物議を醸したクローズアップ現代+のパネル(番組内でのパネルを再現したイラスト)
ねとらぼ

 「アニメがヒットしても製作委員会がもうかるだけでアニメーターには還元されない」「製作委員会の利益搾取」「広告代理店の中抜き」などアニメ制作の現場からしばしば聞こえてくるこれらの意見。アニメ制作において製作委員会の役割とはなんなのか、製作委員会は本当に悪なのか、中堅制作会社の役員と日本動画協会を取材しました。

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 6月7日に放送されたクローズアップ現代+「2兆円↑アニメ産業 加速する“ブラック労働”」でも、製作委員会の構造についてパネルで説明するくだりがありましたが、視聴者からは「問題点、このパネルで一目瞭然なのに」「やりがい搾取の典型」「製作委員会のシステムが一番の問題なんじゃないの?」といった疑問の声があがっていました。

制作会社が語る、製作委員会の役割

製作委員会とは何なのか

 批判的な意見が相次ぐ中、なぜアニメも実写も製作委員会方式を採用するのか。中堅アニメ制作会社の役員A氏が取材に応じてくれました。

――アニメ作品における製作委員会とはどういった組織なのでしょうか

制作会社A氏:アニメを作る際のリスクヘッジ組織であり、委員会に参加した各社の営業力によって委員会全体の収益を最大化するための組織です。ビデオメーカー(DVDやBlu-rayの販売元)、広告代理店、出版社、玩具メーカー、配信会社、アニメ制作会社、放送局など作品によってさまざまな企業が製作委員会に入り、作品に出資します。

広告代理店の中抜き疑惑

――ネット上で「アニメの製作費を広告代理店が中抜きをしている」という話が話題になっていますが、これは本当なのでしょうか

制作会社A氏:それはウソです。代理店が製作委員会に入る場合には、きちんと出資してリスクも負担しており、そのお金が制作費に回されます。アニメの製作費は後述する“主幹事会社”に集められ。100%アニメ制作会社に支払われます。

――ではなぜ「広告代理店とテレビ局が中抜きしている」というウワサが広まったのでしょうか

制作会社A氏:この誤った情報の元を調べると平成15年(2003年)6月に経済産業省が「アニメーション産業の現状と課題」という調査資料を出しており、この4ページに“中抜き”と勘違いされてしまうような模式図があるのを見つけました。

 この模式図が表しているのは、ゴールデンタイムや日曜日の朝に放送されている子ども向けアニメのモデルです。なおかつスポンサーが広告代理店に支払っているのは“アニメの制作費”ではなく“広告宣伝費”(CMを流す費用)なのです。テレビ局はあくまで「番組を企画してアニメ番組を作り、代理店を通じてスポンサーにCM放送枠を販売する(視聴率が高ければ高いほど高い値段で売れる)」というビジネスを行っているのです。代理店は代理店で「営業をしてスポンサーを探していく」というビジネスを行っています。つまり、この模式図のモデルの中でも広告代理店は“中抜き”しているわけではないのです。このときの調査対象が主に子ども向けのアニメーション作品のビジネスモデルだったことからこの図が掲載されたようなのですが、現在のアニメビジネスにはほとんど当てはまらないモデルです。

――具体的な例でいうとどういうことでしょうか

制作会社A氏:例えば「サザエさん」は東芝がメインスポンサーとなっています。「サザエさん」は全国ネットのゴールデンタイムの番組ですので、東芝は広告代理店を通じてかなりの広告宣伝費を払っているはずです。しかし、これはあくまでも“CMを流すためのお金”であって“アニメの制作費”ではないことはご理解いただけると思います。

――そういうことだったんですね

制作会社A氏:この調査資料を作成した人はあくまで“お金の流れ”としてこの模式図を作ったのでしょうが、スポンサーが支払ったお金の名目の記載がないので「制作費の中抜きという」誤解を産む原因になっているかと思います。先ほどの模式図のビジネスモデルの場合、「視聴率を取れる」「スポンサーのグッズが売れる」ことが最優先されますので、スポンサーはおもちゃを売るため内容にまで細かく口を出してきます。それがアニメを作る上での制約となっていたときに、「制作費もCM放送費用も全額を負担するので、作り手側が作りたいものを放送できる」という形で生まれてきたのが“製作委員会”方式なのです。つまり現在のアニメ産業の多様性は製作委員会があるからといっても過言ではありません。すなわちわれわれのような子ども向けアニメではなくコア向けアニメを作っている制作会社は製作委員会がなくなると仕事自体がなくなってしまうのです。

