今回のテーマは「スマートスピーカー」だ。

ところで話は変わるが、世の中、主にネット上には「童貞を殺す服」と「BBAを殺す会話」というのがある。前者は今回関係ない。

後者は若者に好きな曲を言ったら「あっ私のお母さんもその曲好きです! 」と言われたり、「私も実は古い曲が好きなんですよ! バンプオブチキンとか」と言われたりするやつだ。しかし、これは半分くらいBBAの鉄板自虐ギャグであり、こういうことがあるたびに「ツイッターでRT稼げる話キター」とか思ったりしており、実際のところそこまで凹んでいないのだ。

それよりも私が心の底からジェネレーションギャップを感じ戦慄したのは、調べものをするのに、スマホに話しかけている若者を見た時である。

初めて火を見た縄文人の如く、音声で検索できるシステム自体に驚いたというわけではない。さすがにそういう機能があるということぐらいは知っていた。ただ、人前で臆面もなく機械に話しかけるという行為自体が、あまりにも21世紀、平成生まれの所業だったため、「BBAにはできねえ」と無言で首を振って、もちろんSNSにも書かなかった。

おそらく年代というより性格の問題な気もするが、とにかく自分には無理だと思い、それ以後も音声認識機器は一度も使用していない。

スマートスピーカーとは、そう言った「話しかける系の機器」である。
○「会話」するスピーカーに怒るタイプの人間

スマートスピーカーとは、無線通信接続機能と音声操作のアシスタント機能を持つスピーカー。人工知能(AI)を搭載しているスマートスピーカーはAIスピーカーと呼ばれることもある。(引用:「スマートスピーカー」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』2017年12月4日 (月) 17:00)

このスマートスピーカーに話かければ、知りたいこととか、役に立つこととか、何か気の利いたことを返してくれる、というわけである。

人間と機械、どちらに話しかけた方が有益で正確な答えが返ってくるかはわかりきったことだ。しかしそれでも、無機物に話しかけるというというのはハードルが高い。

周りに人がいなければいい、というわけではない。むしろ無音の部屋に自分の台詞っぽい口調の声が響き渡ることを想像しただけで、「もう何もわからなくていい」と思ってしまう。

聞いたことにただ答えだけ単語で答えてくれるだけならいい。だが、人工知能を搭載しているスマートスピーカーは、まるで人間のように気の利いた返答をしてくれるという。質問だけではなく、怒れば謝り、褒めれば礼を言ってくれたりするそうだ。

いらぬ。

なぜ、当方が、仕事上でわからないことを、隣にいるパイセンではなくわざわざグーグル先生に聞いていると思っているのだ、会話がしたくないからだ。だが人とは会話なしではなかなか意志の疎通が難しいので渋々会話しているのだ。なのに何故、機械相手に会話しなければいけないのか。「コミュ症でも機械相手なら話せるでしょう、話し相手が出来て良かったですね、良い事しました」と思っているなら大間違いだ。

会話自体が嫌いなのだ。誰相手だろうがしたくない。言いたいことは全部タイピングしたいと思っている、その結果がこのコラムだ。私に口頭でスマートスピーカーの説明をさせたら、「スマートスピーカ―が…いやなんでもないっす」で終わるのだ。

一言も声を発したくないと思っている人間としては、スマートスピーカーほか音声認識システムには激怒の一言であるが、システム的には、そりゃそうなって行くだろうな、とは思う。

やはり、物事を知りたい時は会話が一番いいのだ。会話していく内に何を知りたいのかがより具体的に明らかになるので、相手も答えやすい。文字検索ではなかなかそうはいかない。

仕事の質問だって、グーグルよりは、そのパイセンが質問を無視してカレシの話でも始めない限りは、パイセンにした方が良い。また、いくらタイピングが早くても、言葉を発するスピードには勝てない。

よって、私が音声認識は嫌だ、タイピングがいい、と言っているのは、頑なに電卓を拒みそろばんを手放さない、一刻も早い定年退職が待たれるババア事務員と大差ない、ということだ。

そう言えば、私の実家のトイレは長らく和式だった。何度か改修の機会はあったが、おそらく親父殿が頑なに和式を所望したからそのままだったのだと思う。だが最近、それがついに洋式になっていた。

つまり、私も齢70を越えて、やっとスマホに話しかけるようになるかもしれない、ということだ。

<作者プロフィール>

カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集、「ブス図鑑」(2016年)、「やらない理由」(2017年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2017年12月12日(火)掲載予定です。
(カレー沢薫)

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