全国カレーファンの皆様に、いま注目の“新しい名作カリー”の情報をお届けする企画「新・名作カリー劇場」。今回は、“妄想”でインドカレーを作るという東京・高円寺の『ネグラ』。日替わりの「定食カレー」の中身を探ってきました。

 高円寺といえば、ご存知、中央線の中でも、古着屋やアンティーク雑貨店が多く、多種多彩な国の飲食店や、得体の知れない飲み屋さんが集う、摩訶不思議な街。そんなJR高円寺駅から徒歩5分の場所にある『妄想インドカレー ネグラ』。

 店名からして不思議だが、入店すれば、「これぞ高円寺!」と思わせるド派手な壁画が目に飛び込んでくる。

入り口すぐには、雑貨販売とカウンター席
入り口すぐには、雑貨販売とカウンター席
奥に進むと、視線が気になる女性の壁画が
奥に進むと、視線が気になる女性の壁画が

 席に座ると、店主の大澤思朗さんがやってきて、「今日の定食は…」と教えてくれる。メニューはたった1つ。「日替わりカレー定食」だけなのである。この日は、「しらすのカレー定食」。

 さらに、「うちの自慢のタンドリーチキンは300円のオプションなのですが、お付けしますか?」と。“自慢”と聞けば、もちろん食べたくなる。

1皿で繰り広げられる“妄想”の世界

この日の「しらすのカレー定食」1,000円
この日の「しらすのカレー定食」1,000円

 しらすのカレー1種類だけを想像していたら、登場したのはカレー2種類と、4種のおかずが乗った具沢山の1皿だ。

 大澤さんは1つ1つ丁寧に、そのおかずの内容を教えてくれる。

 時計周りに、下から、長ネギとお豆を煮たダルカレー、タンドリーチキン、しらすのヴィンダルー、老酒で香りづけしたプルドポーク、紫大根のアチャール(漬物)、人参と蓮根のスパイスきんぴら‥‥。

「良かったら、中央のシソの実とインドのお煎餅“パパドゥ”を手でほぐして、パラパラと振りかけて、混ぜてお召し上がりください」とのこと。

 1つ1つ味を確かめつついただく。

しらすのヴィンダルー。本場インドでは、「ポークヴィンダルー」が代表的。豚肉を赤ワインビネガーに漬け込んで作るが、こちらではしらすに、香酢やりんご酢でマイルド感を出しているそう
しらすのヴィンダルー。本場インドでは、「ポークヴィンダルー」が代表的。豚肉を赤ワインビネガーに漬け込んで作るが、こちらではしらすに、香酢やりんご酢でマイルド感を出しているそう

 メインの「しらすのヴィンダルー」。ヴィネガーの酸味とスパイスの風味が飛び込んでくるが、まろやかで、その後に、しらすの風味とお出汁のような旨味がじわりと響く。ジャスミンライスと一緒に食べれば、「大盛りにしておけばよかった」と思うくらい後を引く。

長ネギとお豆を煮たダルカレー。スパイスキンピラには、野生のブラッククミンとホワイトクミンの2種類を使っている
長ネギとお豆を煮たダルカレー。スパイスキンピラには、野生のブラッククミンとホワイトクミンの2種類を使っている

「ダルカレー」をいただくと、こちらは長ネギの甘みとお豆のコクの優しい味。人参と蓮根のキンピラは、しっかりとした和風の味だけど、ふんわり香るクミン。ニッポン代表のおかずなのに、スパイスの変化球が面白い。

 また、自慢の「タンドリーチキン」は、フレンチの揚げ煮したコンフィ状で柔らかく、「プルドポーク」は、老酒とシナモンの香りがして中華風にも感じる。また、ほぐした豚肉の食感も楽しい。そして紫大根の「アチャール(漬物)」は、果物の“柿”の甘みが新鮮だ。

