我々が無意識のうちに身につけてしまっている男女に対する社会的規範。“男らしい”黒のランドセルや“女の子らしい”赤のランドセルなどその典型と言えるだろう。ジェンダー学は、そんな無意識の偏見を抉り出す学問として世界中で研究されているが、時には、ただ男性=悪、女性=真理という無批判なイデオロギーを広め、強固にするための「無意味な概念の遊戯」に堕してしまうこともある。


■ジェンダー研究に不正の疑い

 今年5月にも、米ポートランド州立大学の哲学者ピーター・ボグホシアン教授とジェームズ・リンゼイ教授が、「社会構築物としてのコンセプチュアル・ペニス」という全く無意味なジェンダー論文をでっちあげ、「高品質な査読審査を提供する」と謳う英社会科学ジャーナル「Cogent Social Sciences」に投稿したところ、見事に掲載されてしまったというニュースを報じたばかりだが、なんとまたしても、ジェンダー学の欺瞞が暴かれたというのだ!

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 科学ニュースサイト「Ars Technica」(29日付)によると、仏・南ブルターニュ大学の社会心理学者ニコラ・ゲガン教授が行った研究に統計学的に奇妙な点が多数あることが判明したという。

 ゲガン教授は、一般人にも分かりやすいキャッチーでインパクトのある社会実験をしばしば行うことで知られ、その研究の1つである「ハイヒールを履いている女性は男性にとってより性的に見える」は、米高級誌「TIME」(2014年11月19日付)にも取り上げられたほどだ。

 だが今回、米ノースイースタン大学の心理学者ジェームズ・ヘザー博士とオランダ・フローニンゲン大学のニック・ブラウン氏が、たまたま目にしたゲガン教授の研究「男性はポニーテール女性を助けにくい傾向にある」に統計上無視できない点があることに気付いたという。ヘザー博士らは、同研究を目にした当初は“大笑い”したそうだが、小一時間ばかり真剣に精査してみたところ、明らかにおかしなデータであることが数学・統計的に判明したという。


■統計的にありえないデータ

 ゲガン教授の実験内容は次のようなものだ(同研究が記載されていたと見られるゲガン教授のウェブサイトは現在閉鎖されているため、「Ars Technica」、「Big Think」などを参考にした)。髪を自然に流したナチュラルヘアの女性、ポニーテールの女性、お団子ヘアの19歳白人女性それぞれに、人が行きかう路上で手袋をわざと落としてもらい、ターゲットとなった男女がどのような行動を取るか、というものだ。手袋を拾い挙げ渡したら3点、落とした女性に声をかけたら2点、なにもしなかったら1点とし、ターゲットの男女それぞれ30人の平均値を割り出した。平均値が高いほど“親切”だといういわけだ。

 すると、ターゲットが男性の場合、ナチュラルヘアの女性に対しては2.80ポイントに対し、ポニーテールとお団子ヘアの女性に対しては1.80ポイントとかなりの差が生じた。一方、ターゲットが女性の場合、それほど統計的に有意な差は見受けられなかったそうだ。

 我々一般人からすれば、「(理由は分からないが)男はポニーテールやお団子ヘアの女性に不親切な傾向にある」と思い、データそのものを疑うことはないだろう。だが、ヘザー博士らは同研究で導き出されている数値のおかしさにすぐに気がついたという。まず、それぞれの獲得したポイントの平均が30で割られているにもかかわらず、1.80や1.60など切りの良い数字で終わるのはおかしいという。たとえば、17を3で割ると5.6666…となるように、3で割り切れない数字は循環小数(0.3333333 or 0.6666666)になるはずだからだ。

 実験では対象となった被験者30人で獲得ポイントを割っているが、その場合も同じである。たとえば、ターゲット30人が合計で47ポイント獲得したとして、それを30で割って平均を出すと、1.566666…と循環する。この場合、小数点以下第3位を四捨五入すると、1.57となるはずだ。ヘザー博士らの計算によると、6つ全ての組み合わせ(ナチュラルヘア、ポニーテール・お団子ヘアの3つをターゲットの男女で掛けた組み合わせ)において、小数点以下第2位にゼロが来る確率(割り切れる確率)は0.0014と極めて低いという。

 ただ、ここでヘザー博士らはゲガン教授が小数点以下第2位をあらかじめ四捨五入して(たとえば1.5666…ならば1.6)、それに小数点以下第2位にゼロを取ってつけたのだと考えた(1.60)。しかし、ゲガン教授の統計データには小数点以下第2位がゼロでないものも含まれており、これは「エラーとして説明することはできない」(ヘザー博士)という。


■不自然なほどコントロールされた実験

 さらに、ヘザー博士らは可能なあらゆる数値を組み合わせて、ゲガン教授のデータを再現したところ、驚くべき結論に至った。なんと、それぞれの獲得ポイント(3ポイント、2ポイント、1ポイント)が、どの組み合わせにおいても6回、12回、18回、24回と、規則的に起こっていたというのだ。たとえば、平均が1.60ポイントとされる、お団子ヘア+女性ターゲットの場合、1ポイントが12回、2ポイントが18回であったという。このポイントをターゲットの人数30で割ると、確かに1.60という数値が得られる。これと同じことが他の組み合わせでも起こっていたというのだ。もしこれがランダムに起こったとしたら、その確率は1億7千万分の1になるという。つまり、ゲガン教授の実験データはランダムではなく、周到にコントロールされていたと疑うだけの要素が目白押しだということだ。

 ヘザー教授らは、上記の発見を2015年にフランス心理学会に申し立てたそうだが、不明瞭な返答以外、これまでに正式な調査が行われた形跡はないという。果たして、偶然の産物か、ゲガン教授の不正か……。いずれにしろ、学問倫理上も重要な問題が2年間も放置されていることは由々しき事態と言えるだろう。今回の報道を機に、ゲガン教授の研究にメスが入れられることを願うばかりだ。もしかしたら、ジェンダー学のとんでもない膿が搾り出されることになるかもしれない。
(編集部)


※イメージ画像は、「Thinkstock」より

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