製作委員会に入ればもうかるのか

――製作委員会に入ると大きな利益が得られるのでしょうか

制作会社A氏:そんなことはありません。基本的にアニメ作品10本に出資したとしても大体9本は外れます。そのうちの1本がヒットして9本分の赤字が埋まるかどうかという感じなのです。ただ各社が権利の窓口(※)を持っているので、その権利運用がうまくいけば、例えば製作委員会への出資自体が赤字でも、窓口での利益(パッケージの販売利益、グッズの販売利益、出版の利益、映画配給の利益など)で回収できる可能性もあります。具体的な例を挙げてみるとするとビデオメーカーが製作委員会に1000万円出資したところ、委員会からの戻しは800万円だった。ところがDVDはたくさん売れて、その販売利益が1500万円上がったなどの場合です。制作会社の場合は制作費が入ってくるだけなので、その利益は小さく、制作費は定額なので利益は上振れしません。つまり獲得窓口の権利運用ができない規模の制作会社が製作委員会に出資して利益を出すのは厳しいと思います。

※ビデオメーカーであればパッケージを作る権利、グッズメーカーであればグッズを作る権利など。

――製作委員会方式が増えてきたのはどうしてでしょうか

制作会社A氏:アニメ作品を大人が見るようになってきて、パッケージ(VHS)を売るというビジネスモデルが1980年代後半から1990年代初頭にできてからでしょうか。それ以前はテレビ局側が望む作品=視聴率を取れる作品か、ナショナルクライアント的なスポンサーが望む作品しか作れませんでしたが、OVA(オジリナル・ビデオ・アニメーション)などのパッケージで制作費が回収できるという方式が確立されてからは、作り手側が作りたい作品を制作できるようになりました。この場合、製作費は作り手で用意する必要がありますから、製作委員会方式が増えてきました。

――先ほどのお話にあったリスクヘッジというのは

制作会社A氏:先ほどお話した通り、アニメ作品の9割ははずれますので、そうなってしまった場合のリスクを複数社で負担して分散するということです。一般的な深夜アニメの制作費は1話あたり1500万円といわれており、13話で1億9500万円。これに宣伝費(1000万円程度)を加えた、約2億500万円が1クールで必要なお金になります。もしこれを1社で抱えて、さらにヒットしないとなると大変な損失になりますよね。さらに製作委員会方式で作品を放送するためには「番組提供費」というものも必要になるので、4社から5社、多い時は10社程度でリスクを分散する形が主流になっています。

――番組提供費というのは

制作会社A氏:アニメを放送するための放送枠を買うお金です。よく勘違いされるのですが、ナショナルクライアントの広告宣伝費に頼らず、アニメ作品をテレビ放送する場合には、テレビ局がお金を出してくれるのではなくて、製作委員会で放送枠をテレビ局から買うのが主流なんです。この場合放送枠を売ったテレビ局は、放送枠を販売した段階で売上が確定しますのでメリットが大きいです。製作委員会はこの購入した放送枠を委員会に出資した各社でどう負担するか、またどうやって外部からスポンサーを集めてくるかなど協議して決めていきます。つまり製作委員会システムでアニメを製作して放送するときには「アニメの制作費」と「番組提供費」という二重のリスク負担したところからビジネスがスタートするのです。つまり製作委員会に出資しないアニメ制作会社は、理屈上は受注下請けだけなので“ノーリスク”なのです。ただしこれはあくまで“理屈上の話”です。

――番組提供費の具体的な金額はどの程度なのでしょうか

制作会社A氏:放送枠や局ネットの数によっても違いますが、基本的には非公開です。ただし放送局の数が増えれば増えるほど番組提供費がかかっていると考えてよいと思います。