タンドリーチキン300円は、コンフィ仕立てで作る。また、大人気のプルドポークは、アメリカのBBQの調理法で、豚肉を長時間蒸し焼きにしてつくるもの。こちらは老酒とシナモン、台湾で使うスパイスで香り付けしている
タンドリーチキン300円は、コンフィ仕立てで作る。また、大人気のプルドポークは、アメリカのBBQの調理法で、豚肉を長時間蒸し焼きにしてつくるもの。こちらは老酒とシナモン、台湾で使うスパイスで香り付けしている

 こうした個性の強いおかずたちは、それぞれ食材の味や食感のコントラストがはっきりしている。

 ただ、大澤さんが言っていたように、それぞれのおかずを崩し混ぜて、さらにシソの実を指でほぐして一緒に食べてみる。すると、一気に香りが統一され、 “和”の味が浮き立ってくるのだ。

「日本にいながらはるか遠くのインドを空想する」ような気分。まさにこちらの店名通り、定食の中に “妄想”を感じる。

食材の味や香りも“スパイス”だ!

 食後に、名物メニュー「痺れるチャイ」をいただきながら、店主・大澤さんにお話を伺った。

「昨年9月にオープンして、1年間、日替わりの2種を盛った“合い盛りカレー”を出させていただいたのですが、最近はそのルールを変えて、おかずをいろいろ乗せた定食スタイルに変えました」という。

以前の「合い盛りカレー」はこんな感じの2種盛り合わせスタイルだった
以前の「合い盛りカレー」はこんな感じの2種盛り合わせスタイルだった

 その理由を聞くと、1皿に肉や野菜といった食材自身が持ついろいろな味と食感を楽しんでほしいと思うようになった、というのだ。
「僕らは最初からスパイスカリーというカテゴリでやっていますが、食材が持つ酸味やエグミ、甘みなどの味や独特の香りも、僕らは“スパイス”だと考えているので、スパイスは最小限にして、いろいろな食材を使ったおかずを盛り付けるワンプレートになったんです」

 例えば、紫大根のアチャールは、季節の柿を合わせ、少しだけハラペーニョなどのスパイスを加える。こうすることで紫大根と柿が本来持つ素材そのものの味を存分に引き出せる。

店主の大澤さん。お店で食べた南インドカレーにはまり、妄想が始まったそう
店主の大澤さん。お店で食べた南インドカレーにはまり、妄想が始まったそう

「僕はインドに行ったことがないので、むしろスパイスから妄想が広がるんです」という大澤さん。

 そして目指しているのは、「インド人のように毎日食べたくなるカレー」ともいう。だから、様々な調理法を駆使して、食材の“スパイシー”な部分を引き出すことを、懸命に考えているのだ。

「しらすのヴィンダルーや老酒のプルドポークは、あっさりしていて、とても評判がいいんです。だから、うちの代表作になればいいなと。ただ、最近は、秋鮭を使ったカレーも評判がよくて、魚は季節感が出るので、これからもいろいろつくりたい」と大澤さん。

 確かに、完食した後にも、重さがなく、「またすぐに食べたいな」と思う。
 そして「痺れるチャイ」は、山椒の芳香と甘みがじんわり響いてきて‥‥。

「痺れるチャイ」500円
「痺れるチャイ」500円

「カレーはスパイスを最小限しか使いませんが、チャイは、ネパールの山椒とマダガスカルの胡椒をしっかりときかせて、スパイスを飲むような感じにしています。カレーを食べた後に、柑橘系の山椒の甘味と深い香りの胡椒は、舌も胃もすっきりさせてくれるし、後味に、妄想が膨らむでしょう?」(大澤さん)

 確かに、このチャイは、ガツンとスパイスを感じて、インドやネパールを旅しているようなイメージが頭を駆け巡る。

 妄想定食を味わって、ふわふわと自由気ままな妄想の旅に出かけてみては?

(取材・文◎土原亜子)

●SHOP INFO

妄想インドカレーネグラ 外観

店名:妄想インドカレーネグラ

住:東京都杉並区高円寺南3丁目48-3
TEL:非公開
営:12:00~22:00
休:月・火・水
https://www.instagram.com/negura.curry/

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