◆「自衛隊ができない20のこと 16」

 少し前に「有事に自衛隊は赤信号で止まるのか?」ということが話題になりました。2003年に武力攻撃事態対処関連3法が成立し、有事法制の基本法である武力攻撃事態対処法が施行されましたが、日本の戦車にはウィンカーがあります。このままだと赤信号で止まらなければならないことは変わっていません。赤信号で止まったらそこで敵から狙い撃ちじゃないの!? そんな話も当時あったように思います。

 そこで今回、防衛省に直接「有事でも自衛隊は赤信号を守るのですか?」と聞いてみました。すると「武力攻撃事態になっても、基本的に信号、その他道路交通法は遵守する」との回答が返ってきました。有事法制でも話題になったこの問題ですが、まだ道交法で「有事には自衛隊は道交法が適応除外になる」というような法改正はありません。だからとても解釈がややっこしく、基本的には法律を遵守するとしか言えないのです。

 有事法制で自衛隊が有事に適応除外になっている項目を記載しているのは自衛隊法115条ですが、道交法では道路の占有についての適応除外が書き加えられています。つまり、道路の占有等を行う場合は、管轄警察署長の許可を受けなければならないのですが、有事だと通知だけでOKになりました。有事の時の自衛隊への道路交通法の適用除外はそれだけであり、赤信号を守らなくてもいいという記述はないのです。もちろん、ウィンカー表示が要らないという記述もありません。法定速度も守らないとダメです。

 これでは有事でも「この自衛隊車両は今からこっち方向に曲がりますよー」と敵に教えるウィンカー表示をするのか?と心配になります。「赤信号」「ウィンカー」「法定速度」と気になるところは法令を解釈して対処するしかありません。だから、人によって話が違ってくるのです。防衛省に問い合わせても「有事の赤信号走行について」をピンポイントで考えようとする動きはないようです。

 有事法制では道交法がらみの改正は「道路の占有等を行うことについては通知で足りる」という改正されています。この部分を準用すると考えられています。ただし、これはあくまでも陣地を作るための法令改正なのです。

 防衛出動がかかっている有事になれば、「道路の占有地内だから一般道ではないと考えて適応除外にするのではないか?」とか、「警察と連携して自衛隊が通るときには一斉に青信号にするのでは?」といった解釈は一般人の間に多数存在するものの、具体的な法令の定めがないのでその場でどうにかやってしまうしかないのだろうと推測するしかないのです。今もそんな状態のまま、制度を決めきれてないのに話は打ち止めになっているのです。自衛官は公務員ですから「法令を守る大前提で動きます」と答えるのは当然でそうなると悠々と法定速度外で突っ走る敵を法定速度でゆっくり追いかける自衛隊という笑えないギャグが起こちゃいます。

 せめて緊急車両扱いの特例を有事の場合に限り自衛隊車両に許可すると明記したら現場は混乱しないのにと思います。出たとこ勝負で動いて後から違法とされ、逮捕者や処罰対象者が出たりしたら大変です。また、それによって戦況も不利になるかもしれません。たかだが赤信号ですが、国際法はともかくとしても、日本の道交法を侵略者やテロリストが守るとは思えず、細かく法令に従い法定速度で走行し赤信号で止まる自衛隊と比べればどちらが有利かは問うまでもありません。最初から自衛隊に重い足かせを付けての戦いになってしまうわけですよね。「オーマイガー!」です。

 東日本大震災の時にも法定速度を遵守して被災地に向かう自衛隊車両が目撃されたそうです。どんな時でも法令を守るという事が果たしていいのかと聞かれると「謎」です。でも、法律は守らないといけません。法律をまもらなかったら、自衛隊嫌いのメディアや活動家のみなさんにつるし上げられてしまいます。現状では仕方ないのです。

 ためしに、陸上自衛隊関係者に「自動車や軽トラで活動するテロリストは、“1分から2分30秒止まっている戦車”を仕留められるか」と聞いてみました。

「それだけの時間があればテロリストの持っているRPG程度の小さな武力でも戦車攻略は可能です。事前に準備して信号付近で待ち伏せできます。仕留められますよ」とのお返事。ほんの短い赤信号停車でも命取りになるということです。

 さらに、自衛隊は一般道を通る際には、いろいろな届出をして、許可をもらって移動しています。自衛隊の車両は重量が重すぎたり、大きさが一般車両とは違ったりする特殊車両が多く一般道を走るだけでも許可が必要なのです。有事でも通知で行います。自衛隊は普段から、平時の一般を対象とした様々なルールに縛られ、たとえ有事であっても手枷、足枷をされた状態で道路を使用せざるを得ないのです。

「有事で自衛隊が赤信号遵守するわけはないだろう。警察も目をつぶるよ」と想像するのは簡単ですが、現場に判断をゆだねては大混乱します。仮に「有事に自衛隊車両は赤信号を止まらない」と法改正で決まったとしたら、事前にそのことを国民全体に知らせないといけません。「有事に自衛隊車両を見たら左によけて止まる」というような対応を一般人に徹底させるか、戒厳令を敷き屋外に出る制限を設ける必要があるのではないかと思います。免許センターの問題も変えなきゃなりません。政治がきちんと制度を作り、広報する必要があるのです。道交法だけでも、政治が1つ1つ決めて制度を作り替えないとダメってこと、これで想像つきますよね。現場に判断をゆだねてはあちこちで事故が起こります。

 制度を変えていく時は変わったことを広報し、一般の人が理解してそう動くように慣れていく時間が必要です。仮に赤信号対応を変えるだけでも、自衛隊車両が緊急車両のような赤信号でも走行するということをみんなが知っていないと事故が起こります。

 些細な物事ひとつ進めるにも、「法令遵守」の自衛隊は大変なのです。あちこちから深いため息が聞こえてきそうですね。

【小笠原理恵】
国防鬼女ジャーナリスト。「自衛官守る会」顧問。関西外語大学卒業後、報道機関などでライターとして活動。キラキラ星のブログ(【月夜のぴよこ】)を主宰