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ねとらぼ

 日本で初めてプロ格闘ゲーマーが誕生したのは2010年。カリスマプレイヤーである梅原大吾(ウメハラ)がゲーム関連機器メーカーのスポンサードを受けたことがきっかけだった。その後日本でも数々のプロゲーマーが誕生したが、国内では高額賞金がかかった大会が開かれないこともあり、プロゲーマーにスポットライトが当たることは少ない。EVO2017での日本人優勝が話題になるなどeスポーツへの注目度が年々高まる一方で、一部の熱心なゲーマーを除いた多くの人にとって「プロゲーマー」という存在はまだまだ不透明だ。

【プロゲーマーの練習風景】

【2017年8月14日15時15分:当初「日本で初めてプロゲーマーが誕生したのは2010年」と記載していましたが、「日本で初めてプロ格闘ゲーマーが誕生したのは2010年」に訂正しました】

 日本におけるプロゲーマーとeスポーツは今後どうなるか――今もなお、「ゲーム」という言葉には「遊び」のイメージが付きまとい、「競技」として考える人は多くない。そんな中で「ゲームで身を立てる」という前例の無いチャレンジを続けるプロゲーマーは、自身の将来、そしてまだまだ未熟な国内eスポーツの未来をどう考えているのだろう。

 競技者であればいずれ必ず訪れる引退、eスポーツの未来、海外との環境の違い、そして「プロゲーマーはモテるのか」など、レッドブルからスポンサードを受け、格闘ゲーム「ストリートファイターV」の世界で闘うプロゲーマー「ボンちゃん」に率直な質問をぶつけてみた。

●ボンちゃん

レッドブルに所属し、「ストリートファイターV」の舞台で闘うプロゲーマー。強固な守りと的確なタイミングで撃つ飛び道具に定評があり、今年は既に世界大会で3度優勝。弱いとされるキャラクター・ナッシュを使いながらも好成績を残し、「ラストナッシュ」とも呼ばれていた。世界最大の格闘ゲーム大会「Evolution 2017」(EVO2017)では9位。ストリートファイターIV時代はサガット使いの強豪として知られ、EVO2014では2位に輝いている。

プロゲーマー養成学校は“何教えてんの?”って感じ

―― 年齢とゲーム歴を伺いたいのですが。

ボンちゃん: 今30歳です。ゲームを始めたのは小学校高学年くらいですかね。デパートにあるゲームコーナーから始めて、後から家庭用のゲームを買った感じです。レッドブルのスポンサードを受けたのは2年前くらいです。

―― プロゲーマーとしての仕事だけで生活できてる人ってどのくらい居るんでしょう。

ボンちゃん: 国内では10人くらいですかね……。他タイトルのことなどはあまり分からないのですが、企業からスポンサードを受けるストリートファイターVのプロプレイヤーなら、ほとんどの人が食えてるはずです。

―― 収入はどういう形で得ているんですか?

ボンちゃん: 僕はまとめて半年に一回振り込まれていて、そこからマネジャーを通じて毎月もらってます。年俸制に近い感じですね。あとは別途大会で活躍すれば賞金がもらえます。僕は本を出したり、講演したりってことはやってないです。

―― 講演は依頼があればって感じですか?

ボンちゃん: いやー……どこから依頼が来るかによりますね。今だったら、例えばプロゲーマー養成学校ができたりしてるじゃないですか、そういう所から依頼があっても現状は受けないですね。

―― 「プロゲーマー養成学校」についてはどう思います?

ボンちゃん: “何教えてんの?”って感じですね(笑)。プロゲーマーになってる人たちって、そういう学校出てる人はいないので。もちろん僕も格闘ゲームしかやってないので、他のジャンルははよく分からないんですが、僕らの周辺の視点で言わせてもらうと、前例が無いので“誰が教えてんの?”みたいな。そこに行ってどうこう、というのはやるつもりはないです。つながりもないですし絡んでいくつもりもないですね。寄らないでくれ、ぐらいの(笑)。

引退後のビジョン

―― 今年の大会結果ってどうですか?

ボンちゃん: いやー、僕のゲーム人生でこんなに弱いキャラクターを使ったことがないのでよく勝ってるなって感じですね。結果を出さなきゃいけない立場になったのが、ここ数年のことなんですけど、IV(ストリートファイターIVシリーズ)の頃は恵まれたキャラクターを使ってたので、今はスゴい壁にぶち当たってますね。ただ、幸い大会の結果だけはそこそこになってるので、ツイてるなと思ってます。

―― プロゲーマーの将来について伺いたいのですが、ご自身は今後も結果を残し続ける自信はありますか?

ボンちゃん: します。そこはできると思っています。

―― 年齢的な反応速度の低下や、体力の低下による影響は感じますか?

