「アメリカ地震学会」が10月4日に発行した地震学関連の権威ある学術誌『Seismological Research Letters』に、興味深い論文が掲載された。過去約150年間に発生した、“人間の活動が原因で起きた”地震のデータベースを作成したところ、その数はなんと728カ所にも達したという。これだけでも驚くべき事態だが、なんとその中には多数の死者を出した「四川大地震」(2008年、M7.9)や「ネパール地震」(2015年、M7.8)まで含まれている。そして、人工地震の脅威はまた、日本も決して他人事ではなかったのだ……。今回は、世界各地で過去にどのような人工地震が起きていたか、また将来、どこで起こる可能性が高いのか、じっくり考えてみたい。

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■世界で起きまくっている人工地震

 研究を指揮した4名の英国人学者グループによると、「人間の営みによって誘発された地震のうち、最も多いものが鉱業資源の採掘とダム建設に起因するもの」だという。そして彼らがまとめたデータベースは、震源の分布マップとともにWeb上で公開されている。そこで筆者も早速データを入手し、内容を検討してみた。全728件中、規模の大きさで上位5件を抽出すると次のようになる。(並びは、発生日・地震名・震源・規模・要因、の順)

・ 2008年5月12日:四川大地震、中国・四川省、M7.9、貯水池の貯水
・ 2015年4月25日:ネパール地震、ネパール、M7.8、地下水
・ 1976年4月8日:詳細不明、ウズベキスタン(旧ソ連)、M7.3、地下水
・ 1959年8月17日:ヘブゲン湖地震、米国モンタナ州、M7.1、貯水池の貯水
・ 1979年10月15日:バハ・カリフォルニア地震、メキシコ、M6.6、地熱

 上記には、旧ソ連時代で発生自体が秘匿された可能性があるなどの理由から、日本ではまったく知られていない地震も含まれている。四川大地震については、以前から「ダム誘発地震」ではないかと噂されていたが、震源から約5.5km、動いた断層から500mの至近距離にある紫坪埔(しへいほ)ダム(四川省都江堰市)の貯水が大地震を誘発したのではないかという。2006年に建設された同ダムの高さは500m、貯水量は3億トンにのぼり、日本最大となる徳山ダムの約2倍だ。この水の重量によって付近一帯の応力が変化したうえ、もともとダム直下の断層でひずみがたまっていたこともあり、地震の発生が早まったというのだ。

 四川大地震ほどではないが、ネパール地震の場合も、同様に「地下水のくみ上げが誘発した」と囁かれてきた。この地震は首都カトマンズの北西77km付近が震源となったが、カトマンズやその周辺には地下水を貯留した帯水層があり、そこから自然に湧き出した地下水が昔から水道として利用されてきた。大量の地下水を有するこの脆弱な地層が、地震を誘発した可能性が指摘されている。

 データベースに登録されている728の地震は、すべて科学的に人工地震であると証明されたわけではない。しかしそれでも今回、科学者たちが四川大地震やネパール地震も人工地震であると半ば認めたことの意味は大きい。人工地震の原因を割合別で見ると「鉱業」が37%、「貯水」が23%と大半を占めるが、その多くはやはり地下水が絡む話であり、実は“ダム誘発地震”が最も恐ろしいことを物語っている。


■日本の人工地震、相当ヤバい!

 さて、読者が一番気がかりな点は、過去に日本でどのくらいの数の人工地震が起きていたかという点だろう。データベースから日本で発生した地震を抽出したところ、25件が見つかった。地震発生の要因として最も多いのが、「貯水池の貯水」で15件。次に多いのが、「鉱業」で5件となっている。つまり日本で発生した人工地震も、やはり「ダム誘発地震」が大半を占め、次に鉱業的採掘が原因の地震もあるということになる。その他の要因は「地熱」や「研究」だが、これは人為的な営みによって地熱が上昇したために引き起こされた地震や、研究目的で起こされた地震もあるとういうことだろう。

 日本で起きた25件の人工地震のうち、最大規模は1961年8月19日に黒部で起きたM4.9で、その要因は「貯水池の貯水」となっている。同日に石川県加賀地方で「北美濃地震」(M7.0、最大震度4)が発生し、8人が命を落としているが、その震源は石川・富山・岐阜の県境付近。黒部ダムからは100km以上と遠いため、M4.9の揺れは「北美濃地震」とは別の、ダム貯水に起因する地震と考えられているようだが、詳細は定かではない。それ以外の地震はM3クラスが多く、以前から陰謀論界隈で人工地震が疑われている大地震はまったく含まれていないようだ。

 人工地震、すなわち人為的地震について筆者はシェールオイルの商業採掘が始まった秋田県でも人工地震が発生する危険性を警告していた。すると案の定、9月8日から最大M5.2の群発地震が実際に起きてしまった。まだ確定したわけではないものの、これが人工地震であるならば、まさに筆者の“予言”通りの事態が進行していることになる。なお、今回のデータベースは今年7月までに起きた地震が対象であることから、秋田の群発地震は登録されていない。今後データが追加されるかどうか、興味深いところだ。


