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バラエティ番組でしばしば繰り返される「お前そっちなんじゃないの」というやり取りに笑ったことがある人もいるだろう。いじっている人もそれを見て笑っている視聴者も悪意を持っているわけではない。しかしそれによって傷ついている人がいることを忘れてしまっていないだろうか。

テレビ番組や週刊誌、新聞などのメディアはLGBTの人々をどのように扱っているのか、今の扱い方には問題がないのか。こうした問いに答えるべく、2月21日、東京弁護士会館で「メディアとLGBT "ホモネタ"って笑っていいの?」というシンポジウムが開催された。

当日は、まず東京弁護士会の寺原真希子さんから、各メディアの放送基準やガイドラインについて紹介があった。続いて、タレントの牧村朝子さん、Buzz Feed記者の渡辺一樹さん、評論家の荻上チキさんらが議論を交わした。

「ゲイ疑惑」も「レズ疑惑」もオワコン

登壇者の1人である牧村朝子さんは、レズビアンであることを公表し、タレント・文筆家として活動している。レズビアンのタレントとして数々の取材を受けるなかで、納得のいかない扱われ方をすることもあったという。

「私はフランス人女性と結婚して同居しています。あるテレビ番組が自宅に取材に来たとき、『どちらが男役ですか?どちらが女役ですか?』と聞かれました。『私たちには、男役・女役という役割分担はありません』と答えたのですが、『どちらが男役なのかはっきりしないと視聴者に伝わらないので、かっこいい方を男役にしますね』と言われてしまいました。

他にもレズビアン同士で飴を口移しして下さいと頼まれたり、『どんなセックスするの』と聞かれたり不愉快な思いをしてきました」

牧村さんは、週刊誌やスポーツ新聞が報じるタレントの「ゲイ疑惑」「レズ疑惑」も「オワコン」だと一蹴する。またLGBTの人々がテレビ番組の中で「LGBT枠」に押し込まれていることにも疑問を感じるという。

このように、メディアのあり方に疑問を持っている牧村さんだが、制作の現場を直に見てきただけに、ただ単にメディアを批判しても仕方がないと感じているという。

「『かっこいい方を男役にしますね』と言われたとき、私たちはそのような表現はしないでほしいとお願いしました。しかしADさんは、『ディレクターからの指示だから変えられない』と言うんです。結果として、ADさんが私たちとディレクターの間で板挟みになっていました。取材を受ける当事者や現場で取材に当たる人たちの声がディレクターに届くような風通しの良い職場環境が必要だと感じました。

新聞やニュースサイトでも同じで、記者の人がおかしいと思ったときデスクに異議を唱えられる環境が必要だと思います」

そもそもテレビ制作に携わる人はとても忙しく、「家にも帰れず、お風呂にも入れず、ご飯も食べられていない人が多い」という。テレビ番組におけるLGBTの取り上げ方を直すためにも、制作現場の労働環境改善が必要だ。

「そもそもテレビ番組の制作現場は疲弊しすぎていると思います。上に物を言っても怒鳴られたり、殴られたりする。そんな状況では勉強する時間もなく、ウィキペディアの間違った記述を鵜呑みにしてしまうのも仕方ありません。番組制作に掛ける時間もなく、過去に放映されたものと同じような偏見まみれの番組を作ってしまう。メディアの職場環境や労働条件を改善していく必要もあると思います」

トランスジェンダーの人も結婚して普通に生活しているという情報発信を

BuzzFeed記者の渡辺一樹さんは、これまで「一橋大・ゲイとばらされ亡くなった学生」などLGBTにまつわる記事をいくつも執筆してきた。第一線で取材にあたってきた渡辺さんは、「LGBT問題への意識はどんどん高まってきている」と感じている。

「LGBTを取り上げる記事はどんどん増えていますし、反響も大きくなっています。LGBT問題への意識が高まってきていることを感じています。しかし大手のメディアでもレズビアンの女性を『LGBT女性』と呼称するなど、LGBTへの理解が十分だとはいえません。今後、LGBTへの理解がますます深くなっていけばよいと思います」

現状を改善するためには、メディアの中に「ブレーキ役」が必要だという。

「例えば、政治家の疑惑について取材していたとき、その政治家がゲイかもしれないという情報が流れてきたことがありました。週刊誌ではそのことが取り上げられていました。

そうした状況で、僕はその政治家がゲイであることを書くのかどうかという判断をすることになります。ゲイであることを書けばもっと多くの読者に読まれるかもしれない。しかしそれは本当に書いていいのか。社会に伝える意義があることなのか。個々の記者が冷静な判断をするのはもちろん、そうしたときに歯止めになる人が必要なんです。すべての記者がLGBTについて詳しくなるのは難しいですが、編集者や専門家がブレーキを掛けることができれば状況は改善すると思います」

編集者や専門家が不適切な報道を差し止める。その一方で、積極的にポジティブな報道をすることも重要だ。

「LGBTの人々は、バラエティ番組では、エキセントリックなもの・異世界のものという扱われ方をしています。一方、真面目な報道番組では、困っているから助けなければならないという描かれ方をする。

僕は『LGBTといってもごくごく普通の人だ』という描かれ方が足りないと感じています。またトランスジェンダーの人が結婚して幸せに生活しているというようなポジティブな情報や同性が好きでも問題ないという価値観を発信していきたいと思います」

ゲイもレズビアンも「タグ」の1つに

荻上チキさんは、アカデミックな記事を配信する「シノドス」の編集長で「ストップいじめプロジェクトチーム」代表でもある。

荻上さんは、昨今のLGBTを巡る言説に対して様々な問題提起をしていた。特に、バラエティ番組での「ホモいじり」「オネエいじり」といったやり取りを真似ることの危険は、私たちも自覚している必要があるだろう。

「バラエティ番組でのやり取りは、日常のコミュニケーションの雛形を提供している部分もあります。例えば『お前そっちなんじゃないの』といったいじり方がお笑い番組で多用されていると、子供などがそれを日常生活で模倣するということが起きるわけです。そこで誰かが『それは違うんじゃないか』と声を上げたり、当事者がどう感じているかを可視化したりすることが重要だと思います」

また今後、メディアがLGBTの人々をどう取り上げていくべきかという点については、セクシュアリティーを「タグ」として扱おうと語っていた。

「様々な運動の初期段階では、少数者としてのアイデンティティに依拠し、当事者性を打ち出すことで権利を主張します。しかし徐々に、性的少数者であるということを、数ある『タグ』のうちの1つとして扱うことが必要なのではないかと思います。例えばレズビアンの人は、当然ながらレズビアンとしてのみ生きているわけではありません。よくTwitterのプロフィール欄に、好きなものや属性などをいくつも書き連ねている人がいますね。性に関することがらも、その人が持つたくさんの性質のうちの1つにすぎません」

マツコ・デラックスさんやGENKINGさんをはじめとするLGBTのタレントたちは、メディアに頻繁に登場し、私たちにとってはとても身近な存在だ。だからこそ、メディアの扱い方が妥当なのかどうか再考する必要があるだろう。

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