「あなたにお話することはありません!」

 渦中の人物・岸建介氏は、少し怯えた口調で電話を切ったのである。

 先日、売上を踏み倒された会社社長の訴えから、一躍注目を集めている「神戸アニメストリート」。その手口の全貌と、いち早く責任逃れに走る関係者たち。そして、神戸だけに止まらない岸氏の活動実態が明らかになってきた。

 ことの発端は、4月6日。女性向けコンテンツの企画制作を行う「創作工房」社長・中村あずみ氏が「神戸アニストに詐欺られてる話」と題してブログやSNSで被害を告発したこと。

 それによれば、同社は2015年8月、知人の紹介で「神戸アニメストリート」にて開催されたイベントの中で、アイドルコンテンツの催しと、物販、展示を実施。ところが、売上金が予定日を過ぎても振り込まれなかった。そこで、株式会社神戸アニメストリート社長の岸建介氏に支払いを催促をしたところ、当初は支払いの意志を示したものの、その後は「払えねえもんは払えねえ」「うるせえ」などの暴言を繰り返し、居留守や電話の着信拒否を拒否されてしまったというのである。

 しかも、岸氏はイベント前より同社に対して暴言を連発。イベント当日の会場で「創作工房」が準備をしていたところ「挨拶がない」などと怒鳴ったり、暴言を吐き続けたという。「創作工房」側が、物販のスペースを借りるため10万円を支払っているにもかかわらずである。

 このブログが公開されると、アクセスが殺到。そして、事情を知る人々によって岸氏が08年に、架空の音楽オーディションをデッチあげて500万円を詐取して逮捕されていることが明らかに。さらに、15年に環境副大臣の関芳弘衆議院議員と面会している写真などが、次々と公開された。また、この岸氏は、昨年3月にアニメ会社「ガイナックス」が関西支部として立ち上げた新会社「GAINAX WEST」の取締役であることも暴露されている。

「創作工房」のみならず、すでに確認されているだけで10数社・個人への踏み倒しが発覚している。

 この「神戸アニメストリート」は、震災後低迷していた地域の活性化として15年に神戸市が実施した「アスタくにづか地区商業活性化モデル」として立ち上げられたもの。運営は岸氏が代表取締役を務める株式会社神戸アニメストリートが行っているとされている。いわば行政が管轄する事業で行われた踏み倒し行為。ネットでは「詐岸」とまで書かれているような人物が、なぜ事業を行う立場に入り込むことができたのか。

 まず、話を聞こうと「創作工房」を訪問したのは13日。対応してくれた中村氏は「今日、こんなのが来たのですけど……」と一枚の書類を見せてくれた。

 なんと、岸氏はネットで騒ぎになっていることに気づいたのか、突然「支払う」旨を通知してきたのだ。さらにこの後、岸氏は電話でも支払う意志を伝えてきたという。また、17日になり、ほかの踏み倒し先にも一部だけの入金(詳細は避けるが、仮に56万円だとしたら6万円の部分のみ)が、なんの連絡もなく行われているという。

 どうも、うるさそうなところには支払って、必死の火消しを行っている様子。しかし、もはや問題は支払い云々では済まない。悪質な詐欺的手法を行う人物が、行政の絡む事業に参加し、かつ著名なアニメ会社の役員に名を連ねていること。中村氏も「これで終わりにすることはできない」と、強い意志を語っている……。

■「うちは関係ない!」次々と逃亡する関係者たち

 このような人物に事業を任せてしまった責任を、神戸市はどう考えているのか。

 中村氏も書いているが、「神戸アニメストリート」は、神戸市の土地を第三事業者に貸して行っている事業。つまり、神戸市と「神戸アニメストリート」が直接の契約関係にない。そのため中村氏も「神戸市が事業者に貸して、そこがお願いしたところが運営しているので、神戸市が直接何かできない」と説明されたのだという。

 だが、ここに及んでも神戸市は何も手を打たないつもりだろうか。神戸市に電話取材を試みたのは12日。すると、電話に出たのは神戸市市街地整備部の浅川一哉担当課長。

「真偽のほどはわかりませんが、ネットにいろいろと書かれているということで、今日、岸さんを呼び出して、対応するように口頭で指示をしました」

 指示を出したというと、神戸市としても責任を感じているということだろうか?

