「行動分析学」をご存知ですか?

前回、職場にいる「困った人」についての対応・考え方についてご説明いたしました。その中で、「困った人」見極めの方法に加え、環境調整の方法の一つとして、社員がやる気を出すための行動分析学というものについて簡単にご説明しました。

今回は行動分析学を上手く活用することで、社内の風通しが良くなり、社員もやる気を持って仕事に取り組めるようになるため、分かりやすく行動分析学とはどういうものか、また具体的導入事例などをお伝えしたいと思います。

行動分析学とは

今回は社員や部下のやる気を引き出すための、行動分析学の大事な根っこの部分をお伝えしたいと思います。

行動分析学とは、場面と結果をコントロールすることで、望ましい行動を強化(たくさん出現しやすくすること)するための学問です。

会社の業務で言うと、営業電話を「自発的にたくさんかけるように」なったり、会社から帰るときには自分のデスクをきれいに片付けて帰るなど、望ましい行動が出現しやすくなります。

行動分析を行うためには、ABC分析というものがあり、簡単に説明したいと思います。

ABC分析とは、

  • A:先行条件(Antecedent) 〜〜のときに
  • B:行動(Behavior)    〜〜したら
  • C:結果(Consequence) 〜〜になった

というものです。ここまでで、ほとんどの方が頭にたくさん「???」が並んでいると思うので、こんな例を挙げてみます。

例)居酒屋で大将に「ビール!」と言うとキンキンのビールが出てくる。

これをABC分析するとこのようになります。

A:先行条件(どんな場面で)
→居酒屋で

B:行動(何をした)
→大将に「ビール!」と言う

C:結果(どうなった)
→キンキンに冷えたビールが出てくる

つまり、

A:どんな場面で
B:どんな行動を取り、
C:その結果どうなったか

と言い換えてもいいかと思います。

この場合はもちろん、「C:キンキンに冷えたビールが出てくる」という望ましい結果が出てきたので、どんどん「B:大将にビール!という行動が増える」ということになります。B(行動)と、C(結果)との間の時間は短ければ短いほど、行動は強化されます。

実はこのA:どんな場面でというのも非常に重要で、これがたまたま全く別の場所(お店とは無関係の本屋など)で大将を見かけ、そこで「ビール!」と言ってもビールは出てこないわけです(笑)。場面をきちんと弁別できていることが重要と言うことも合わせてお伝えいたします。

このように、適切な場面+望ましい結果を付随させることで、「行動の出現量はコントロールすることが可能」になるのです。

では、なぜ明らかに望ましい行動である、「営業電話をたくさんかけたり」、「退社時に自分のデスクを片付けて帰らない」社員がいるのでしょうか?

行動分析学における「行動」とは

その前に、当たり前のように説明している「行動」について、説明します。行動分析学において、「行動」とは、このように定義されています。

【行動の定義】

  • 誰が見ても
  • 客観的で
  • 測定可能なもの

これが行動の定義です。

そのため、「上司の期待した成果を出すこと」や、「自分のデスクを片付ける」は、実は適切な行動設定ではありません。

なぜなら、「上司の期待した成果」は、上司が奥さんとケンカした直後では(イライラをぶつける対象を見つけるために)非常に高くなっている可能性がありますし、どんなに散らかっていたとしても「その人にとっては、その状態がデスクが片付いている状態」と認識していれば、どんな状態であっても本人にとっては「片付いている」という認識になるからです。

厳密に先程の3つの行動の定義を満たそうとするならば、前者の新規営業電話は一日20本かけ、最初に「○○」と言う。これは相手が途中で切って、全部言えなかったとしても、上司であるあなたや周りの人の耳にそう聞こえたなら、望ましい行動1回として、カウントします。

デスクの上を片付けることは、実際に上司であるあなたがデスクの望ましい状態を提示し、それを写真に撮り、部下も見えるよう、部下の机の見えるところに貼り付け、「この状態になったら帰宅してよい」とすると、誰が見ても同じく客観性が保てるので、望ましい片付け行動は行われるようになります。

また言葉はきついのですが、「死人テスト」と呼ばれるものがあり、死人ができることは「行動とは定義しない」とされています。

例えば、子どもに向かって「じっとしていなさい!」、ダメ社員に対して「他人の邪魔をするな」と言うとき、この「じっとしていること」や「邪魔をしない」は行動とは定義しません。なぜなら、死人はじっとしていることは得意ですし、他人の邪魔もしないからです。

また「~~しない」は適切な行動にはならないと知っておきましょう。

具体的な導入方法について

まず行動分析学そのものについて一通りの説明をしましたが、次はここから具体的にどう導入したらいいか、また先程も述べた、望ましい行動のはずなのにそれを妨げるもの、結果としてのご褒美の設定について順を追ってご説明致します。

1.社員の同意を得る

ある日突然これらのことを導入しようとしても、驚かれたり、意図が伝わらないことが多々あるので、社員の同意を得るようにしましょう。
そのためにはあなたご自身が行動分析をきちんと理解しておく、あるいは行動分析の専門家を社内に導入する必要があります。

いずれの場合でも、会社視点ではなく、社員目線でどう伝えたら、聞き入れやすいのかを考えてみましょう。

例えば「社内のモチベーションアップのために」ではなく、「社内のルールを明確にして、みんながもっと仕事がやりやすくなるためにゲーム形式で試してみたいことがある」などと言われると、興味を惹くことができるようになるかと思います。

