■地下クイズ研究会の中で密かに流行している「地下たほいや」

 「地下クイズ」という世界がある。

 クイズのジャンルといえば通常は歴史とか音楽とかスポーツというものだが、地下クイズのジャンルは殺人鬼とか薬物とか性といった具合。とにかくアンダーグラウンドな分野についてのクイズを取り上げるオトナの遊び、これが「地下クイズ」である。

 BSスカパーで開催されていた『地下クイズ王決定戦』は最凶王者だったAV男優のしみけんが引退し、新たな地下クイズ女王に自称漫画家の能町みね子が即位したところで番組企画が休止している。そして地下クイズ愛好家たちは今、文字通り地下に潜って、自分たちの世界で地下クイズを楽しんでいる。いまや地下クイズ研究会の時代なのだ。

 さてその地下クイズ研究会では最近、「地下たほいや」が流行しているらしい。地下たほいや? そう聞いて何かしらピンとくる人は40代以降の世代ではないか? 『たほいや』とは1993年にカルト的人気を博したフジテレビの深夜クイズ番組の題名である。


■地下たほいやのルールとは?

『たほいや』を簡単に説明すると、5人くらいの参加者で行う辞書を使った知的ゲームだ。誰かが辞書の中からよくわからない単語をみつけてきて、他の参加者がいかにもそれらしいフェイクの選択肢を作って、どれが正解かを当てあう。言い換えると嘘の選択肢で騙し合うゲームである。そこで地下たほいやだが、聞いたこともないアンダーグラウンドな言葉を取り上げて、フェイクな意味を交えて正解を推理し合う遊びだという。聞いただけではわからないから、具体的な問題を見てみよう。

第1問「はすみ」

 そう。たほいやの場合、なぜか問題は平仮名で出題される。そして場の参加者がこの「はすみ」について嘘の選択肢を即興で書く。そうするとこんな感じのクイズが出来上がる。

問題:「はすみ」

選択肢:
1 青森県の廃村となった集落の名前。「杉沢村はここではないか」と言われている。
2 松山ホステス殺人事件の犯人・福田和子が時効成立直前まで福井市で勤務していたスナックの名称。
3 2013年に歌舞伎町で起きた連続昏睡強盗事件の犯人が名乗った源氏名。他にも「ますみ」「あゆみ」などを名乗る。
4 2004年の深夜に2ちゃんねるに書き込みを行った女性。きさらぎ駅で下車した後に行方不明となる。
5 地下アイドル「キャンダッシュ」の元メンバー。枕営業をほのめかすツイッターを拡散させた後に自殺未遂。

 どれももっともらしい解答だが、このうち4つはまったくのフェイクである。そして普通のクイズであれば正解が多い人が勝つのだが、たほいやは正解をする以上に「相手を騙すとそれだけ点が入る」というルールになっている。

 もし読者のみなさんがここで嘘の選択肢を解答してしまうとすれば、そのうまく出来た嘘を思いついた人がこの問題の勝者になるというわけである。ちなみにこの問題、正解は4番の「きさらぎ駅で消えた女性」である。

 深夜11時40分に新浜松から遠州鉄道を思わせる電車で帰宅するのだが、なぜか電車がいつまでたってもどこの駅にも停まらない。ようやく停まったと思ったら「きさらぎ駅」という聞いたこともない駅で下車することになり、2ちゃんねるに助けを求めたまま消えてしまったという事件の主人公が「はすみさん」である。

 では次。

第2問「しっかーと」

選択肢:
1 危険ドラッグの一種で、A○KA容疑者が逮捕された際に覚せい剤ではなくこれだと主張した
2 イタリアのマフィアの構成員。バグジー・シーゲルを射殺した実行犯
3 上野で開催中の『怖い絵展』の『切り裂きジャックの寝室』という絵の作者。切り裂きジャック本人ではないかと言われている
4 第一次世界大戦中にロシア軍から白い悪魔と恐れられたポーランドの狙撃兵
5 ネパールの第三王子。晩餐会の場で乱射事件を起こし、国王を射殺した

 地下たほいやの作法はまだ定まっていないが、嘘の選択肢を考える際に、嘘だとわかる手がかりを潜りこませるのが上級者だとされている。狙撃兵の選択肢はシモヘイヘと誤認させるものだが、シモヘイヘは第二次世界大戦で活躍したフィンランド兵だ。正解は3番の「上野で開催中の『怖い絵展』の『切り裂きジャックの寝室』という絵の作者。切り裂きジャック本人ではないかと言われている」である。

 19世紀にイギリスで起きた切り裂きジャック事件は未だに真犯人が誰かはわかっていないが、ミステリ作家のパトリシア・コーンウェルが数億円の私財を投入して切り裂きジャックが新聞社に送った手紙の切手に残された唾液のDNA鑑定をしたことがある。唾液のDNAと一致したのが、なんとこの絵の作者であるウォルター・シッカートだったことから、パトリシア・コーンウェルは「切り裂きジャックはシッカートだ」と断定したのである。

 このように地下たほいやは地下クイズを一歩進化させた遊びである。地下に関する知識が深ければ深いほど、そこではアンダーグラウンド知識の迷宮ともいえるディープな遊びが展開されるのである。
(文=地下テレビ番組研究家)