「いえ、真偽のほどはわかりません。ただ、ネットでいろいろと書かれているので……」(同)

 何度も「真偽のほどはわからない」という言葉を繰り返す浅川課長。では、事業を委託するにあたって岸氏の身元調査なども行わなかったのか。そう尋ねると、今度はこんなことを。

「神戸アニメストリートは、公募した『アスタくにづか地区商業活性化モデル事業者』に応募した、株式会社アップ・ツー・コーポレーションが連れてきた人なのでわかりません」

 そして、また「真偽のほどはわからない」という言葉を繰り返すのであった。

 では、株式会社アップ・ツー・コーポレーションは、いったい岸氏とはどういう関係なのか。会社の代表番号に電話し、「神戸アニメストリート」の件について話を聞きたい旨を述べたところ、電話に出た人物は……。

「むぐぅっ! 今、誰もいないので……」

 そこで担当者が誰か尋ねたところ、同社の岡島祐輔社長が担当しているという。今日は戻らないというので、先にFAXで取材依頼を送ったところ、こんなメールが返ってきた。

 * * *

前略 ごめん下さい。

当社は商業施設の企画やリーシング等を行っている企業でございます。

で、お問い合わせの件、受託内容についての詳細は守秘義務がございますのでお答え出来かねますが、「神戸アニメストリート」の開業を以って当社の業務は完了しており、本業務に関する未収債権や未払債務は一切ございません。

岸健介様との関係については、受託業務の一つであるテナントリーシング業務に基づいて、賃貸人様へご紹介させて頂いた先となります。

これ以上お答えする事項がございません。ご了承ください。

 わかりにくい文章だが、すでに終わった業務であり守秘義務があり喋れない。ウチは岸を神戸市に紹介しただけということらしい。いったい、同社と岸とはどういう関係なのか謎のままだ。

 * * *

 もう一つ、岸氏の関係先として注目を集めているのが、GAINAX WEST。この会社、ガイナックスとは資本関係がないとされているが、代表取締役には武田康廣という名前が。武田氏は、ガイナックスの社長でもあった人物だ。いったい、なぜこのような人物を取締役に加えてしまったのか。取材を続けたところ、事情を知るガイナックスの関係者に話を聞くことができた。

「詳細はわかりませんが、奥さん(作家の菅浩江)の関係で知り合ったという話を聞いたことがあります。でも、岸氏がどういう人物かは、まったく知らなかったそうです。なんでも、会社設立発表の15分前くらいに、岸氏の名前を見つけた人物から連絡を受けて、初めて知ったそうですよ」

 これだけ聞くと被害者のような気もするが、依然として岸氏は取締役のまま。GAINAX WESTの住所も神戸アニメストリートと同一である。踏み倒しなど、次々と悪行が明らかになる中で、どうするつもりなのか。武田氏に電話をしてみたところ……。

「岸の件? そりゃいろいろと考えてますよ。これはなんですか、取材? お断りします」

 いきなり電話を切られ、以降つながることはなかった。

 さらに、岸氏とのツーショット写真を公開していた関議員の事務所では、秘書からこんな話が聞けた。

「騒ぎになっているので、慌てて調べたのですが、アポイントメントの記録に、岸氏の名前がないんです。ということは、アポなしで来て議員が在室していたので、挨拶したんだと思います」

 議員会館では「選挙区の者です」と名乗ってアポなしでやってくる人間というのは、ままいるもの。議員としても有権者を無碍に追い返すのは難しいだろう。そう説明する秘書は「お茶くらいは出したと思いますけど、なんの話をしたかはわかりません」と困った声で語るのであった。

■「神戸アニメストリート」自体がパクリから生まれた?

「最初に岸と会ったのは、14年の夏です。アポイントもなく“神戸アニメストリートというのをつくるのでアドバイスが欲しい”やってきたのです」

 そう話すのは、「阿佐ヶ谷アニメストリート」を運営する株式会社作戦本部の鴨志田由貴氏だ。

 アポなしの上に、渋谷かおりという女性を同伴していたと鴨志田は語る。この渋谷という女性、各所で岸氏が常に同伴していたと証言される人物。岸氏が運営する店舗でDJなどをしているようだが、前述の「創作工房」中村氏が支払いを催促するため電話した際に「電話かけてきて迷惑だ」と凄んで電話をたたき切った相手と同一人物の様子。岸氏とは何か特別な関係にあるグル・共犯者のようである。

 さて、アポなしでの訪問のため「何かあれば協力します」程度の返事しかしなかった鴨志田氏。ところが、その後岸は「15年3月までにオープンして予算を消化しなくてはならない。イベントなどで販売するグッズが欲しい」と依頼してきたという。

 このときは、きちんと支払いはなされたそうだが、鴨志田氏が疑問を感じたのはオープンのとき。何も打診がないままに「神戸アニメストリート」という名前を掲げ、オープン日も前年の「阿佐ヶ谷アニメストリート」と同じ3月29日に設定されていたのである。ただ、このときはまだ「たまたまかもしれない」程度に考えていた。しかし、実際の運営には疑問ばかりが浮かんだという。