製作委員会の成り立ち

――製作委員会にはいろいろな企業が入るということですが、そもそもどうやって委員会が作られていくのですか

制作会社A氏:まずはビデオメーカーや制作会社などのプロデューサーが企画を練り、周辺の会社に声掛けをするところから始まります。賛同する会社が増えていくと、主幹事会社というものができて、「うちが責任をもってお金を集めます」ということになります。この“責任”というのは、「もし目標とする出資金を集められなければ自社で負担します」という意味です。

――資金調達に失敗して主幹事会社が多めに払うということはありえるのでしょうか

制作会社A氏:そういうパターンはありますね。ただそうなったとしても、作品がヒットすれば出資額が増えた主幹事会社には多めにはリターンが発生することになりますので、作品が当たれば利益は増加することになります。

――この作品はこの会社が主幹事、というようなことはオープンになっているのでしょうか

制作会社A氏:基本的には明かされませんが、パッケージメーカーや映画会社が主幹事になることが多いです。主幹事には、全体を調整する能力と資金力が求められますので、主幹事をできる会社は限られます。

――ネット上では「製作委員会に入りたくても入れない会社も多い」という情報が流れていますが、これは本当でしょうか

制作会社A氏:本当だと思います。製作委員会にとって最も重要なのは「収益を最大化できるか」、つまりその会社が獲得する権利運用窓口にどれだけの営業力や実績があるかです。出資を希望する会社の営業力が低かったりすると、最終的に製作委員会全体の収益が下がってしまいますからお断りする場合も多いと思います。また、アニメ制作会社が出資だけしても回収ができない確率が高いわけですから、ある種の親切心で「入らないほうが良いのでは」というお話が出るかもしれません。

リスクを取ればリターンも

――製作委員会への出資額は各社同額なのでしょうか

制作会社A氏:いえ、比率は会社によって異なります。最近はビデオメーカーが多めに出資してリスクを取るというケースが多いです。リスクを大きく取った分リターンも大きく返ってきます。

――「リスク分散」や「作りたい作品を作れる」ということが製作委員会方式のメリットとのことでしたが、デメリットはどんなところなのでしょうか

制作会社A氏:リスクを分散させている分、作品がヒットした場合も利益を分散させなければならないという点です。近年のネットや経済雑誌の論調では「製作委員会に出資していればもうかる」という感じですが、それは誤りでほとんどが外れています。ヒットしたものは雑誌やネットでも取り上げられるので目に入りやすいですが、ヒットしなかった場合がクローズアップされないだけのことです。マスコミはうまく行ったものだけを取り上げたほうが記事の論調としては面白くなりますから、そういうところだけが記事やテレビ番組で取り上げられてしまうのです。

――そういえば最近「アニメ産業規模2兆円」というキーワードも最近よく耳にしますが

制作会社A氏:確かに「アニメ産業規模2兆円」というキーワードが独り歩きしていていますが、この“2兆円”とアニメの制作費を比較して論じるのも間違いです。この数字は日本動画協会の「アニメ産業レポート2016」からの数字です。2兆円とはテレビ放送・劇場・ビデオ・商品化・海外番組販売・ライブ等々“2次利用で発生した売上”も含めた売上規模の総額で、中でも2次利用の割合はかなり大きいものです。「産業規模」とか「市場規模」に「もうかっているかどうか」は一切関係ありません。要はヒットしなかったアニメのBDの製造費やグッズ制作費や海外販売の金額も全て合算されて2兆円なのです。つまり作品がヒットしようが、はずれようがアニメの制作本数が増えれば自然と大きくなる金額なのです。しかし「市場規模2兆円!!」と書くと、キャッチーな見だしになりますよね。まるで1兆8千億円がどこかにピンはねされているような印象を与える、マスコミの論調には疑念を感じます。

――作品のヒットとは視聴率のことですか

制作会社A氏:いえ、ヒットというのは現状ではパッケージ(DVD/Blu-ray)の売上のことです。放送枠は製作委員会で事前に買いきってしまっているため、視聴率などは収益に影響しません。近年では海外への番組販売や配信・グッズの比重が高まっています。海外販売の金額は2015年くらいにバブル化して、日本ではヒットしたとはいえない作品も信じられない高値で販売されたりしていました。現状は海外販売のバブルも落ち着き始めています。

