操作が難しい方が事故が少ない?
NEWSポストセブン

 5月4日、大阪府泉南市のコンビニエンスストアに乗用車が突っ込む事故が発生。運転していた75歳男性は取り調べで「ブレーキとアクセルを踏み間違えた」と話したという。

 高齢ドライバーによる事故は後を絶たない。原因としてよく耳にするのがブレーキとアクセルの踏み間違いである。深刻な社会問題となっているにもかかわらず、抜本的な事故予防策はなかなか出てこない。

 国や自治体は65歳を超えた高齢者に「免許自主返納」を盛んに促しており、3月から施行された改正道路交通法では、75歳以上の免許更新時の認知機能検査体制が強化された。もちろんこれらの対策は一定の効果をあげることだろう。しかし「年齢で一律に区切る」という対応は、高齢者から「生活の足」を奪ってしまうという“副作用”も指摘されている。

 そうした議論に一石を投じる提案が朝日新聞『声』欄に掲載された。「マニュアル車を復活させよ」という、51歳の高校教師の意見投稿(5月7日付)だ。

〈MT(マニュアル)車にはAT(オートマ)車にない安全性がある。面倒なクラッチ操作だ。操作方法やタイミングを間違えればたちまちエンストする。わずらわしいが、これは大事な安全装置だ。「アクセルとブレーキを踏み間違えた」という事故の多くは、MT車ではありえない。(中略)メーカーは今できる策としてMT車を復活させてほしい〉

 NPO法人高齢者安全運転支援研究会の平塚雅之事務局長は、この提案に同意する。

「AT車でペダルの踏み間違いが起こりやすいのは、例えば駐車場や高速道路の料金所などでお金を払う場面です。料金所の機械にお金を入れようと、運転席から身を乗り出す。その際に、ブレーキペダルから足が離れてしまうと、AT車の場合、クリープ現象で前進してしまうので、慌ててブレーキを踏もうとする。このとき、右足の位置がずれているのに気づかずにアクセルを踏んでしまい、急発進して追突事故を起こします。

 一方でMT車は、一時停止時には左足でクラッチペダルを踏んでいる。そのため、仮に誤って右足でアクセルペダルを踏んでしまっても、エンジンを“ふかす”だけで、急発進することはない」

「MT車のほうが事故が起こりにくい」ことを裏付ける研究結果がある。

 2004年、鳥取環境大学環境情報学部情報システム学科の鷲野翔一教授(当時)は全国の交通事故を「右折事故」「左折事故」「出会い頭事故」「追突事故」「正面衝突事故」の5パターンに分けて分析した。その結果、「正面衝突」を除く4種類の交通事故において、MT車の事故率はAT車の約2分の1だった(「正面衝突」の事故率はほぼ同程度)。

 操作が難しいMT車のほうが、簡単なAT車より事故率が低いのはなぜか。運転操作に詳しい近畿大学の多田昌裕講師(交通情報学)が解説する。

「MT車の運転は、『クラッチを踏む』『ギアを入れる』『半クラッチで繋ぐ』など手間がかかりますが、それゆえ運転に集中する。しかしAT車の場合、運転が単純作業になり、注意力が散漫になって事故に繋がってしまう。特に、渋滞時にシフトチェンジをしなくていいのは楽ですが、そういうときこそ注意してほしい」

 実際、75歳以上のドライバーの34.8%が「運転中の注意散漫で事故を起こしそうになった」という経験があるという(MS&AD基礎研究所調べ、2017年)。

 加えて、AT車だと「MT車よりエンジンブレーキの効きが弱い」(前出・平塚氏)ので、ぶつかる前に止まれないという分析もあった。

※週刊ポスト2017年5月26日号

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