わたし母親が好きになれない。中学のとき、ブラジャーを買ってくれなかった。小学生のときは、むりやり交換日記をつけさせられた……」

 さわやかの始業シーンで、井上央演じるスクールカウセラー・日向ひなた先生母親をディスするナレーションで幕を開けた『明日約束』。井上央の連ドラ演は、視聴率の低さしか話題にならなかったNHK大河ドラマ花燃ゆ』以来、民放では『トッカン 特別税徴収官』(日本テレビ系)以来となる5年ぶり。松本潤との結婚間近と囁かれていた井上央がドラマ復帰作として選んだのは、自殺を遂げた高校生を追い詰めた真犯人を見つけ出すというシリアス社会ミステリーです。実在の事件を題材にしているだけに、関西テレビがどこまで人間の心の闇をリアルに描いてみせるのか興味々。あえてイバラを進もうという井上央の女優魂もあっぱれです。

 テレビ朝日が『ドクターX』『相棒』『科捜研の女』と盤石の人気シリーズシフトした今ドラマレースの中で、スクールカウセラーが子どもたちの心の闇、その闇を生み出す元となっている“親”と対峙することになる本作はダークホース的な存在でしょう。所属事務所を移籍し、今年30歳を迎えた井上央が背水の陣で挑むドラマとして注されていますが、いちばんの見どころは最親・吉岡真紀子を演じる仲間由紀恵不気味さ。夏休み明けから不登校状態が続いている高校1年生息子遠藤健慎)の下駄にあるシューズが微妙にズレていることを見逃さず、「外出するときは、ママにちゃんと言ってね」とにっこり。また、バスケット部の先輩メールを送るときは、背後にぴったりとり付いて文面をしっかり検閲仲間由紀恵映画演が『リング0 バースデイ』(00)の貞子役だったことを思い出し、背筋がブルッとします。

 20分拡大となった初回スペシャルでは3人の親が登場。バスケット部のマネージャー増田希美香(山口まゆ)は、遊び好きな母親・麗美(青山倫子)のネグレクト地獄っただ中。17歳誕生日なのにプレゼントはおろか食事代さえもらえないことから、空腹に耐え切れずに希美香はスーパーで安そうなショートケーキ万引き。あっけなく、スーパー店員・香澄(佐久間由依)に見つかる騒ぎに。それでも男のことしか考えていない麗美にブチ切れ、自分の母親を流血させてしまう。病院で塞ぎ込む希美香に、「わたしアドバイスすることしかできない。でも、母親から自由になるという選択肢もあるってことを覚えておいて」と優しく伝える日向先生。保護者でもなく、教育者でもない、第三者であるスクールカウセラーならではの冷静な判断です。

 カウセラーとしては有能日向先生ですが、そんな彼女が手を焼いているのが実の母親である尚子(手塚理美)。交際中の本工藤須加)と居酒屋デートして遅くに帰ってきた日向に、「一緒にケーキ食べよう」と理強いする尚子。善意仮面を被った親に、ずっと優等生で過ごしてきたは逆らうことができない。一発一発パンチはささいでも、毎晩のように浴びるとこれはキツい。さらに輪を掛けて強なのが、仲間由紀恵演じる吉岡真紀子。息子を自分の監視下に置いておきながら、が自宅から抜け出すと、日向が勤める高校電話して、「取り返しのつかないことになったら、どうするんですか!!」と教員全員息子探しを強要する。モンスターマザーは自分が動かずとも、他人を操るのが抜群にうまい。

 プチ出したを、いちく見つけたのは日向先生の体育館での悩みに寄り添おうとした日向先生に、は「先生にお願いがあるんです。とつきあって」と告白。まぁ、これはカウセラーとクライアントにありがちな事例でしょう。「それはできないわ」と大人の対応をする日向先生。ところが翌、自宅に戻ったは部屋で首をってしまうという衝撃の初回ラスト。次回からは真紀子が息子自殺の原因は学校側にあると大攻勢を仕掛けてくることは必至。職場に行けば真紀子の過な口撃にさらされ、自宅に戻れば・尚子のネチネチした嫌味に耐えなくてはいけない。日向先生どーなる!?

 放送上ではクレジットされていないものの、本作の原案的な存在となっているのがノンフィクション小説モンスターマザー 長野・丸子実業「いじめ自殺事件」教師たちの闘い』(福田ますみ著、新潮社刊)。長野県スポーツ名門校で実際に起きた高校生自殺の原因をめぐり、保護者だった母親高校校長たちを殺人罪などで訴えた裁判の末を追ったもの。地元ではかねてから問題視されていた虚言癖のある母親の巧みな言葉に、ベテラン人権派弁護士や県会議員、有名ジャーナリストたちがすっかり丸め込まれたために騒ぎが大きくなり、裁判に巻き込まれた生徒や教員たちに深い心のキズを残す結果に。また、学校側が開いた記者会見の様子をセンセーショナルな演出で煽ったテレビ局をはじめとするマスメディアが、事件の相を大きくミスリードさせてしまったのです。ひとりの高校生の心の闇が、現代社会歪みシンクロして広まっていった実に恐ろしい事件でした。

 鎌倉を舞台にした『明日約束』は、脚本家・古和尚オリジナルストーリーとなっていますが、そんなっ暗な社会の闇に一条を差し込ませることができるのでしょうか。初回視聴率は8.2%ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、シリアスドラマとしてはまずまずの数字だと思います。重いテーマに、これからさらに数字を落としていくのか、それとも井上央 vs 仲間由紀恵の闘いがエスカレートして数字をじわじわ上げていくのか。手塚理美と文鳥ピッピちゃんのやりとり&「明日約束」と名付けられた交換日記の内容ともどもが離せそうにありません。
(文=長野次)

フジテレビ系『明日の約束』番組サイトより