ボンちゃん: 僕は全然です。もともと反応速度はいい方なんですよ。でもストリートファイターVになってゲーム性が変わったのに合わせて、“見てから反応する”という練習をしなくなったんです。結果的に反応できないという事は増えましたけど、それは鍛錬をしていないから衰えているように感じるだけであって、思考速度が遅くなっている訳でもないしプレイそのものが衰えてるって感覚はないですね。年齢的にも“さすがにまだ大丈夫じゃねーの?”って感じで(笑)。

―― 引退後のビジョンってあります?

ボンちゃん: 現状、格闘ゲームの中で「コーチ」っていませんよね。……でも自分がコーチになりたいかと聞かれたらそれはNOなんですよ。別に教えるのは苦手じゃないんですけど、教わる側だったら「昔強かった人」に教わりたいかなというのは疑問なので自信ないですね。それこそ、会社に属するんだろうなぁ……。

―― トッププレイヤーがゲームメーカーに入って、ゲームバランスの調整役として勤めるという例もありますが。そういう道は?

ボンちゃん: それは全然やってみたいなと思います。今は開発に携わったゲームをプレイする訳にはいかない環境だと思うので出来ないですが。

―― ゲームを作りたいという思いはあるんですか?

ボンちゃん: 全然ありますね。自分が長く関わっているのがストリートファイターシリーズなので、同系統のゲームなら理解できているつもりです。歴は浅いですが、別系統の格闘ゲームでもいい意見は出せるんじゃないかな。結局ゲームって面白いか面白くないかだと思うんですけど、“何が面白くて、何がつまらないのか”というのを提示できれば、良い物ができそうな気がします。

ストリートファイターVは賞金が高いからやらざるを得ない

―― やはり、プロである以上は結果が求められると思うんですけど……。

ボンちゃん: 間違いない。

―― スポンサーから結果を求められるというプレッシャーはありますか?

ボンちゃん: 僕も“恐縮です”って感じですけど、ウチ(レッドブル)はないです。もちろん結果を出したほうがいいと思うんですよ、日の目を見ることになるし、こうやって取材も受けられるし。でも、例えば「この大会で何位以内に入らないと終わりです」みたいなのは全く無いです。

 なんなら出る大会もこっちが勝手に決められますし。言われたとしても「Evolution(世界最大の格闘ゲーム大会)は出て欲しいですね〜」くらいです。それはもう言われなくても全然出ます、っていう(笑)。そういう点ではかなり気楽ですね。

―― では、他のプロゲーマーから「スポンサーのプレッシャーがきつい」みたいな話は聞きます?

ボンちゃん: そりゃあるんじゃないですか、お金もらってますからね。それこそ「結果出さないと終わり」って言われたという話も聞いたことがあります。

―― ぶっちゃけ年収どのくらいですか? というのも聞きたいんですけど……。

ボンちゃん: あ〜……。まぁ生活は……全然、困らないですね(笑)。まぁ具体的な金額はアレですけど……「結婚できます」ってくらいです。

―― 今、ゲームタイトルはストリートファイターVだけに絞って活動していますよね。このタイトルはEVOの参加人数が1年で激減しましたが、もしこのタイトルが廃れたらどうしますか?

ボンちゃん: 廃れたらどうするか、というよりは“自分がやるゲームを盛り上げよう”という考え方なので、廃れていったとしても「いや、盛り上げますよ」という感じですね。

―― では、ストリートファイターVのサポートが終了してカプコンカップ(高額の賞金がかかった公式世界大会)も終了しますとなったら。

ボンちゃん: それは……お金になりそうなゲームにしますね。賞金って、その人のパラメータになるというか、頑張った結果が数字として表れるものなのである程度稼がなきゃダメだと思うんですよ。だから、ストリートファイターVは賞金が高いからやらざるを得ない、という感じですね。

―― では、他の格闘ゲームタイトルの大会が同じくらいの高額賞金、もしくはそれ以上の金額を出すとなったら……。

ボンちゃん: (食い気味に)やりますやります。全然やります。(ストリートファイターVに)固執する理由なんてないんで。

―― プロらしい答えですね(笑)。では、格闘ゲーム以外のものに参戦する可能性は?

