シネマズ by 松竹

(C)2016 LOVE AND WAR LLC

9月15日から全国ロードショーとなる『オン・ザ・ミルキー・ロード』のエミール・クストリッツァ監督が来日。『アンダーグラウンド』など、母国ユーゴスラビアの紛争を描き続けてきた監督は、自ら主演を務めた本作をもって、紛争を題材にした映画から引退することを表明している。

カンヌ国際映画祭ではパルムドールを2度(『パパは、出張中!』『アンダーグラウンド』)、ヴェネチア国際映画祭では監督賞(『黒猫・白猫』)と第1回作品賞(『ドリー・ベルを憶えている?』)、ベルリン国際映画祭では第2位に当たる銀熊賞(『アリゾナ・ドリーム』)と、世界三大映画祭をすべて受賞しているエミール・クストリッツァ監督に、今回の新作へと繋がる作家性の原点と、ユーゴスラビアの映画作家について伺った。

──この『オン・ザ・ミルキー・ロード』では、初めて自身の監督長編作品で主演を務めていますが、カメラの前に立つということで、演出的な変化はありましたか?

エミール・クストリッツァ監督(以下、クストリッツァ)「(自分で主演することは)役者と監督とをスイッチしなければいけなかったから、とても難しいプロセスだったよ。私の映画はセリフを中心に動いていく作品ではなく、ヴィジュアルの中でセリフができていくタイプの作品なので、カメラは常に動くようにしているんだ。もしこれが、すごくセリフの多い映画であれば、カメラアングルは決めやすいけれど、そうはしたくない。いろんな可能性を試す演出をしているので、演じながら演出する中で、自分を見失うのではないかと常に恐れていたんだ。だから、プロの俳優ではなく、アマチュアの俳優として演じるように心がけたよ」
(注釈:クストリッツァはこれまでも『サン・ピエールの未亡人』や『フェアウェル さらば、哀しみのスパイ』など、他の監督の作品に俳優として出演しており、俳優としての出演作は監督作よりも多い)

(C)2016 LOVE AND WAR LLC

──今回の作品も含め、監督の映画に頻繁に見られる、人物と動物と戦争を重ね合わせた作風に、監督が学生時代に手がけた短編に登場した、ピカソの「ゲルニカ」を想起させられたのですが、監督の作品づくりのインスピレーションの元になっているものはありますか?

クストリッツァ「その短編は『Guernica』のことだね。あれはセルビアの短編小説を基にしたんだけど、そのときに、小説というものが映画作りに影響を与えてくれること、そして小説で描かれるよりも映画で描くほうが鮮明に描写できるということを知ったんだ。例えば、その元の小説に登場しなかった「ゲルニカ」を登場させたように、設定やストーリーを効果的に描くためには、映画という方法が適している」
(注釈:クストリッツァがプラハ芸術アカデミー在学中に制作した初監督作品。ユダヤ人一家の少年を主人公に迫害前夜を描き、カルロヴィ・ヴァリの学生映画祭で最優秀賞を獲得している。劇中で、主人公の少年が美術館に飾られているピカソの「ゲルニカ」を眺める場面が登場している)

──その考えが、今の作品にも繋がってるのですか?

クストリッツァ「そう。だからセリフで物語ることよりも、ヴィジュアル面を最大限に描いていこうとしているんだ。セリフに集中した部分と、ヴィジュアル面に集中した部分を上手く融合させて、できるだけ自分の描きたい〝エモーショナルな部分〟を観客に伝えるために最適な方法を、今でもずっと探っているんだ」

──学生時代にヨーロッパの巨匠たち(フェリーニやルノワールなど)から影響を受けたクストリッツァ監督は、ご自身以外のユーゴスラビア出身の監督たちについてどうお考えですか?

クストリッツァ「例えばヴェリコ・ブライーチは自分の趣味とは少し違うけど、ドゥシャン・マカヴェイエフはとても良い監督だと思うよ。でも一番好きなのはアレクサンドル・ペトロヴィッチかな。彼の撮った『ジプシーの唄をきいた』(1967年制作・カンヌ国際映画祭審査員大賞受賞)はとても素晴らしい作品だった。他にもジヴォイン・パヴロヴィッチもオススメだよ」
(注釈:ヴェリコ・プライーチはアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた『ネトレバの戦い』で知られる、60年代の名匠。ドゥシャン・マカヴェイエフは『スウィート・ムービー』など前衛的な作風で人気の高い、ユーゴスラビアを代表する監督の一人。ジヴォイン・パヴロヴィッチは60年代から70年代に映画やTVで活躍した監督)

(C)2016 LOVE AND WAR LLC

『オン・ザ・ミルキー・ロード』は9月15日より、TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー。

(取材・文:久保田和馬)

関連記事

9年ぶりのクストリッツァ!純愛ファンタジー『オン・ザ・ミルキー・ロード』に込められた反戦のメッセージとその原点
『少女ファニーと運命の旅』で未来へ語り継ぐ、ナチス占領下フランスの子供達
不遇の名作『ありがとう、トニ・エルドマン』が描く、父親の愛情とユーモアの意味
『ボンジュール、アン!』で監督デビュー。華麗なるコッポラ一族と女優ダイアン・レイン
『カフェ・ソサエティ』でウディ・アレンがした「原点回帰」と「新たなる挑戦」

全文を表示