先日、一週間ほど中国出張してきたのだが、都市部では広範囲にわたって空間を埋め尽くすほどにタワーマンションが林立、加えて大気汚染が酷かった。その開発されぶりからは、日本でいう高度経済成長とバブルが一度に来たような景気の良さを感じ取れた。

 このお祭り騒ぎ的な金回りの良さは映画界も同様で、ハリウッドの大物プロデューサーすらちょっとした打ち合わせだけのために呼び出され、言われた通りにはるばる北京までやってくるほどだった。昨今の日本映画界の貧しさを思うと、それはまるでファンタジーのようにすら見えた。

 そして――今度の出張とは関係のない話なのだが――そんな中国映画界で、一本の旧作邦画がリメイクされるという。それが、今回取り上げる『君よ憤怒の河を渉れ』だ。日中平和友好条約が締結された一九七八年に中国で公開され、大ヒットを遂げている。

 いわれない無実の罪で強盗殺人容疑をかけられた検事・杜丘(高倉健)の逃避行と、追跡の指揮を執る矢村警部(原田芳雄)による杜丘を陥れた黒幕探しが物語の軸だ。何も分からないまま罠に嵌められて勾留、不利な証言や証拠をでっちあげられて追いつめられ、隙をみて逃走――という杜丘のスリリングな展開がノンストップで繰り広げられる冒頭に始まり、逃走先の北海道の山中での銃撃戦やヒグマとの死闘。話は次々とめまぐるしく動いていく。

 中盤になると、雰囲気は大きく変わる。杜丘と道知事候補の娘・真由美(中野良子)とのラブストーリーになるのだ。命を助けられたことで杜丘に惹かれた真由美は父に抗い、杜丘の逃亡を手助けするのだが、二人乗りで馬を駆る颯爽とした姿、洞窟での濃厚な濡れ場――といった具合に、序盤から一転してロマンチックなシーンが映し出される。と思ったら、次はいきなりセスナでの航空チェイスが始まったりするから油断ならない。

 何が起きるか全く読めないまま物語は終盤へ。新宿で杜丘はついに警察に追いつめられる。ここでの脱出方法がまた凄い。なんと、真由美が大量の馬を街中に放って逃亡させるのである。馬の大群が包囲網を切り裂いていく映像は圧巻のスペクタクルであった。

 本作は文化大革命後の中国で初めて公開された外国映画だった。文化的暗黒の時代を生き抜いてきた当時の中国人にとって、このエンターテインメント性あふれる作品はさぞ刺激的だったことだろう。

 それから四十年。今度は繁栄を極める現在の中国が自らの手でリメイクする。互いの映画界の状況が入れ替わりつつある中、日本の観客はどう捉えるか。今から楽しみだ。

(春日 太一)

1970年作品(125分)/ポニーキャニオン/3800円(税抜)/レンタルあり