©杉山拓也/文藝春秋
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 新しいオフィスの形態として注目されるフリーアドレス。

 2015年にフリーアドレスを導入後、現在では管理や企画系の12以上の部門でフリーアドレスを採用している日本航空(JAL)の調達本部のオフィスを訪ねた。

 ワークエリアの周囲には、集中用のソロデスク、ガラス張りの会議室、立ち話的な打ち合わせエリアもあるが、この4人掛けデスク自体が打ち合わせスペースを兼ねているように見える。

毎日2時間の省時間効果

 調達第一部 企画グループ長の埋金洋介氏は、オフィスを変えたことで、マネジメントのあり方が変わったと語る。

「フリーアドレスにしたことによって、他のグループと交流しやすくなるメリットもあります。ただ、管理職にしてみれば自分の部下がどこで何をしているか分からなくなるため、マネジメント方法を変える必要が生じました。そこで、9~11時は資料作成、11~12時はミーティングという風に、課内のメンバーが個々の作業予定から帰宅時刻まで申告し、共有できるようにしました」

 これがグループ内で業務の進捗や担務の「見える化」に役立った。

「仕事を振り分けた上司が率先して定時退社しているのに、部下がサービス残業しているようでは、勤務管理とはいえません。原則として一日8時間勤務、18時定時退社で、17時30分以降はメールや電話、会議は禁止。部内の課長16人が毎日輪番で、退社時間が近くなると部内をまわって帰宅を促しました。残業は事前許可制になっていて直属の上司の了解が必要ですが、残業が生じること自体、課やグループ内での担務がそもそも適切か振り返る必要がある、ということですから」

 誰がどのぐらい残業しているのかは可視化されているため、管理職は月に一度、調達本部全体の勤務実績を確認しながら、担務の見直しについても話し合っている。いわば管理職の管理術が、部下に仕事をふってやる気を引き出すといった抽象的なものでなく、合理的かつ効率的な労務管理に繋がる仕組みを整えたのだ。かくして勤務時間は1日あたり2時間の省時間効果が見られ、残業時間は月5時間程度に抑えられているという。

在宅勤務は月1回。消化率は9割

 当初は、会社が再建中なのだからむしろ時間を気にせず働くべき、あるいは長時間働くのに慣れているから早く帰宅することに家族が困惑している、などといった声も出た。だが流動的なワークスタイルとリモートアクセスを採用したことが、逆に航空会社として業務体制をより強靭化することに繋がった。

「例えば災害や悪天候で出社できなくても、積極的に在宅勤務に切り替えれば業務は継続できます。できないのは来客応対ぐらいのものです。万が一に備える意味でも、リモートアクセスの手順を定期的に実践して思い出せるよう、在宅勤務は月1回、部内の9割の社員がやっています」

 在宅勤務時は、必ず直属の上司とFaceTime(フェイスタイム)などTV電話を通じて始業・終業報告を義務づけている。

「在宅はむしろ、会社にいる時以上に集中力とパフォーマンスが求められるので、TV電話での報告は一定の緊張感を保つ意味で必要なのです。楽したり、働きやすくするだけが目的の制度ではありません。結局、やってみたら意外と仕事ってどこでもできるものなんです」

 フリーアドレスはオフィスの眺めをガラリと変えるものだから、どうしても独立独歩で強調されやすい。が、サンドイッチの具のようなもので、それを挟み込むワークスタイル変革というパンが伴わなければ完成しない。

 でも、ひとたび味わうと、「これまで定時に帰ることに負い目を感じていたが、その必要がなくなって嬉しい」(女性社員)。あるいは「もう元には戻れない」(男性社員)といった声も。

 自分の机や書類がないと働きづらいと思う感覚は、旧態依然とした働き方に馴れきっているからなのかもしれない。

<撮影=杉山拓也/文藝春秋>

(南陽 一浩)

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