キュラソー出身者の活躍でWBCベスト4も、オランダ本土にも秘密が…

 筑波大学野球研究室は、野球の指導方法や、教育としての野球を広範に研究している。この研究室に学ぶ大学院生が、このほど、オランダの野球について学ぶために現地に赴き、様々な研究を行った。なかには、今の日本の野球界にとっても、示唆に富むレポートがいくつもあった。同研究室のレポートを紹介する。

 レポートは大学院2年生大森雄貴さん、1年生加藤勇太さんが担当。いずれも大学まで硬式野球をしていた。大森さんは元巨人・大森剛氏のご子息だ。

 日本と同様にWBC2大会連続ベスト4入り(2013年、2017年)を果たすなど急成長を遂げるオランダ野球。強さの秘密を探る。

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「オランダの人口は約1700万人。サッカーの競技人口100万人、野球の競技人口は1万人のマイナースポーツ。日本が羨ましいよ」

 オランダ王立野球・ソフトボール協会(以下KNBSB)事務局長は笑いながら答えた。激減しているとされる日本の野球競技人口は小学生だけでも未だ10万人を超えている。

 近年、急成長を遂げるオランダの強さは何か。ヤクルトスワローズのウラディミール・バレンティン外野手など、オランダ領キュラソー出身選手の活躍が注目され始めている中、オランダ本土においても強さの秘密が隠されていた。

オランダ人投手が持つ共通の怪我と課題、悩んだKNBSBが出した1つの答え

 平均身長183センチと恵まれた体格の選手が多いオランダでは、ほとんどの投手が大きな体で投げることで、発揮されるパワーを体が支えることができず、怪我をしてしまう。数少ないスター候補たちが毎度怪我に泣かされるKNBSBは王国予算、民間企業の支援資金を投じ、生物の構造や運動を力学的に探求したり、その結果を応用したりすることを目的とする学問「バイオメカニクス」に長けた学者達へ研究による「解明」を依頼した。

 主な依頼先は理系研究で名高いデルフト工科大学とアムステルダム自由大学である。2013年より、期間は4年と定め、「Project FASTBALL―投手のケガ予防を含めた速球を投じるフォームの研究プロジェクト―」がスタートした。筆者は現地オランダにてProject FASTBALL研究チームリーダーデルクヤン教授(デルフト工科大学)、エリック・グラッフ(アムステルダム自由大学)。KNBSB事務局長に対し、研究方法、実験経過や結果、現場への効果などを直接インタビューしてきた。

「野球なんてやったことないよ、でも僕たちBaseball Scientistに任せて」

 研究者たちに野球経験はない。普段はバイオメカニクスに特化した研究を行なっており、先入観がなく、「投球」という動作に対して様々な見方ができる。話してみると非常に気さくであり、キャッチボールした際、踏み出す右足と投げる右手が同時に出る「ハンドボール投げ」であった。現場とのズレを無くすため、現場であるKNBSBとの連携を常に保ちながら研究は進められた。

 オランダ人投手170人を測定。125人の18歳以下の選手を身体測定、50人のオランダトップレベル選手とMLBの3Aレベルの選手を身体測定+バイオメカニクス的測定(動作分析)を行った。

オランダ人投手の典型だったリック・バンデンハーク、彼を変えた科学者の助言

「Project Fastball」最大の注目は、ソフトバンクホークスに所属するオランダ本土出身リック・バンデンハークの測定である。2002年~2012年の期間アメリカマイナーリーグを主戦場とし、思うような結果が出ずもがいていた。

 2012年パーソナル理学療法士が彼の状況を何とか改善する方法はないかと考えた。そこで理学療法士からProject Fastballチームへバンデンハークの測定について依頼し、オランダ代表として国内練習の際に、過去の怪我や、疲労が溜まりやすい箇所についてなどをふまえた上、協議を重ね、測定を行なった。
 
 その結果、バンデンハークの良さと欠点を把握したことにより、フォームの修正に踏み切ることができた。研究チームリーダーデルクヤン教授はこう説明する。

「彼の特徴は・大きい(背が高い)・力強い・速い(球速)・上手い(技術)の4点」

 しかし、それが幾多の怪我に繋がっており、投球時の踏み出しで足股関節の内旋する力が非常に強く、198センチ、105キロの全てを左足股関節で受け止めることが、臀部や股関節の怪我に繋がっていることがわかった。

 そこで力を弱めるのではなく、投球後に力を逃がすフォームを作ることで投球への力は保ったまま怪我のリスクを減らしていこうと試みた。見事“ハマった”バンデンハークはメジャーでの登板、韓国野球、NPBと活躍の場を広げていった。

 研究チームのエリック・グラッフ(アムステルダム自由大学)に対し、「研究結果は現場に伝わっているか?」と聞けば「Yes&No」と返事がきた。続けて「動作を分析し、フォームの中で注意しなければならない10個のチェックポイントが明らかになったことにより、特に18歳以下の世代では怪我の発生が減少している。しかし、速球を投げるための指導の開発はまだまだだよ」と指導の部分が課題であると語っていた。 

 WBCが終わり、来年の2018年からは「Project FastballII」の始動も決まっている。2020年に行われる東京オリンピックで大きな成果を上げることを最大目標とし、怪我なく、速い投球を行うことはもちろんであり、研究結果をどのように選手へ指導すれば良いか追求していく予定である。(大森雄貴 /yuki-omori, 加藤勇太 / yuta-katoh)

オランダ代表でも活躍するバンデンハーク【写真:Getty Images】