元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きな税務署は「港町税務署」です。

 税務調査にも、さまざまな種類があります。事前に調査の予約をして、税理士立ち会いのもと、帳簿資料を紐解くのが通常の調査です。それ以外にも、飲食店やその他のサービス業であれば、複数の職員がこっそりお店に行って食事をしたりサービスを受けたりする「内観調査」、税務調査中に確認した取引の内容を調べる「反面調査」があります。反面調査は、調査対象の取引先に行きますから、臨場された会社や個人事業者は巻き込まれたかたちになります。調査対象にとっても、不正を疑われているという印象を持たれるので、いいことはひとつもありません。そのため、反面調査をすることで、調査対象からクレームが来ることが多々あります。それでも、国税局が反面調査を続けるのは、それだけ効果と実績があるからなのです。

【準備調査、内観調査】
 卸売業を営むA社は、資本金500万円、設立12年目で、業績も好調でした。3期連続で黒字を出し、留保金もあって納税も遅滞なく行っていました。日本にある法人263万436社のうち、利益が出ている法人は93万9577社、欠損法人(いわゆる赤字の法人)が169万859社で、欠損法人の割合は64.3%です。半分以上が赤字ですから、3期連続の利益計上は優秀といえます。さらに、資本金2000万円以下で見ると、欠損法人の割合は70%を超えますので、調査先を選定する際にA社は目立ちました。

 直近の確定申告書を見ると、建物に対し工事を行ったらしく、多額の修繕費を計上していました。法人の所有する事務所に対するものでしたが、調査に臨場する前に代表取締役の自宅を確認することにしました。自宅と法人の本店所在地は一駅ほど離れており、調査当日に確認するには、調査時間を短くしなければいけません。統括官に許可を取り、調査の1週間前に、こっそりと自宅に行きました。外観しか見ていませんが、広義の意味では内観調査に当たります。確認した自宅の外壁は新しく、1年以内に塗装したもののようでした。もしかしたら、自宅の塗装費や補修費を会社の経費で落としている可能性があります。

【調査当日】
 10時に本店所在地に臨場し、雑談をして社長の性格や生活を聞き出します。1時間ほどしてから帳簿を開き、さっそく修繕費関連の書類を確認しました。しかし、300万円ほどの工事にもかかわらず、業者の発行した領収書しかありません。見積書も請求書もないのです。

領収書には、金額と日付と但し書き、工事業者の名前と住所がすべて手書きで記入されていましたが、但し書きの「事務所塗装代金」の筆跡がほかと異なるように見えます。現状を確認するため、当該工事箇所を社長に案内してもらいました。「汚れているから」という理由で渋りましたが、粘り強く説得して確認。案内された場所は、1年以内に工事したようには見えませんでした。

【反面調査】
 工事に対する社長の回答は曖昧でしたが、確かな証拠がなかったため、領収書にあった工事業者に反面調査を行うことにしました。工事業者は初めての反面調査に困惑していましたが、同社の申告内容を否認するものではないことを伝えて、協力を得ることができました。

 請求書や見積書には工事場所の住所があり、それは社長の自宅住所でした。請求書、見積書、領収書の控えのコピーを取り、お礼を言って帰りました。

【社長への確認】
 後日、社長を呼び出し、反面調査で得たコピーを提示、領収書控えと、領収書を並べると、但し書きが異なっていました。領収書は代金を払った側が受け取るもの、領収書控えは代金を受け取った側に残ります。

 社長曰く「3期連続の納税となったので、所得を圧縮するために自宅の塗装工事費を法人の経費として計上した」とのことでした。自宅住所の書かれている工事業者が発行した請求書、見積書は破棄し、領収書の但し書き欄には事務所工事であるように記入して、仮装していました。不正を行っていたことで重加算税の対象となり、追徴税額は本税、重加算税、延滞税を合わせて100万円を超えました。

 みなさんは、反面調査があることを忘れずに、正しい申告をお願いします。
(文=さんきゅう倉田/元国税職員、お笑い芸人)

●さんきゅう倉田
 大学卒業後、国税専門官試験を受けて合格し国税庁職員として東京国税局に入庁。法人税の調査などを行った。退職後、NSC東京校に入学し、現在お笑い芸人として活躍中。

「Thinkstock」より