「現役の最後はドラゴンズでプレーしてよ」

 20代の頃から何度も見る夢がある。

 それは僕とイチローが小中学校の同級生という設定で、オフにアメリカから帰国すると必ず一緒にキャッチボールをする、という夢。

「えっ! まだ係長なの? 島耕作読んでる効果が全然ないじゃん」などとからかいながらイチくんはどんどんその距離を伸ばしていく。80m位の所で「もうノーバン無理っしょ」と言われるが、僕はこの日を迎えるために1年間遠投の練習をしてきている。今日一番の力を込めた投球は45度の放物線を描き、ギリギリだがノーバンで赤いグローブに収まった。

「おっ! まだイケるね~フロリダ来る?」とイチくんは嬉しそうに叫ぶ。中学時代と同じ、無邪気な笑顔で……。

 3時間ほどトレーニングに付き合った後、ヘトヘトになった僕はベンチでスポーツドリンクを飲みながら例の件を切り出す。

「40過ぎたしさ~、イチくん名古屋に帰って来てよ。現役の最後はドラゴンズでプレーしてよ」

 少し間があった後、いたずらっ子のような顔をしてイチくんはこう言う。

「オレ、言っとくけど50まで現役やるからね。ま、サチモスがそん時まで遠投80m投げられたら考えるわ! あとドームじゃなくてナゴヤ球場復活が入団条件だからね(笑)」

 現在僕もイチローも44歳。僕はサラリーマンとしてようやく社会的にまぁまぁ認められるポジションとなった。全力で走り回った30代と比べ少しづつ生活にも余裕ができ、子供達を連れて球場へ行くこともしばしば……。一方、イチローは今オフ、メジャーリーグの代打安打記録に迫る活躍を見せたもののマーリンズとの契約オプションを更新せずFAとなった。僕の夢「イチロー、ドラゴンズ入団」が現実になりうるチャンスがやってきたのだ。

 ところがだ、イのイチ番に獲得を表明しなくてはいけないはずの我がドラゴンズは「編成上枠がない」との理由で静観を貫いている。僕と同様「いつかはイチロー」と願い続けている多くのドラゴンズファンは、恐らくヤキモキしている事であろう。

#ドラゴンズにイチローを

 中学時代「あ~ドラゴンズファンでよかったなぁ」と思える大きな出来事があった。それは三冠王・落合博満の電撃的な移籍入団だ。

「男が男に惚れて来た、それだけ」

 そう言い放ち、星野新監督と並んで移籍入団会見を行う三冠王をテレビで見ながら、僕はとてつもない事が起こりそうなワクワク感を抑えきれず、人生最高潮に高揚したものだ。

 当時僕は、ドラゴンズファンでありながら、ドラゴンズに対しある不満を持っていた。それは、よく言えば「地域密着型の渋いチーム」、悪く言えば「田舎っぽい地味な球団」という所。特に中学に上がる頃は空前のタイガースフィーバーや、鳴り物入りで入団した怪物清原と日本シリーズでのバック転がかっこよすぎた秋山のいるライオンズの事が羨ましく、大人から「どこのファンなの?」と聞かれた時、恥ずかしくて「一応、中日?」と曖昧に答えていた。

 でもスーパースター落合博満がドラゴンズに来てからは堂々と「ドラゴンズファンです」と答えられるようになった。超一流の落合と野球をする事で他の選手達も、自信に満ちた戦う男の顔になっていき、緊張感のあるゲームが増えていった。僕のドラファン熱もグングン上昇し、周りのドラゴンズファンもどんどん増えていった。

 球団史上初の5年連続Bクラスに転じている今、ドラゴンズファンの子供達はあの頃の僕のように「一応、中日」と答えてはいないだろうか? カープやベイスターズを羨ましく見てはいないだろうか? そもそもドラゴンズファンを辞めてしまったのではないだろうか? せめてドラゴンズファンの子供達が堂々と「ドラゴンズファンです!」と言えるようにさせてあげたいと切に思う。

 それには僕の長年の夢である、名古屋が生んだ世界のスーパースター、イチローの獲得しかない!自分の好きなチームにスーパースターがいる幸福感、全国ニュースで好きなチームの事が大きく取り上げられる満足感、スーパースター見たさに大勢のファンが詰めかけるスタジアム、そして緊張感漂う好ゲーム……僕が経験してきた、痺れるようなドラゴンズの野球を若い人や子供達にも味あわせてあげたい!

 ドラゴンズ球団関係者様、どうかイチロー獲得の意向をブチ上げてはくださいませんか? 獲れなくてもいいからワクワク・ドキドキできる夢を見させては下さいませんか? 僕と同じ時期に中学生だったイチローはきっとこの気持ちを分かってくれるはず……。

#ドラゴンズにイチローを

 めっきり寒くなった休日の午前……僕は今日も無人のグラウンドで、80m先のバックネットを見ながら一人黙々と遠投を繰り返す。とてつもなく痺れるような正夢が起こることを信じて。

◆ ◆ ◆

※「文春野球コラム ウィンターリーグ2017」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/5226 でHITボタンを押してください。

(式守″サチモス″龍之介)

©文藝春秋