日清食品が突如として発表した、麺をすする音をカムフラージュするというフォーク「音彦」。麺をすする音が外国人を不快にする「ヌードルハラスメント(ヌーハラ)」を解消できるというコンセプトが注目を集め、メディアがこぞって取り上げた。

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 ネット上でも「エイプリルフールには半年早い」「吹いてしまうから、電車の中でPVを見るの禁止」と面白がる意見から、「麺をすするのは日本の食文化。海外基準に合わせる必要はない」――といった“マジレス”まで、さまざまな意見が飛び交った。

 音彦は、TOTOのトイレ用擬音装置「音姫」に着想を得て開発。柄に搭載する集音マイクが麺をすする音を感知すると、Bluetooth接続したスマートフォン上の専用アプリからジェットエンジンの音に似た電子音が流れ出す仕組みとなっている。

 価格は1万4800円(税込)で、現在はクラウドファンディング限定で予約を受付中。12月15日までに予約数が目標の5000個に達した場合に発売する予定だ。

 日清食品は、本気で音彦のヒットを狙っているのだろうか。それとも“ネタ”なのか――。その真意や開発の背景と日清食品 マーケティング部 ECグループの佐藤真有美ブランドマネージャーと渡邉真さんに聞いた。

●「音彦」を開発したワケ

――なぜ、音彦を世に出そうと考えたのですか?

佐藤さん: 日清食品グループのインターネット通販(EC)サイトがリニューアルしてから1周年を迎えたことを機に、顧客との接点をさらに強化したいと考えたためです。

 従来のECサイトは一般的なものでしたが、リニューアル後はより多くの顧客に楽しんでもらえるよう、Web漫画を連載したり、「カップヌードル」を調理できる縄文土器を発売したりとユニークな取り組みを行ってきました。

 その一環で、「食に関する課題を解決する」がテーマのプロジェクト「PRODUCT X(プロダクト・ペケ)」を立ち上げ、ユニークなデバイスの開発を進めることになったのです。

 「外国人は、麺類をすする音を不快に感じるようだ」という話は、1年前からチームメンバーの間で話題になっていました。

 長年麺類を扱ってきた当社は、麺をすするという日本文化を大切にしたいと考えています。そこで、麺をすするという行為をポジティブなものに変えられるデバイスがあれば、世界中のみんなが一緒に楽しくラーメンを食べられると思い、音彦のコンセプトを決めました。

ECサイトの認知度拡大が真の狙い

――今後は、商品として本格的に展開される方針なのですか?

渡邉さん: 本当に音彦が広く使われるようになるかというと、正直難しいと思います。ただ、音彦というユニークな商品を機に、ECサイト上で面白い取り組みをしていることを多くの人に知ってもらいたいと考えました。

 本気で欲しいと思ってくださる顧客のことを考え、商品化の準備はしっかりと行っているので、単なる“ネタ商品”とは違います。

――音彦を開発する上で、こだわった点や苦労した点があれば教えてください。

佐藤さん: 自然の音を使った音楽制作に定評のあるサウンドクリエイター、清川進也氏にカムフラージュ音の制作を依頼しました。何曲も候補を作っていただいた中で、ジェットエンジンに似たものを採用しました。

 当初はシンセサイザーを活用した、ノリのいいリズミカルな音も候補に挙がっていたのですが、すするたびに流れると煩わしいので不採用になりました。いくらリズミカルな音楽が流れても、食べながらノリノリで踊る人はいませんよね。

渡邉さん: 当初の予定では、柄を今の半分くらいの細さにする予定でした。ですが、内部に基板が入りきらなかったので、試行錯誤を繰り返して現在の形になりました。

 スマホやカメラと同じで、小型の高性能な基板を採用すると莫大なコストが掛かります。当初の大きさで販売した場合、価格は1本当たり10万円を超えていたかもしれません。

●海外メディア「日本人が変わろうとしている」

――音彦を発表してから、メディアや一般消費者からどんな反響がありましたか?

佐藤さん: 発表後数日間は、メディアからの取材が非常に多かったです。報道の切り口は「一体誰が使うんだ」「需要はあるのか」「実際に欲しい人はどれくらいいるのか」――など、面白がるものや、ビジネス的な観点のものが多かったです。

 海外メディアからの取材も多かったのですが、彼らは「日本人が国際的なマナーに気を使い始めた」「日本人が、自ら食文化を変えようとしている」――といった真面目な切り口で報道しており、面白がる要素が日本より少なかった点が印象的でした。

渡邉さん: 一般の方にも、おおむね好意的に受け止めていただきました。われわれは「ヌーハラ」をポピュラーな社会問題だと思っていたのですが、「音彦をきっかけにヌーハラを知った」という人が意外に多く、驚かされました。

――PR動画では、麺をすする音よりもカムフラージュ音の方が大きかったため、ネット上では「そっちの方がハラスメントだろ!」と突っ込みをいれる声もありましたが……

佐藤さん: 音彦とBluetoothでつながったスマホから音が出る仕組みなので、音量はスマホ上で自由に調節できます。動画では、音が鳴ることの面白さ・楽しさを表現したかったので、あえて強調させてもらいました。

クラウドファンディングの予約は意外とピンチ

――音彦のクラウドファンディングの予約は、現時点でどの程度進んでいるのでしょうか?

渡邉さん: 目標は5000件なのですが、現時点(取材を行った11月7日現在)では203件です。12月15日までに目標数に達しなければ、残念ながら商品化はキャンセルになってしまいます。

――先ほど「音彦をきっかけとして、ECサイトの認知度拡大につなげたい」とのお話がありました。音彦のクラウドファンディングが目標に達しなかったとしても、ECサイトのアクセス数が増えれば施策は成功といえるのでしょうか?

佐藤さん: 音彦を発売できれば嬉しいのですが、「ヌーハラを解消したい」というコンセプトを世に広められただけでも非常に大きな成果だと考えています。われわれは副産物だと捉えていますが、結果的に集客も増えています。

渡邉さん: 音彦の発表後1週間のECサイトの出荷数は、発表前の2倍になりました。

 「音彦は注文しなかったけれど、他の商品を買っている」という層は間違いなく増えています。「話題作り→サイト訪問→申し込み」という一連の仕組みがしっかりと機能した結果だと実感しています。

●次の“面白デバイス”は3月末までに出す

――今後は、どのような“面白デバイス”を世に出したいとお考えですか?

佐藤さん: 3月末までに次の商品を発表したいと考えていますが、内容はまだ決まっていません。現在、チームメンバーとアイデア出しを進めています。

 音彦がハードルを上げてしまったことは否定できませんが、今後もユニークな商品を発表し、世の中にインパクトを与えたいと考えています。

麺をすする音を打ち消すフォーク「音彦」