クライマックスシリーズ進出の裏で

 2017年10月1日。クローザーの山崎康晃が試合を締め、DeNAが2年連続となるクライマックスシリーズ進出を決めたわずか数時間前。DeNAの一人の投手が、現役最後のマウンドに上がっていた。

 横須賀スタジアムにその選手のコールがかかると、ベンチ入りの選手がダグアウトの前で花道を作り、その中を全速力で駆け抜けマウンドに向かう投手がいた。

『高崎健太郎 背番号22』

 この数日前に、一部スポーツ紙で来季の構想外である旨が報じられていたが、この日の他の選手達の対応を見ると、高崎がすでに現役引退を決め、これが最後のマウンドになることは明らかであった。

誇りだった高崎健太郎の活躍

 私が初めて高崎の名前を強く意識したのは2006年の夏だった。

 この頃の夏、ベイスターズのファーム、当時の湘南シーレックスは毎年、日産自動車野球部と交流戦を行っていた。

 うだるような暑い夏のデーゲームだったが、試合展開は寒い内容で、シーレックスの先発投手は大量失点を喫し、打線は後に広島東洋カープでリリーフとして活躍する青木高広にきりきり舞いさせられていた。

 日産が得点する度に日産の社歌を歌う方がいたのだが、得点差が開く度にシーレックスファンもやけくそになり、配られた赤い日産のうちわを叩いて日産の応援に回っていたのはよく記憶に残っている。

 試合終盤、シーレックス打線がようやく目覚め、大量得点をし、どうにか1点差負けという見られる試合結果に持ち込んだのだが、後ろに座っていた日産ファンの『高崎が投げてたら、もっと楽勝だったな』という一言がどうにも印象に残っていた。その数か月後、高崎が希望枠でベイスターズへの入団が決まると、ただでさえ先発投手がいない上に、先発の一角だった門倉健がFA移籍をしたこともあり、高崎に対して大きな期待を抱いたのであった。

 ルーキーイヤーとなる2007年は、イースタンリーグで最多勝を獲得。期待は高かったものの、一軍の先発投手として活躍するには少し時間がかかり、2011年に規定投球回数にようやく到達し、チームトップとなる5勝を挙げ、ベイスターズのエースとして名乗りを挙げたのであった。

 そして2012年。横浜DeNAベイスターズとして初めて迎えた開幕戦。開幕投手として敵地・京セラドーム大阪のマウンドに立った高崎は、6回を投げて自責0と粘投。後続投手が打たれたこともあり勝ち星はつかなかったが、開幕投手としての責務を果たしたのであった。

 前年に続きこの年も規定投球回数に到達すると、キャリアハイとなる7勝をマーク。
勝ち星こそ7勝ではあったが、24試合の登板中17試合でQSを記録。自責点0で終えた試合が7試合もあるのに、勝ち星がついたのはわずか1つと援護に恵まれない試合も多かった。

 この高崎がキャリアの中で規定投球回数に到達した2011年と2012年の辺りは、チームの勝率も3割台で負け数も85敗あたりを彷徨っていた。特に先発ローテーションの駒不足は顕著で、試合開始前から「今日の試合は厳しいだろうなぁ」とファンの私でも思う試合は多かった。そんな中、この2年間の高崎のピッチングは三浦大輔に替わる次世代エースの鼓動を感じるものだった。

 スタジアムに向かう電車の中で、対戦チームのファンの『ベイスターズの先発は高崎かぁ。高崎じゃなければ楽勝なんだけどな』という声を耳にして、自分が褒められたかのようにちょっと誇らしく思ったりしていた。

明と暗のコントラスト

 眩しさを感じる時は、単に明るさの強弱の問題ではなく、明暗のコントラストが鮮明であれば鮮明であるほど眩しさを感じる。トンネルから抜けたら眩しく感じるように。

 では、暗い暗いトンネルを走っている時は、目をつぶっているのと同じなのだろうか。そうではない、何とか少しでも光を発するものを目指して、何とかトンネルを抜けようと全力で走っていたはずだ。

 高崎健太郎の通算25勝が果たして多かったのかどうか? 

 入団前の期待、持ちうるポテンシャルから考えると、もっと勝ち星を挙げられた、もっとできたと思うのかもしれない。

 でも、高崎健太郎は短くとも紛れもないベイスターズの一時代のエースであったと思うし、誇りであった。

 話を戻して10月1日。

 現役最後のマウンドに登った高崎は、初球を打たせてファーストファウルフライに打ち取った。

 ポーンと高く上がった打球をファーストの網谷が納めて、セカンド石川にボールを渡す。ボールを受け取った石川が高崎の肩を抱いて、今までの労をねぎらうように握手をしながら何かを囁いた。

 2年連続のクライマックスシリーズ進出、19年振りの日本シリーズ進出。DeNAファンにとって夢心地とも言える秋を過ごすことができた。

 一方で、暗闇の中、ただひたすらに懸命に走り続けて、光の射す方へバトンを渡してくれた選手がいることを忘れてはならない。

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(凡人太郎)

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