出資金の回収方法

――「日本はパッケージの値段が高い」というのもよく聞くのですが

制作会社A氏:製作委員会方式の場合、パッケージに限らず、アニメ作品の関連商品には製作委員会に利益を戻すお金が含まれているのですが、パッケージはその戻し率の割合が高い商品なので割高になっています。

――パッケージの売上を丸々ビデオメーカーがもらえるというわけではないんですね

制作会社A氏:ビデオメーカーはパッケージ(DVD/Blu-ray)を流通に卸す販社利益を獲得できます。ビデオメーカーはパッケージを制作するコストを負担していますし、番組提供費も負担しています。このため販売の利益を一番に獲得しないと、パッケージの制作費も回収できないことになりますので当然のことかと思います。また、流通もかなりの割合を利益として取ります。それがおかしいという論調をネットで見ましたが、スーパーにしろ、牛丼屋さんにしろ喫茶店にしろ店舗を構えて従業員抱えている以上、家賃や人件費かかっています。仕入れたパッケージが売れないで在庫になる可能性もあるわけですし、流通の取り分が大きいのも当然でしょう。利益の一部は製作委員会に参加している全ての会社に、出資比率に応じて還元されます。また最近は制作会社も自社通販やショップを構えることが増えてきたような印象です。もし「制作会社を応援したい」と思ってくださるファンの方がいれば、グッズやパッケージは制作会社の直売店や通販を利用して購入すると応援になると思います。

――どうして直売がいいのですか

制作会社A氏:DVDショップやアニメショップ、書店などに商品を卸すときには卸値になりますから、売値と卸値の差額は粗利として制作会社に入ります。そのため直売店で購入してもらえるほうが利益が大きくなります。コミケなどに制作会社が出展している場合も、そこで商品を購入するのは応援になるでしょう。

――現行の製作委員会の流れはこのまま続いていくのでしょうか

制作会社A氏:最近「製作委員会に出資する企業の数を減らそう」という動きがあります。

――それはなぜですか

制作会社A氏:事務の手間がすごいからです。作品の著作権存続中はずっと事務手続きを誰かが(主には幹事会社が)行わねばならず、場合によっては100円の分配金のために300円の振込手数料を支払うなんてこともあります。分配金をもらう会社も年間数千枚に及ぶ膨大な伝票を経理が処理せざるを得ない状態になっており、今アニメに関わってきている会社はどこも事務の手間に苦しんでいるのではないかと思います。リスクの分散を目的として製作委員会の出資者をどんどん増やしていった結果、各社の出資比率が下がり、作品の売上のピークを過ぎた時期からは、事務の手間と振込のコストなどが増大していきます。会社である以上“1円”だろうが伝票を処理しないといけませんので、この手間は今後数十年間に渡り続くコスト要因になっていきます。契約も同じで10社の製作委員会などの場合、合意する契約書を作るやりとりだけで半年かかったりします。その手間のほうがコストなのではと各社が思い始めているのです。

――窓口の運用については、各窓口どれぐらいで黒字になるのでしょうか

制作会社A氏:例えばグッズの場合は在庫が3割余ると赤字になってしまいますし、パッケージだとDVDやBlu-rayのマスターを作る費用や宣伝費、営業のコストもかかるので2000〜3000枚だと完全に赤字になりますね。特にグッズは在庫リスクが高くて、売れないと倉庫の費用も必要ですし、在庫を捨てる場合は廃棄費用も必要になります。よく聞くのは、作品が大ヒットした後にグッズ制作の会社が在庫を抱えすぎて赤字になるという話です。

――作品がヒットするとグッズもバーっと売れるのではないですか

制作会社A氏:全てがそういうわけではなくて、ヒット作のグッズを後から出したメーカーが在庫を抱えてしまうケースが往々にしてあります。グッズを1つ作るにしてもロットあたりの最小個数が大きいので、かなりの数を作らなければなりません。グッズを作れば当然場所をとりますし、それは倉庫代としてグッズメーカーが支払わないといけません。フィギュアとかの場合は在庫を抱えると本当に大変だと思います。グッズがいっぱい出ていると「作品がヒットしている」「もうかっている」と感じてしまいますが、必ずしもそうではないんですよ。グッズメーカーがどれだけコストかけて作っているか、商品が本当に売れているのか、が鍵なのです。