■まだまだある! 人工地震の疑いが濃厚なケース

 では次に、データベースには含まれないが、日本で人工的に誘発されたことが疑われる地震を紹介する。

・ 長野県西部地震
 まずは1984年9月14日、長野県西部地震(M6.8)が発生し、土砂崩れなどで29人の死者が出た。これは1963年に完成した牧尾ダム(長野県木曽郡)の貯水の水圧によって引き起こされたダム誘発地震であるという説がある。牧尾ダムの完成後、周辺では群発地震が起きるようになり、名古屋大学名誉教授で地震学者の故・飯田汲事(くめじ)氏が貯水量と地震発生の関係を調査した結果、水位が減ると地震の回数も減ることがわかり、水が圧力で破砕帯に浸透していることが考えられると結論づけられたのだ。

・ 富山県の群発地震
 次は、ほとんど地震がないことで知られる富山県で、2016年8月末から約1カ月間にわたり群発地震が起きケースだ。この群発地震の震源が黒部ダムから約8kmと近かったことから、ダム誘発地震ではないかと考えられている。1963年の完成から50年以上が過ぎたダムでも誘発地震を引き起こすことの好例かもしれない。さらに、このダムの水位が上がるたびに周辺で微小な地震が起きるという事実もあるため、やはり誘発地震の可能性は高いといえるだろう。


■3.11の被災地域、炭鉱跡とも一致する!

 次に、炭鉱と地震の関係について紹介する。石炭から石油の時代になって閉鎖した炭鉱が多い中、地震との関係を見る必要があるのかと疑問に感じるかもしれないが、以下を読めば納得していただけるだろう。

 前述したように、世界で起きる人工地震のうち特に多いのが、鉱業資源の採掘に起因するものだ。炭鉱や金鉱も例外ではなく、たとえば世界最大の金鉱床地帯を抱える南アフリカ共和国には約30の金鉱山があるが、堀削空洞ができることによって現実に地震が誘発されており、岩盤崩落によって死者も出ている。しかもそれは、現在も採掘が行われているか否かに左右されない。つまり、炭鉱のような空洞を地下に作り出し、放置することは地震の発生につながるということだ。

 日本国内で地震が誘発される危険が高いのは、福島県双葉郡富岡町から茨城県日立市に至る広範囲にわたって存在した「常磐炭田」だ。1870年代から海岸線にある丘陵地帯を中心に大規模な炭鉱開発が行われたが、1970年代に閉山した。その後、福島県浜通りから茨城県北部の海沿いでは、震度3以上の地震が続いていたが、東日本大震災の直後からは状況が一変。震度4以上の地震が頻発するようになって現在に至る。震源の分布を見ると、ちょうど常磐炭田と重なり合うため、かつて炭鉱だった空洞の存在、そして3.11によってさらに地震が誘発されているのかもしれない。

 実は、この旧炭鉱地帯の北端に福島第一・第二原発が、南端には東海第一・第二原発が位置している。首都圏のエネルギー供給に役立つようにとの立地なのだろうが、頻発する地震のことを考えると、あまりにも大きなリスクが伴うことは明白であると言わざるを得ない。


■真実を知られたくない政府と大企業の思惑

 さて、これまで見てきたように、ダムの貯水や資源の採掘によって地震が誘発されることは、ほぼ決定的と言える。だが、日本の地震学者の多くは、この問題に関して沈黙を貫いているように思われる。それは、地震学者の研究に役人が目を光らせており、政府などの圧力を恐れている面もあるようだ。

 また、『週刊プレイボーイ』(2003年7月8日号)に掲載された誘発地震に関する記事では、ダムの貯水が地震を引き起こす実例を認めている地震学者が、なぜか匿名で登場する。それだけこの分野は“タブー”となっていることの表れだろう。

 現在、群馬県で建設中の八ッ場(やんば)ダムでは、住民による反対運動が活発化しているが、やはり誘発地震の可能性を危惧していることも理由の一つであるようだ。それに加えて八ッ場ダムの建設予定地は、歴史を通じて地すべりが多発する地帯であり、その地層には岩屑なだれの堆積物が残っているという。このような軟弱地盤のもとでは、通常以上に誘発地震に警戒しなければならないだろう。

 やはりダム建設や資源採掘といった政府や大企業の利害が関わる事項に対して、ネガティブな話は知られたくないというのが本音なのだろうか。世界で起きる大地震(M6超)のうち、約20%は日本で起きているという超地震大国でありながら、さらに人為的な地震を引き起こしかねない要因を自ら作り出すというのだから、慎重の上にも慎重を期した計画であるべきだろう。いずれにしても、これからも日本は大地震が“いつでも起き得る”環境にあることだけは間違いないようだ。

(文=百瀬直也)


※イメージ画像:「Thinkstock」より

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