ボンちゃん: 格闘ゲーム以外となると、全然触ってないんですよ。現状LOL(リーグ・オブ・レジェンド)とかは賞金がすごく高い訳ですけど、やってないんで……。仮に格闘ゲームができなくなったらやるかもしれないですけど、そんなに甘い世界じゃあないだろうと。それに、向こうは20代で引退どうこうが言われる世界じゃないですか。こっちは30歳なので。

初期のストリートファイターVには「いら立ちを超越していた」

―― 海外のインタビュー動画で、ストリートファイターVのゲーム性を批判していました。「(バトルバランスの)調整の仕方が幼稚園児」「オンライン対戦は“テストプレイしてないでしょ”ってくらいひどい」など、プロゲーマーとしてこういう見解を表に出すのはかなりレアなケースだと感じましたが……。

ボンちゃん: あれは、僕は普段からもっとスゴいことを言ってるつもりだったんで。じゃあちょっとオブラートに包んで言ってやろうと。なんなら「包んでやってんだよこっちは!」くらいの感覚で、そんなにスゴいこと言ってるつもりはなかったですよ。むしろ、結構優しいなっていうぐらい。

―― ゲームメーカーの方と接点はあるんですよね? 関係が悪化するかも、と思ったりはしませんでしたか?

ボンちゃん: まあイベントに呼ばれたりもするので、そこでメーカーの人と顔を合わせたりはしますが(関係悪化は)どうなんですかね……現状クレームを出してくる人は居ないです。というか、メーカー側としても言われて痛い部分だと思うんで、触れづらいんじゃないですか? 残念ながら向こうに正義はないですから。

―― とはいえ、リリース当初と比べたら相当ゲームとしての完成度は上がっていると感じます。発売当初はロード時間やオンライン環境に多くの不満が集まっていましたが、これについてはどう思いました?

ボンちゃん: 笑いながら見てましたよ。もういら立ちを超越してましたね、「すげぇゲームきたな……」みたいな(笑)。とはいえカプコンプロツアー(公式世界大会の出場権を巡って行われる各国での大会)が発表されていたので、どんなゲームでもやらない訳にはいかなかったんですよ。だからそれに従う感じでしたね。

―― 一般ゲーマーからは猛烈に批判されていましたが、発売直後には「プロゲーマーからも批判の声をあげてほしい」という声もありました。プロゲーマーという立場であれば、メーカーを堂々と批判する訳にもいかないのではないかと感じたのですが……。

ボンちゃん: まぁ普通批判したくないですよね、一銭の得にもならないのに矢面に立ちたくないじゃないですか。僕の場合はスポンサーから「自由にやっていい」って言ってもらっているので、そういう意味ではインタビューでも言いやすい立場ですよね。

 でも、誰がどう見ても不満に感じるであろう部分を言っただけで、同意するしかない意見だと思うので、あれで騒がれるのもおかしい話ですよね。仮にあれでメーカー側が怒ってたら、相当問題ありますよ。

景表法は「法律変えてくれよと思ってる」

―― eスポーツには「プレイヤー以外には駆け引きの内容が分かりづらい」という問題があると思います。ゲームの面白さをプレイヤー以外に伝えるために、業界はどうなっていくべきだと思いますか?

ボンちゃん: やっぱり良いプレイをしたら、そのことに気付かれないとマズいんですよ。そこをどう認知されるかを考えると、やっぱり大会の実況・解説は頑張りどころかなとは思ってます。特にEVOのような大きな大会だと、与える影響が大きいですから。

 ただ、現状は人材不足すぎますね。実況・解説って求められるスキルが半端じゃないんですよ、それこそトッププレイヤーとまではいかなくてもかなりやり込んでないと知識も入ってないですし。

―― 海外と日本を比較して、プロゲーマーの環境はどう違います?

ボンちゃん: 日本の方がいいんじゃないですか? 人は多いから望む対戦相手も探せますし、練習環境は恵まれていると思います。海外だと、本当にトッププレイヤーが1人しかいない国もあるんです。例えば、シンガポールだとXianっていう人が“1強”ですし、そういうところと比較すると申し訳ないくらい環境は整ってますね。

―― 景品表示法によって高額な賞金が掛かる大会が開催できないという日本特有の問題がありますが、これについてはどう思いますか?

ボンちゃん: 法律変えてくれよって思ってます(笑)。そりゃそうですよ、大きな大会でも日本開催だと賞金が出ないんですから。海外と全く同じルールなのに、理由が“日本だから”ですからね……ゆがんでますねぇ。

―― 景表法の改正について、プロゲーマー側から働きかけることは考えていますか?

ボンちゃん: 自分たちでどうこうできる問題じゃなかったりするので、プロゲーマーって肩書で闘う場所じゃないかなと。

 でもやっぱり不満でしかないですね。日本で仮に高額賞金が出せるなら、もっと大会も開かれるだろうし、もっと盛り上がるはずなんですよ。これだけ世界中で日本のゲーマーが活躍していて、それなのに大会の数が少ないのはやはり賞金が少ないからですよね。

ウメハラとときどを見て“本気でゲームをやっていいんだ”と思った

―― プロゲーマーになろうと思ったきっかけは何だったのですか?