2.ご褒美を社員に選ばせる

これは保証できるものに限りますが、望ましい行動を一定回数達成した時点で、社員が希望するご褒美を渡すことが、上記の同意も得やすいですし、やる気も出てきます。

ただ部下の希望する商品を十分に用意することは、金銭的に厳しい場合もあると思いますので、例えば「1回望ましい行動を達成するごとにシール一枚を貼っていく。全員で100枚シールが貯まったら、ビンゴ大会開催。ビンゴ大会の商品には、テーマパークの招待券や、有休の優先獲得権、自分専用のアイテム(文具、工具)、今まで少し高くて手が出なかった備品購入などを入れておき、勝った人から選んで行ける」ようにしたら、経費をそれほどかけずに、それこそゲームのように参加してくれることが多いです。

最初は「お試しでやってみて、うまく行けば継続したい」と伝えておくと、なおいいでしょう。

またご褒美はインフレになる場合があるため、最初は低すぎず、また高すぎずということも大事なところです。

3.達成は誰もが見て分かるもの、形で示すことができるもの

目標とする行動(今後ターゲット行動と呼びます)が達成できた際には、その場で簡単なご褒美が必要です。そのために、シールや上司であるあなたの印鑑など、目で見て残り何回で達成なのかを明確にすることです。

先程のようなビンゴ大会開催のような形でもいいですし、個々人でターゲット行動やその難易度が異なるなら調整が必要です。

例えば片付け1回はシール1枚、営業電話1回はシール2枚などです。

またこの達成済みのシールは他の失敗の代償として剥がさない(回収しない)ようにしてください。上げたものは必ず保証することが大事です。でないと、「どうせ、次も他のミスしたらなくなるんだろう」と考えるようになると、この方法は二度と使えなくなります。

このことはお子さんのしつけの場面でも同様です。ある頑張りを他のミス等で台無しにしてしまうことで、ご本人のモチベーションを奪ってしまわないようにお気をつけ下さい。

他の場面でのミスはこのターゲット行動とは無関係に裁くようにして下さい。

4.あくまで行動に焦点を絞る

欲張りな上司にありがちなのですが、「じゃあターゲット行動じゃなくて、成果でいいじゃないか」と言う方も中にはおられます。

しかし、成果は出るまでに時間がかかるものもありますし、それこそ確率論で、何百、何千社と当たってようやく大きな取引が始まることもあります。

また途中で異動があり、関係の取り掛かりと実際の成果が年度をまたぐと、その成果は誰のものなのかということも起こるでしょう。

そういった微妙な線引きトラブルを起こさないためにも、ターゲット行動を取ることに焦点を絞るべきです。

望ましい行動の積み重ね=望ましい結果

となるよう、正しくターゲット行動を設定することが必要です。

余談になりますが、営業電話も毎回表現を同じにするのではなく、Aという名乗り方を100回した場合とBという名乗り方を100回した場合を比べ、どちらの方が次の話を聞いてくれるのか、確率も測定しておくとさらに成果の出やすいターゲット行動が明確になっていきます。

隠れた妨害要因に要注意

本当であれば、営業電話も、デスクを片付けて帰ることも、使ったものは元に戻した方がいいこともみんな頭では理解しているはずです。しかし、実際の行動になぜ繋がらないか、ここで一度整理をしてみます。

単純に言うなら、電話に限らず、営業は断られると心理的にダメージを受けることがありますし、契約が始まったら必然的に担当窓口となり、お休みの日にもクライアントに呼び出されるという望ましくない結果が起こる可能性が非常に高いです。また逆に必ずしも契約をとってもボーナスに反映されるとは限らない(=会社の業績次第)ですし、そのボーナスも即時渡せるものではありません。こうなると、望ましい結果はあくまで「起こるかもしれない」に過ぎず、反対に確実に嫌なこと(本人からすると負担になること)が待っているので、これが隠れた妨害要因になることが多いのです。

デスクの片付けも、終業時間後その片付けをして帰るよりも、恋人とのデートの待ち合わせに間に合う(ためにデスクを散らかしたまま帰る)ことの方が重要なこともあるでしょう。そうであるなら、「片付けも業務時間内に含めてよい」というルールがあれば、妨害要因はなくなります。

このようにターゲット行動が明確で共有されているにも関わらず、ターゲット行動に至らない場合、隠れた妨害要因があることについても考慮に入れておく必要があります。

まとめ

やる気という曖昧なものを測定したり、上げたりすることはできません。そのため、誰が見ても、客観的で、測定可能なもの、すなわち行動をコントロールするために生まれたのが、行動分析学です。

もちろん人間の善なる部分を信じたい気持ちもあるのですが、ともすればサボりたくなるときも、頑張ってもミスをしてしまうこともあるのが人間です。

やる気も上がることに越したことはないですが、まずはターゲット行動をコントロールすること、そのために、場面と結果のコントロールをすることが、自社の問題解決にはとても重要です。

もし行動分析を学んでみたい、取り入れたいけどどこに頼めばいいか分からないという場合はお気軽にご相談下さい。

(舩曳 泰孝/カウンセラー)

仕事にやる気を出すための仕組みがありますか?行動分析学のススメ