「収益があがりそうな施設が、カフェのほかはレンタルボックスとニコ生などができるスタジオだけ。それでやっていけるのかな……と思いまして。そうしていたら“レンタルボックス”に置く品物がないとか、スタッフがいないなどと、新たな依頼をしてきたのです」(鴨志田氏)

 そこで、鴨志田氏は自分の会社の在庫を販売。また、信頼の置ける人物を紹介しスタッフとして神戸に行ってもらった。

 しかし、送付したグッズの代金はいまだ支払われてはいない。加えて、岸氏はスタッフに対し、日常的に暴言を繰り返し、給料もろくに支払わなかったのである。それを知った鴨志田氏は、慌てて連れ戻したという。

 岸氏の行動は、想像の斜め上をいくものばかりだ。取材で出会った関係者からは、こんな証言もあった。

「最初のロゴがアーティストの村上隆さんの作品と類似していると問題になったことがありました。そのときにも岸氏は村上さんの事務所に対して“取り替えてやるから700万円を払え”と要求していることを、自慢げに語っていました。過去に逮捕されたことだって、飲み会の席で武勇伝のように何度も語っていましたよ」

■「次は大分県を寄生先に」と狙う岸氏の暗躍

 いったい、神戸市はなぜ岸氏のような人物が寄生する隙を見せてしまったのか。現在、神戸市では、これ以外にも「第2の森友」ともいえるような補助金の不明朗な支出が問題となっている。この問題を追及している樫野孝人兵庫県議会議員は、「神戸アニメストリート」の問題の背景を次のように語る。

「あそこは震災復興事業の中でも、空いたままになっていて、とにかく何かを埋めなくてならないと神戸市が考えていた場所です。そんなところだから、甘い審査でいい加減な業者が参入してしまったのでしょう」

 では、岸氏に得体の知れないバックがついていることはないのか?

「それはありませんよ」

 なるほど、確かにそれなりの背景があれば、「小銭」の踏み倒しなどではなく、もっと巧妙な手段を使うだろう。

 現在、踏み倒した先に幾ばくかの支払いをして、黙らせようと懸命な岸氏。その岸氏が、すでに次の寄生先を見つけていることも、取材の中で明らかになってきた。あるアニメグッズなどを制作する会社に、岸氏はこんな話を持ちかけいていたのだ。

「来年、大分県の主催で大分国民文化祭という催しがあります。ここで岸氏は“予算は25億ある。ガイナックスのコンテンツはなんでも使っていいよ”と事業を持ちかけてきたんですよ」

 国民文化祭は、各都道府県の持ち回りで行われている国体の文化祭版。確かに、来年は大分県で開催予定。また、すでにキックオフイベントという形でさまざまな催しが行われており、その中で、昨年には「おおいたクールジャパン」というタイトルで、コスプレや痛車展示のイベントが行われている。このイベントにも、岸氏は参画していたのだろうか。さっそく、このイベントの主催者に話を聞いてみたところ、驚いた様子だった。

「そんな人は、関わっていませんが……」

 この人物によれば、15年に開催した「大痛エキスポ」という催しで「神戸アニメストリート」に仕事を依頼したことはあった。しかし、国民文化祭の関連イベントには、岸氏はまったく関わっていないという。

「予算25億円って……先日、県の予算が決まりましたけれど、全体で10億円ちょっとですよ」(同)

 すでに、一連のネットでの騒ぎも知っており「今後、関係することがあれば考えなくてはならない」というのだった。

「神戸アニメストリート」のみならず、GAINAX WESTの取締役を名乗る岸氏。さらに、ヴォイス神戸という会社のほか「一般社団法人関西痛車協会」の理事なる名刺も配布している。この協会に至っては、法人登記すら見当たらない。

 もはや、多くの関係者の証言によって、それらのすべてが明らかになろうとしているからだろうか。冒頭に記したように、筆者の取材に対して、ただ一言を述べて電話を切ることしかできなかった。

 こうして明らかになっているのは、ただ一個人の悪行ではない。マンガやアニメコンテンツを用いた町おこしや活性化という事業が安易に実施され、そこに補助金を狙うハゲタカが群がっているという現実である。

 一部の被害者に踏み倒したカネが振り込まれているとはいえ、いまだ岸氏が運営する「神戸アニメストリート」は存在している。引き続き、取材を続けて行くことにしたい。
(文=昼間たかし)

「神戸アニメストリート」公式サイトより。