●離島から新学習
2021年の大学入試改革に向けて、小中高の教育のあり方が大きく変化している。というのも、これまでの入試テストは、問題用紙が配られ、それに対する答えを記入するというのがスタンダードだった。それが今、変わろうとしている。

どのように変わるのか。文部科学省の「学習指導要領のポイント等」によると、「思考力、判断力、表現力等の育成のバランスを重視する」という一文がある。つまり、これまで受験で重視された「記憶力」ではないのだ。もちろん、学習をするにおいて記憶力は大切だ。ただ、それ以上に思考力、判断力、表現力等が重視されることになる。

では、具体的にはどういう学習になるのか。これまで、しばしば多くの学校の授業を見学・取材させていただいたが、グループワークの時間を多くとる学校が増えている。先生がテーマを与え、グループ分けされた生徒たちがそれについてディスカッションする。そして、プレゼンテーションするという具合だ。もちろん、正当な答えはない。生徒たちの議論から生まれた結論が、まさしく答えなのだ。
○離島に先進的学校を新設

こうした教育を目指すために、新たに中高一貫校を新設しようとしている自治体がある。広島県だ。

もちろん、既存の学校の教育方針を変更し、こうした新たな学習を推進していくというのが大筋だ。だが、そうした新教育を目指し、学校を新設するというのも良案だと思う。

では、広島県はこの学校をどこに新設するのか。それは瀬戸内海に浮かぶ大崎上島。橋でつながっていない“離島”としては、瀬戸内海で小豆島に次ぐ大きさの島である。「地理的及び自然的特性を生かした振興を図るための特別の措置を講ずること」を目的とした、「離島振興法」が適用された島である。

広島県教育委員会 寺田拓真氏

まず、県庁にて教育委員会の方に話をうかがった。なぜ、県が大規模な学校を新設するのか。広島県教育委員会事務局課長の寺田拓真氏は、「広島から日本の教育を
変えていきたい。その手本となるべき学校の新設を目指す」と話す。広島県は、一昔前はいわゆる“不良”と呼ばれる若者が多かったところ。文科省から是正指導を受けたこともある。それが今、小学校教育で全国5位、中学校教育で15位前後の学力を達成しているのだそうだ。教育委員会や学校の先生といった方々の努力は並大抵ではなかったであろう。

●広大な敷地が学校建設予定地

竹原と大崎上島を結ぶフェリー

実際に、どのような学校になるのか。何しろ離島だ。通学に生徒たちが苦労するのは想像に難くない。だが、おおよそ予測できていたが、全寮制の中学・高校の一貫校となるらしい。孤島の学校といえば、島根県の隠岐島前高校が有名だが、こちらは寮を備えるほか、家からの通学も可能だ。だが、「高校魅力化」に成功した孤島の学校として、全国の教育現場にその名が知れわたっている。

さて、県庁で寺田課長からお話をうかがったあと、教育委員会の職員の方に建設予定地を案内していただいた。まず広島市内から東へクルマを走らせること1時間30分ほど。竹原市の港へと向かう。余談だが、この竹原市はアニメ「たまゆら」の舞台になったところだそうだ。そして、ここからフェリーで約30分、大崎上島に上陸した。
○瀬戸内海が見わたせる神峰山

大崎上島に到着したところ、島の主峰「神峰山」(かみみねやま)の頂上に案内された。頂上からは瀬戸内海に浮かぶ島の数々、白い航跡を引く船が見わたせた。正直「こんな景観のよい島で勉強できるのか。しかも、全寮制だというのだから、3年間、もしくは6年間、この島で過ごせるだけでも価値がある」と素直に思った。

神峰山頂上からの景観をひとしきり堪能したあと、いよいよ本題である学校建設予定地へと向かった。現地に着いてみると、とにかく広い! なんでもマツダスタジアム約5個分の広さがあるそうだ。まだ、建築物がないまっさらな敷地だったので、余計に広く感じたのかもしれない。

●優れたロケーションの離島
そしてロケーションのよさ。私が立った場所からは右に先ほど訪れた神峰山、そして左側は瀬戸内海だ。この神峰山方面にコテージ風の寮が建つらしい。通常、寮といえば3階建てぐらいのビル1棟というイメージだが、コテージ風とは何ともうらやましい。そして、建設予定地から海までは、すぐに歩いて行ける距離にあり、堤防を越えるとそこは穏やかな瀬戸内海だった。しかも、真っ白な砂浜。案内してくださった教育委員会の方によると、この砂浜で生徒が遊んだり、泳いだりできるらしい。

しかし、なぜこれほどの規模の全寮制中高一貫校を設立するのか。その目的は「グローバル・リーダー」の育成にある。日本ではグローバル・リーダーと呼べる人材が少ない。そうした人材を生み出すために、それに見合った教育を行っていくという。授業の内容も大事だろうが、案外と豊かな自然と寮生活ではぐくんだ協調性・協働性などが、新たなリーダーを生み出すのかもしれない。

いい忘れたが、この学校の名称は「広島叡智学園」となる予定だ。特筆したいのは、私立校ではなく県立校であるということ。つまり、基本的に入学金、月額授業料はほかの県立学校と同じということになる。海外研修旅行積立金や寮費といった諸費は別になるが、私立に比べれば教育費は抑えられるだろう。平成31年4月に開校を目指し、中学1年の1期生を50人程度、高等学校進学時に20人程度の外国人留学生を受け入れる予定だ。そして平成36年には360人規模まで生徒を増やすという。

取材が終わり、先ほどの海岸を再び訪れると、なんとも美しい夕景が映えていた。何年後かに、グローバル・リーダーと呼ばれるような人材が、広島叡智学園から輩出されるのを楽しみにしたい。
(並木秀一)

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