大前研一氏が提唱する「宅配公社」構想とは
NEWSポストセブン

 このごろよく言われる「働き方改革」とは、いったい何を変えればよいのか。働く時間だけの問題なのか。経営コンサルタントの大前研一氏が、悪者扱いされることが多い残業と働き方について解説する。

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 政府は「働き方改革」の目玉として、長時間労働を是正するための労働基準法改正案を検討している。残業時間を事実上無制限に増やせる現在の「36(サブロク)協定」に制限を加え、労使が合意した場合の残業時間の上限を月45時間・年360時間、最大で月60時間・年720時間(繁忙期は1か月間に限り月100時間)までとすることや違反企業に対する罰則を設けることなどが柱となっている。しかし、私にはこの議論の意味が全くわからない。

 そもそも仕事には大きく分けて「定型業務」と「非定型業務」がある。定型業務とは、データ入力や伝票整理、記帳、請求書作成など作業内容に一定のパターンがあってマニュアル化、外注化が可能な仕事で、世界中どこへ行ってもSOP(Standard Operating Procedure/標準作業手順書)があり、具体的な作業や進行上の手順が一つ一つの作業ごとに決まっている。

 最も自動化しやすい業務だが、日本企業の生産性は欧米企業の半分ほどなので、今後はAI(人工知能)やロボットに置き換えていかねばならない。そして「残業」というのは、この定型業務にしかなじまない言葉である。

 もう一方の非定型業務は、経営戦略の構築や事業計画の策定、新製品の企画・開発、対外的な交渉など個人の思考力、判断力、経験が要求されるクリエイティブな仕事であり、自動化してAIやロボットに置き換えるのは難しい。問われるのは「答えを出せたかどうか」「問題を解決できたかどうか」ということだけである。つまり時間ではなく成果で計る仕事なので、極端に言えば会社にいる必要もない。

 したがって、非定型業務には「残業」という概念そのものがないのである。入社時に非定型業務を志向した人間、あるいは非定型業務にアサイン(任命)された人間は、残業代はつかなくて当たり前なのだ。

 また、もともと商品やウェブの開発などに携わる研究者や情報システム設計者、記者やデザイナー、証券アナリストや弁護士など一部の専門業務と、企業の本社における企画・立案・調査・分析などの企画業務は「裁量労働制」の対象で、残業規制の例外となっている。

 さらに今回の議論では、しばらく前に話題となった、年収1075万円以上の高度専門職を対象に、労働時間ではなく成果に対して賃金を払うという「ホワイトカラー・エグゼンプション制度」(残業代ゼロ制度)との整合性も、さっぱりわからない。

 そもそも日本企業の場合、多くの“総合職”と呼ばれるビジネスマンは定型業務と非定型業務の両方を抱えていて、仕事が定型業務と非定型業務の“霜降り肉”状態になっている。そこが日本企業の最大の問題であり、まず定型業務を切り出し、それについては残業時間を規制すると同時に、可及的速やかに自動化していかねばならない。

 ただし、飲食店やホテルなどのサービス業は別である。たとえば、牛丼店やハンバーガー店の従業員が自分の判断で非定型業務を行ない、客によって盛りや個数を多くしたり少なくしたりしたら困る。これは紛れもない定型業務だから、長時間労働やワン・オペレーション(従業員1人で全業務を切り盛りして営業すること)を厳しく規制し、きちんとした時間管理・人員管理を義務付けるのは当然だ。

※週刊ポスト2017年3月24・31日号

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