アニメーターの待遇

――よくアニメーターなどから「賃金が低い」という意見があがりますが、制作費のうち何割程度がアニメーターに渡るのでしょうか

制作会社A氏:作品にもよるので何割と言い切るのは難しいですが、アニメーターだけに限定すると微々たるものになってしまいます。最近のアニメ作品は視聴者が求めるクオリティーがあがってきているため、関わる人数や手間が増えて外注費(シナリオ・脚本・絵コンテ・演出・監督・原画・動画・仕上げ・CGなど)を積み重ねると1000万円なんてあっという間になくなってしまいます。また、制作会社はスタジオを維持するための家賃・人件費・水道光熱費などもかかりますし、制作進行が乗る車や交通事故の保険だってコストです。関わる人と手間は増えているのに、制作費は手塚治虫先生の時代からあまり増えていないため、制作会社の利益が年々減っていっている状況です。

――先ほど制作会社は出資せず制作受託だけしていればリスクがないというお話も出ていましたが

制作会社A氏:先ほどは、理屈上「制作会社は出資せず制作受託だけしていればリスクがない」と話しましたが、現状リスクがないはずの制作受託が赤字になることが多くなってきています。制作行程が複雑化する分、スケジュールや予算の管理が難しくなっている一方で、制作会社は“納品義務”を負っているため、赤字を出したとしても期日までには納品しなくてはいけません。帝国データバンクの調査ではアニメ制作会社の4社に1社が赤字に陥っているとのことです。制作会社がグッズ出したりし始めているのは、制作費以外の利益を獲得する動きなのです。

――ネットでは「スポンサーがアニメ制作会社がもうけることを嫌う。そのためもうけすぎないようにグッズの出荷調整を行っている」という情報もありましたが

制作会社A氏:それも勘違いかと思います。制作委員会の商品化窓口権を獲得した会社の主要な業務として「適切なライセンス管理」というものがあります。これは前述したように、グッズのライセンス商品数があまりに増えすぎて市場に在庫が余り過ぎたり、グッズがあまりに大量に発売されずぎて消費者の負担になりすぎることを管理・調整していくのです。おそらく、そのような調整が行われていることを誤解されたのかと思います。何しろグッズ販売されればロイヤリティーが委員会に入るわけで、自社がもうかることをわざわざ止めるのはなにか理由があると思います。

――アニメーターの貧困についてはどう思われますか

制作会社A氏:アニメーター、特に駆け出しの方の収入が低いのは事実なので、何とか食べられるようにするシステムは必要だと思います。ただし、先ほど申し上げたように制作会社も赤字になっていることも多いと聞きますから、単価を大きく上げるのは厳しいと思います。ちなみにアニメーターは技術職なので、年収1000万円クラスの人もいらっしゃったりします。やっぱり良い絵には皆さんお金を払いますからね。

――「作品がヒットしてもアニメーターには還元されない」という意見についてはどう思いますか

制作会社A氏:ヒットした時に還元する仕組みは考えていった方が良いと思います。ただ、ヒットしたときのリターンをどうやって割り振るのかというのはすごく難しい問題です。アニメというのはアニメーターだけでなく、コンテ・仕上げ・撮影・背景美術・設定デザインなど、いろいろな人の作業の積み重ねでできていますから、そういう人たちにどう割り振るのか。また、先ほどの委員会の事務の手間とコストと同じ問題ですが、還元する事務の手間を誰がどう負担するかという課題があります。

――還元のための事務の手間というのは

制作会社A氏:還元を始めた当初は手計算でなんとか回ると思いますが、3年ぐらいたつと回らなくなり、経理の人が増えて、その人件費で制作会社のコストが増えて、さらに赤字体質になり、現場に還元したいという当初の主旨と違った結果になりかねません。ただ制作会社によってはアニメーターの年間の功績に応じてインセンティヴのようなものを支払っているケースもあるようです。私見ですが、いちばん実現性が高いのは、売上や利益の何%というスキームで支払うのではなく、関わったスタッフに対してある程度裁量的に、年間でまとめて払うという方式ではないかと思います。ただし、これも制作会社が赤字では支払うことが難しく、まずは制作会社がある程度利益を残せることが前提です。

