年に2回ロンドンで行われるイギリス最大の日本文化の祭典「ハイパージャパン」。クリスマス前の11月24日から3日間、ロンドン東部タバコドックで行われた同催しの目玉となったのが、「ラーメン・エクスペリエンス」というラーメンイベントだ。

「ラーメン・エクスペリエンス」は、用意された「塩」「しょう油」「みそ」「とんこつ」の4種類のスープを味見してから、最も気に入った1種類のラーメンを選んで食べるという企画だ。各味を異なったラーメン屋が提供するのではなく、同一のラーメン屋が4種類の異なった味を提供するため、フレーバーは異なるが作り手は一緒だ。

ヨーロッパ随一のとんこつラーメン屋の集積地ロンドンにおいて、果たして現地の人々はどのラーメンを選んだのだろうか?


とんこつ一辺倒のロンドンラーメンシーンに変化?
今のロンドンにおけるラーメンシーンでは「ラーメン=とんこつ」という方程式が成り立っている。現地ラーメン業界でも、ヨーロッパ人はとんこつ味を好むというのが一般的な認識だ。

このような状況において、今回の「ラーメン・エクスペリエンス」では、ロンドンの人々がとんこつ以外の味を「体験 (エクスペリエンス)」できる絶好の機会だった。その反響は大きく、前売り販売された1枚あたり5ポンド(約750円)のラーメン券 は、3日間の全日程で完売し、合計で2500杯以上のラーメンが振る舞われた。

その結果、一番人気は……塩がとんこつと同じくらい選ばれた! 次いで「みそ」と「しょうゆ」が出た。中でも「みそ」は特にアジア系の人に受け、「とんこつ」はヨーロッパ系の人に受けていた。「当初は、とんこつ6〜7割、みそ3割、しょうゆと塩で1割程度と見込んでいたため、予想外の結果に私たちも衝撃だった」と出店担当者は胸中を明かした。

ロンドンにおける、とんこつの不動の地位は、純粋に「とんこつ人気」により確立されたものだったのか、それとも単なる売り手側の広告策略に踊らされていたのか、今回のラーメン・エクスペリエンスの結果はそんな現状に疑問を投げかけ、一石を投じる好機となった。



ロンドン市民はとんこつ以外の選択肢もほしがっている
とんこつ人気のロンドンで、なぜ塩が最も多くが選ばれたのか? 同イベントでラーメンを提供したラーメン屋「麺屋・ラーメン居酒屋 佐助(以下、佐助)」の調理担当者は、「ハイパージャパンでは日本通のロンドンっ子が集まるため、皆とんこつの味はロンドン市内のラーメン屋を通して知っているはず。そのため何か新しいものをという考えで、塩ラーメンを選んだ人がとんこつと同等に多かったのではないでしょうか」と客の傾向を分析する。

今やロンドンにおいて、とんこつはありきたりの味となり、 物足りなくなってきているのだろうか。ケンブリッジ大学に通いラーメン通であるというイギリス在住のインド人、ダニカ・パリクさんは「とんこつは好きだけど、他のタイプの本格的な日本式ラーメンを食べる機会には今まで恵まれなかった。イギリスには中々ないので、もっと簡単に見つかるようになるといいのに」と漏らす。

「塩」という、洗練されたシンプルさを求められるコンセプトがロンドン市民に新鮮に映った可能性もある。

ロンドンのラーメンにアクセントをつける佐助
とんこつに飽き始めた現地のラーメン通が見守るロンドンのラーメンシーンに風穴を開けるかもしれないのが、今回のラーメン・エクスペリエンスで腕を振るった佐助だ。

2012年から2013年にかけてのロンドンでは、「昇竜」「トンコツ」「ボーン・ダディーズ」など、とんこつ味を看板メニューとする本格的なラーメン屋が相次いでのれんを掲げ、現在に至るとんこつブームの礎を築いた。そうした中、2013年初頭に、日本食材店が集まっていた市内中心部ピカデリーサーカスの旧三越ロンドン支店内に、「佐助」の前身となった 「三越ラーメンバー」が開業。同年9月の三越ロンドン支店の営業終了に伴い同ラーメンバーは閉店したが、2014年に同ラーメンバーはソーホー地区において「麺屋 佐助」としてリニューアルオープン。ロンドンのラーメンシーンにアクセントをもたらした。

三越ラーメンバー時代からの佐助の存在意義は、とんこつ一人勝ちのロンドンラーメンシーンにて、極太麺を使った「つけ麺」という変化球のメニューを展開したということだ。日本の味に近い魚介醤油系ラーメンや味噌ラーメンなども人気メニューだった。その後、佐助は、ピカデリーサーカスにある博多とんこつの店「金田屋ロンドン二号店」の並びに支店を出すなどしたが、借りていた物件の大家が建物を売り出すことになり2017年1月をもって閉店。そして今年12月7日、テムズ川沿いにある巨大観覧車ロンドンアイの近くに「ラーメン居酒屋 佐助」として、木・金・土曜の3日間だけソフトーオープンとして新装開店する。佐助の再スタートは、飽和状態にあるロンドンのとんこつ市場において、台風の目になる可能性も十分にある。

ラーメン・エクスペリエンスをきっかけに、とんこつ中心のロンドンラーメンシーンの景色が変わる前夜となるのか。今後の展開から目が離せない。
(ケンディアナ・ジョーンズ)
スープの試飲にならぶロンドン市民