ボンちゃん: もともとエンジョイ勢だったんですけど、目指し始めた一番の理由は面白そうな世界だなと感じたからです。僕がプロゲーマーになりたいと思い始めたころは、日本でプロゲーマーが5人くらいしかいなかったんですけど、その頃のときどが色んなタイトルのゲームをやっていて、ものすごい練習していたんですよ。それこそ12時間くらい平気で練習する。僕も“ゲームはただの遊び”ってイメージがあったんですけど、そういうときどの姿をみて“これは仕事だ”と思ったんです。しかもその頃はプロゲーマーだったウメハラさんとときどが結果を出していたので……この2人を見てからですね、“本気でゲームをやって良いんだ”と思ってプロゲーマーを目指すようになったのは。

―― ウメハラさんとは、もともと同じ職場(雀荘)で働いていたと伺っています。ウメハラさんはプロゲーマーのパイオニアと言っていい存在ですが、どう感じていますか?

ボンちゃん: プロゲーマーというくくりで見るなら、そりゃもうスゴい人ですよ。頭も上がらないし「ありがとうございます、ウメハラさん」っていう感じ。ただその世界から一歩出たら「テメェこの野郎!」って言えるくらいの関係です(笑)。プライベートだとお互い敬語でしゃべる訳でもないですし。

 あの人ってすごく自然体なんですよ。でも人間らしいだらしない部分もあって、いい人間だなと。やっぱね、上に立つ人間は聖人じゃなくていいんですよ、ちょっと抜けててくれないと。

―― これも気になってる人は多いと思うんですけど、プロゲーマーってモテるんですか?

ボンちゃん: んー……モテるんじゃないですか?

―― それはご自身の例で……?

ボンちゃん: そうですね……普通にモテると思います(笑)。別に女性ゲーマーにモテるというわけでもなく、むしろゲーマーと付き合ってるプロゲーマーの方が少ないくらい。というか、モテないプロゲーマーは1人しか知らないです、マゴさんだけ(笑)。

―― (マゴさんの話はさておき)プロゲーマーがモテるというのは、なんだか夢のある話で安心しました(笑)

ボンちゃん: 確かに、モテてくれてた方がゲーマーはうれしいですよね(笑)

みんなが賞金欲しさに最強キャラクターを使い始めたら、この業界は終わり

―― 今後プロゲーマーという存在はどうなっていくと思います?

ボンちゃん: 歩み方さえ間違えなければ、生活できる人は増えていくと思います。

―― その「歩み方」というのは?

ボンちゃん: 結局、どれだけ自分のプレイに魅力を出せるか、どれだけ自分の事を支持してもらうかなんですよ。結果だけを求めるプレイと、魅力のあるプレイって全然別なものだと思っていて、結果を出すのなんて……言ってしまえば“そんなもん出せんだろ”って話です。

 本当に結果“だけ”を求めるのなら、僕は最初から最強キャラを使いますよ。だけど、そんなことをやっていても自分のためにならない。僕はプロゲーマーになる前から色んな人から応援してもらっていたんですが、それはやっぱり(単に強かったというだけでなく)魅力のあるプレイをしていたからだと思ってます。

 今、表舞台で活躍している人たちは、みんなプレイに個性があるんですけど、もしプロゲーマーみんなが賞金欲しさに最強キャラを使うということになったら、もうこの業界は終わりだと思います。

―― では、今プロゲーマーの間では“結果だけを求めてはいけない”という良識があると。

ボンちゃん: 一部のプロゲーマーとはそういう話をします。プロゲーマー全員とそういう話をする訳じゃないですけど、きっとみんな「そうじゃないよね」と思っているはずです。

●子どもが「夢はプロゲーマー」と言うようになったら最高

―― eスポーツ業界全体として“こうなったらいいな”という希望はありますか?

ボンちゃん: ゲームが認知されていって……それこそ小さい子が「夢はプロゲーマーです」って言うくらいになったら最高ですね。何を成功と言っていいか分からないですし、プロゲーマーだって上も下もいますけど、そういう子どもたちがプロゲーマーになったときに胸を張って「生活は余裕ですよ」って言えるくらいにはなって欲しいですね。

―― 今後、プロゲーマーとしての目標はありますか?

ボンちゃん: 今はゲームセンターにないゲームをやっているので、プレイヤー同士の交流のために全国各地を巡ってオフ会をやってるんですけど、これが思ってる以上に反響があるんです。みんな集まって対戦するっていうことを求めてるんだなと感じたので、これは今後も継続したいと思っています。

 後は……当たり前ですけど最前線に立ってプレイし続けることですかね。

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