くの恐ろしい「夫に死んでほしい事案」を紹介したのち、夫に対する救済方法もきちんと書かれている。そのなかにあるのが、「家庭内では100%妻が正しい」という一文だ。この意味をきちんと理解し、妻と話し合うことから始めれば、妻に「殺される」可能性が少しは低くなるかもしれない。
(文=中村未来/清談社)

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