ソニーが12年ぶりにイヌ型のペットロボット「aibo(アイボ)」を復活させた。多くのメディアは明るい話題として報じたが、見落とされている点がある。2014年に打ち切られた旧型アイボの修理サービスは復活しないという点だ。どれだけ愛情を注いでも、いつかは壊れてしまう。そして修理もできなくなる。新型での復活は、旧型のオーナーにどう受け止められたのか――。

■補修・修理に製造者がどこまで責任を持つか

ソニーが12年ぶりにイヌ型のペットロボット「aibo(アイボ)」を復活させた。今年11月に初回分の予約を開始したが30分ほどで完売。発売は来年1月の予定だ。商品発表の記者会見には平井一夫社長も登壇した。最近のソニーの新製品発表会で、トップ自らが登壇することは珍しい。それだけアイボ復活にかける思いは強いということだろう。

アイボの復活を、多くのメディアは好意的に捉えたようだ。とくに発表当日と翌日のニュース番組ではテレビ各局が競うようにその愛くるしい動作を画面一杯に映し出していた。

先代のAIBO(ソニーは新しいアイボを「aibo」と小文字、先代は「AIBO」と大文字でつづっている)は1999年に発売され、2006年に生産終了になるまで合計で6モデルが世に送りだされた。累計の生産台数は15万台(全世界合計)という。

新しいaiboの性能・機能は飛躍的に向上した。最大の進化は、クラウド経由で他のaiboが習熟した内容を共有し、ペットとして日々進化するという点だ。

それでは、新しいaiboは、果たしてソニーの“ブランド価値”を上げる製品になるのだろうか。もちろんそうなればいいとは思う半面、そこにはこの種の製品に特有の危うさも感じる。

その危うさとは、製品の補修・維持に製造者がどこまで責任を持って関わるのか、という問題だ。補修サービスはユーザーから「100点満点」をもらうのがきわめて困難なテーマである。これはもちろんaiboに限ったことではない。しかし、先代のAIBOが、他のエレクトロニクス製品とは異なる性質の問題を提起してきた事実を考えると、今回のaiboがその問題にどう取り組むのかはどうしても気になる。

新しいaiboの発表会で、開発担当の川西泉氏(AIロボティクスビジネスグループ長)は、2014年に修理サービスの打ち切りを宣言した先代のAIBOについて、「修理サービスの復活はない」と断言した。

この発言の対象がAIBOではなく、テレビやゲーム機、カメラといった製品であれば、抵抗なく素直に聞き流せたことだろう。しかし、aiboはそうした製品とは異なる。先代のAIBOのユーザーは、ほかの電気製品とは違った所有の仕方、より人間的な接し方をしているのだ。

■生産終了はメーカーに見捨てられること

たとえば自分のAIBOを何としても元通りにしたいと考えるオーナーが多数存在している、その願いに応えて、自主的に修理を手がけているソニーOBも現れた。さらには万策尽き果て修理をあきらめたオーナーが、動かなくなった自分の“愛犬”を寺に持ち込み、「魂抜き」の法要を営んでいることも報道されている。

つまり、AIBOは、そのオーナーにとって単なる電気製品ではなく、それ以上の存在なのだ。言うまでもなく、一般の電気製品、いわゆるハードウェアに魂はない。ところがオーナーの中には、日々、自分のAIBOと接することによって“心”を通わせる人がいる。彼らは、自分の“育てている”AIBOが不調になったとき、修理ではなく“治療”してもらいたいと望む。そして万が一、それが無理となってあきらめざるを得ないときには、魂を抜くことで元の“ハードウェア”に戻し、“葬式”をするのだ。こんな電気製品は、AIBO以前には存在しなかった。

現在、“生きている”AIBOのオーナーの数ははっきりとはわからない。しかし、この人たちは、間違いなく、ロボットとの生活という新しい社会現象を起こした先駆者であり、ソニーのファンの中で、最も愛情深いファンだろう。

AIBOの取扱説明書には、補修部品の保有期間は生産終了後7年、とある。したがって、2014年にソニーが補修サービスを打ち切ったときにも、残念の声はあったものの、それ以上の声はあまり聞かれなかった。以降、オーナーもソニーに対して“治療”の復活を望むことはせず、自力でその治療先を探したのも、仕方のないことだ。この間、ソニーがロボットを世に送り出していないという事実によっても、彼らはそれなりにあきらめがついていたと思われる。

ところが、ソニーは今回、イヌ型ロボットの復活を宣言しながらも、旧型については、今後とも関わるつもりはないと説明した。オーナーたちは、果たして、川西氏のこの発言を何の抵抗もなく聞いたのだろうか。さらに、この川西氏の発言を深読みすれば、新しくaiboのオーナーになる人も、いつかは先代のAIBOのオーナーが抱いたのと同じ思いを抱くことになるかもしれない、と解釈できる。

果たしてこれでいいのだろうか。

ソニーに対して最もロイヤリティーの高いAIBOのオーナーに対して、ソニーが「もうあなたのAIBOには関わるつもりはない」と宣言するのは、問題があるのではないか。最悪の場合、彼らがソニーに切り捨てられたという思いにとらわれることはないのだろうか。万が一にもそんな思いにとらわれた人は、二度とソニーの製品には戻ってこない。

■自動車業界で進む愛車の修理を続ける試み

自分が愛情を注いでいる製品をいつまでも“健康に”保ちたい、というユーザーの願いにメーカー自らが積極的に応えようとする動きは、最近、自動車業界で見られるようになっている。

ボルボ・カー・ジャパンは2016年8月、横浜市に「クラシックガレージ」を新設した。旧型のボルボ車を、専任のマルチ・スキル・テクニシャンが整備し、可能な限りオリジナルの“健康体”に戻す取り組みを始めている。

国内メーカーでは、マツダが軽量2シータースポーツカー「ロードスター」(1989年に発売した初代モデル)のレストアサービスを来年初頭より開始する。この12月13日にはその予約が開始される。補修パーツについても、その一部を供給メーカーと協力し、復刻・再供給する計画だ。

この両社を突き動かしているのは、おそらく自分たちがつくった製品を、可能な限り永く、愛情を持って使ってほしいという思いだろう。

公益社団法人の全国家庭電気製品公正取引協議会は、家電品の製造打ち切り後、補修用性能部品の最低保有期間を定めている。その対象はカラーテレビや電気冷蔵庫をはじめ34品目。ところが、aiboのようなロボットはその対象品目のリストにはない。今後この種の製品が、家庭に普及するようになると考えれば、業界としても自主的なルールを定める必要があるのではないか。ソニーがこの種のロボット市場に真剣に再参入しようとするのであれば、むしろ積極的にルールづくりに取り組んでほしい。

ソニーのエンジニアがAIBOからaiboへロボット事業の継続性を保ちたいという気持ちはよく理解できる。しかし、aiboのオーナーの中には、自分のaiboの命脈を断たれる日がいつか必ず来ると、事前に念押しをされたのだと感じる人がいてもおかしくないだろう。

先代のAIBOの補修サービスを再開する可能性がまったくないのであれば、ソニーは今回の新しいロボットにAIBOを連想させない別の名前を与えたほうがよかったのではないか。同じ名前を使ったことで、新しいaiboには、先代のAIBOのオーナーが味わった悲しみも引き継がれてしまった。

ソニーは12年ぶりにイヌ型のペットロボット「aibo(アイボ)」を復活させた。