ネットの情報とアニメ業界の今後

――ネットの情報と実際の内容に違いがあることについては

制作会社A氏:アニメ制作に関わっている人がみんな「アニメビジネス」に詳しいわけではありません。中にはきちんと構造を理解している人もいますが、勉強をする時間がなくてよく分かっていなかったりする人もいます。誤解の最大のもとは「全てのアニメがもうかっている」ということにつきると思います。そして「アニメビジネス」の理解で最も必要なのは「『売上』と『利益』を一緒にしない」ということだと思います。マスコミなどが記事にするのはほぼ「売上」です。コミケで同人誌を出すことを例に考えてもらうと分かりやすいと思いますが、売上がいくら上がっても在庫を抱えて赤字になる可能性があるのです。10億円売り上げていても赤字の作品や制作会社もあるのです。マスコミの論調は、そこを分かっているに関わらず記事や番組を面白くするために“あおる記事”を書きます。われわれが取材でいくら実情を話しても、記者はあえて記事にしないので注意が必要です。

――制作会社としてアニメ業界の今後をどう考えていますか

制作会社A氏:今後は製作委員会の方式にもっといろいろなパターンが出てくると思います。アニメ産業が大きくなっていくのとともに、制作会社がもう少しもうけられるようなシステムを作り、アニメーターに利益を還元したり、良い労働環境を作っていけるようにしていければと思います。

日本動画協会に聞く、製作委員会とアニメーター

 制作会社の取材内容を受けて、編集部ではアニメ製作の業界団体・日本動画協会に所属する増田弘道さんにも見解を伺いました。増田さんは1979年にキティミュージックに入社。2000年にアニメ制作会社マッドハウス代表取締役に就任し、現在はビデオマーケットの監査役を務めるなどアニメや出版の業界に関わってきました。

製作委員会方式は映画から始まった

――製作委員会に関する情報がネットで話題になっています

動画協会・増田さん:昔から「テレビ局が悪い」とかそういう話はよく聞きましたから、今は「製作委員会が悪い」になっているのでしょうね。そもそも製作委員会の歴史は映画から始まっています。昔は1社出資で作品を作っていましたが、1958年をピークに徐々に観客動員数が少なくなっていき、そこで生み出されたのが製作委員会方式です。テレビアニメに関しては1984年にOVAが誕生し、1996年からはアニメの深夜放送が始まったことから製作委員会方式を採用するアニメが増えてきました。

――製作委員会方式が主流になってきたのはいつごろからでしょうか

動画協会・増田さん:2000年代からですね。製作委員会の名称について「○○町内会」「○○組」のように名前のお遊びが始まったのもこのあたりからでした。

――製作委員会方式ならではの問題などはありますか

動画協会・増田さん:作品の著作権が製作委員会に全共有されるため、何かをするためには基本的に製作委員会参加者全員の承諾が必要です。そのため決め事に時間がかかることでしょうか。

――製作委員会に入りたくても入れないというケースはあり得るのでしょうか

動画協会・増田さん:あり得ます。そもそも、もうかっている作品の製作委員会にはあとから入れてくれと言っても入れてもらえません(笑)。それは冗談として、ビジネスプランの確立は、製作委員会においてかなり重要なファクターです。担当窓口となる事業に対して意欲的な回収計画を描けて、なおかつ宣伝的にもシナジーを発揮できるというプランがなければ参加は難しいでしょう。

――ネットでは「スポンサーがアニメ制作会社がもうけることを嫌う。そのためもうけすぎないようにグッズの出荷調整を行っている」という情報もありましたが

動画協会・増田さん:そんなことはないでしょう。グッズが売れれば製作委員会に出資した全ての会社に利益が配当されるわけですから、わざと赤字にしたりすることはあり得ません。偶然品薄になった商品がそう見えたのかもしれませんね。

声優とアニメ作品の関係

――アニメ業界のウワサの中には「有名声優を使ったために予算が足りなくなり、アニメーターに支払う制作費から補填したらしい」という話もあるようなのですが

動画協会・増田さん:それは絶対にないですね。制作費の中には音響費というものがあり、アニメーターに支払う予算とは別に組まれているので、そこから割り振るということはあり得ません。

――声優のギャラは結構高いんでしょうか

動画協会・増田さん:音響費は大体制作費の15%程度の枠の中でやりくりするのですが、声優の報酬はランクが定められており1人あたり1万5000円から4万5000円までがスタンダードです。中にはランク外でこれよりもかなり高い方もいますし、俳優や芸能人などを起用するともっと高くなります。

編集部注:金額は1話数あたりの数字。

アニメーターへの利益還元

――アニメーターからは「作品がヒットした時に何らかのインセンティヴが欲しい」という声もあります

動画協会・増田さん:確かにもうかった時にアニメーターやその他のスタッフに還元するシステムはあっても良いと思います。しかし、では赤字だった時はどうするのか、という問題もあるんです。アニメ作品の多くは赤字状態なので、もうかったときだけ還元していると、システムがうまく回らなくなってしまいますよね。まあ、もうかったら還元するという曖昧な約束よりは目先のギャラを上げる方が説得力があると思いますが(笑)、当たるかどうかはホントに分かりませんからね。

――アニメーターの離職率が高いという話も度々話題になっています

動画協会・増田さん:アニメーターは技術職なので、一人前になれるのかならないのか育ててみないと分かりません。アニメーターにも動画職と原画職がありますが、現在動画職は原画職へ上がるためのステップと考えられています。原画は実写で言えば役者と撮影を兼ねた重要な役割を担っています。非常に高度な技術を求められるので、そこに上がるための動画職としての研修期間は長く、その間給料も安かったりするので確かに定着率は低いですね。ジブリや東映アニメーションのように動画職に対してもいい雇用条件のスタジオはあるのですが、それはまあ企業体力次第ですね、やはり。またアニメーターは基本的にフリーランス指向があるので、一人前になった途端に会社を移るケースが多いことも事実です。

――アニメーターは長時間労働とも聞きますが

動画協会・増田さん:例えば「毎日終電まで働いている」と聞くと、ものすごい長時間労働なんだとびっくりしますよね。しかし、よく見ると出社時間は夕方なんてことも多いのです。ただし一方では作画監督の長時間労働が浮き彫りになってきており、これは現在の制作事情をよく反映していると思います。

――アニメーターが1人前になれたら給料は安定するのでしょうか

動画協会・増田さん:動画職から原画職になれば作画単価が一気に20倍以上になるケースもあります(※)。固定給や歩合など契約によって違いますが、ある程度安定するでしょう。キャラクターデザインや作画監督といった付加価値が付くようになると「稼げるようになる」ケースが多いです。

※動画単価を200円前後、原画単価(レイアウト+原画)を4000円程度と考えた場合。

アニメ業界の今後

――これからのアニメ業界はどうなっていくのでしょうか

動画協会・増田さん:キーワードはデジタルでしょう。今後はデジタル技術を良い形で導入した会社が伸びるでしょう。ただし、デジタルの導入には投資が必要なので経営者の意識改革も求められるようになると思います。最初からデジタル志向のCG系の会社はIT系の血が入っていることもあって生産性の向上に前向きです。また労働環境も既存のアニメスタジオより敏感です。流通(ネット)も含めてやはりデジタル技術によって業界は変化していくといくのは間違いないと思います。

 低賃金、長時間労働など、マイナス要素が注目されがちな最近のアニメ業界。現場レベルの不満はSNSなどを通して目につきやすい反面、業界全体の構造については周知されておらず、「全貌がよく分からない」といった声もあがっていました。

 今回取材に協力いただいた複数の関係者から指摘されたのが予算の枯渇。製作委員会方式で2億円もの予算が確保されるのに関わらず、高いクオリティーが求められる現在のアニメ制作現場ではその予算が足りないという状況が発生しています。関係者の一人は「アニメ作品の急増に伴い、力のないアニメーターや制作会社が急増してしまった」と話し、自転車操業に陥っている制作会社も出てきているとも話していました。

 ねとらぼでは過去にもなぜアニメの放送は“落ちる”のか、アニメーターの待遇問題は改善されているか、女性アニメーターに聞くアニメ業界の今など、アニメーターや現場関係者に焦点を当てた記事を掲載してきました。今後も本記事で提起された「キーワードはデジタル」など、まだまだ掘り下げたい分野の取材を引き続き行っていきたいと思います。

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