井原正巳監督が就任した2015年にJ1昇格、翌年はJ1最下位でJ2へ降格し、井原体制3年目の今季は『1年でのJ1復帰』が最大の目標だった。数値的には年間勝ち点84で自動昇格を目標に掲げたが、勝ち点は74で明治安田生命J2リーグ4位となり、J1昇格プレーオフの結果、J1昇格を果たすことはできなかった。

 順位変動を見ると、第14節に当時首位だった湘南ベルマーレを下して自動昇格圏内に入ると、続くツエーゲン金沢戦では5-0と大勝して首位に立ち、以降6戦未勝利となった第33節まで自動昇格圏内をキープした。その後も堅守を武器に、上位での昇格争いの中、J1昇格へと邁進。シーズンを振り返って井原監督は「首位に立ったことを含め、自動昇格圏内をキープする時間も長く、選手たちは1年を通して高いアベレージを見せてくれた」と総括し、目標としたJ1昇格こそ果たせなかったが、実りあるシーズンだったことを強調した。

 惜しまれるのは、シーズンを通して下位チームからの取りこぼしが多かったことと、先制しながらも追いつかれて、勝ち点1しか積み上げられないといったゲームが目立ったことだ。特に終盤の5試合を1勝3分け1敗と勝ち切れなかったことが、最終的に昇格を阻んだ。アビスパ福岡と入れ替わる形で、第39節にV・ファーレン長崎が自動昇格圏内へ浮上。最後の2試合は先制しながら追いつかれて勝ち点1ずつしか積み上げられず、最終節で名古屋グランパスにかわされて4位フィニッシュとなった。プレーオフ決勝では、その名古屋とJ1昇格の残り1枠を巡って争うことになり、結果はスコアレスドロー。引き分けの場合、年間順位が上位のチームを勝者とするレギュレーションにより、名古屋のJ1昇格が決定した。この試合が象徴するように、全体的に“あと一息”…という印象が残るシーズンだった。

 下位チームを苦手とした理由のひとつが、リトリートした相手を攻略できなかった点にある。第16節に今季最下位のザスパクサツ群馬とホームで対戦した際も、早い時間帯に失点したこともあり、ゴール前を固めて守り抜く相手を崩すことができず、膠着したゲームとなった。そういった局面でも人とボールを動かしてスペースを生み出すような連動性があれば、勝ち点のさらなる積み上げがあっただろう。また、リスタートから失点するケースも多く、ゲームのポイントとなる場面でのチーム全体の意思疎通などにも課題が見えた。

 しかしながら井原監督も口にしたように、チーム力の向上は実感できるシーズンだったと言える。1月の新体制記者発表で、鈴木健仁強化部長が「J1で戦うことを見据えた補強」と胸を張ったように、ガンバ大阪から岩下敬輔、名古屋から松田力、ヴィッセル神戸から石津大介の復帰、そして京都サンガF.C.からベテランの山瀬功治らを補強。前年J1で66失点だった守備の立て直しをベースに、攻撃ではウェリントン頼みからの脱却を図るべく、夏に横浜F・マリノスから加入した仲川輝人を含め、さまざまなタイプの選手を揃えて攻撃パターンを増やした。

 守備面では、シーズン当初に井原監督が「1試合1失点以下」と具体的な数値を掲げ、守備から攻撃を意識した組織的なプレッシングに磨きをかけた。リーグ戦では複数失点した試合は7試合のみ。数値的にも目標をクリアし、今季J2を制した湘南ベルマーレと並んでリーグ最少タイの年間36失点と成果を得ることができた。昇格した2015年は、ブロックを作ってリトリートすることで相手の攻撃スペースを消し、ボールを奪ったらロングボールで前線へ押し上げる戦い方をベースにしていたが、今季は攻撃の選択肢を増やすためにどう守るかをテーマに組織力を向上。体力消耗が激しい夏場を除けば、高い位置から全体が連動してプレッシャーをかけ、ボール奪取の位置を全体が共有したうえで、ピッチ内での細かな修正を繰り返しながら、安定した守備組織を形成することができた。

 その守備を統率したのが、今季加入した岩下とGKの杉山力裕。特に岩下は、時に激しい口調やジェスチャーで仲間に指示を出し、チームを常に引き締めた。また、冨安健洋がU-20日本代表招集と累積警告による出場停止を除くとフル出場しており、プロ2年目ながらチームに欠かせない存在となった。一方でベテランの駒野友一、ボランチとして出場する機会も多かった山瀬、今季キャプテンを務めた三門雄大と経験豊富な選手もコンスタントに活躍し、若手とベテランがそれぞれの長所を発揮し、それぞれの欠点を補うようなチームとしての完成度を高めていった。加えて夏に加入した当時19歳の韓国人DFウォン・ドゥジェがボランチとして早期にフィットし、第25節以降リーグ戦ではフル出場したこともチームに大きなプラスとなった。しかし夏場から實藤友紀が長期離脱し、終盤にはディフェンスリーダーの岩下も離脱することとなり、守備の要を欠いたことが終盤戦の足踏みに影響したことも否めない。

 攻撃面では、ウェリントンの高さとパワーを軸にしながらも、ロングボールばかりでなく、ディフェンスラインから攻撃を組み立てて、多彩な攻撃パターンを模索し続けた。対戦相手やゲームの流れに応じて3-4-3や3-5-2、4-4-2などフォーメーションを柔軟に使い分けるところも井原監督の特徴だが、どのような形であってもウェリントンが入れば、彼を起点とした縦の攻撃と、サイドを攻略したクロスからの1次、2次攻撃で多くのチャンスを作った。

 得点ランキングでリーグ3位タイ(19得点)となったウェリントン以外に、裏への機動力がある松田や城後寿、ベテランストライカーの坂田大輔、スピードと得点能力に優れたウィリアン・ポッピ、ドリブルで局面を打開できる石津、サイドアタッカーのジウシーニョ、途中加入の仲川など豊富なタレントを揃え、井原監督も「クロスの本数、ペナルティエリア内への侵入回数、シュート数など攻撃面で求めてきたデータの部分でも、成果を得たと感じている」とシーズンを振り返った。チームで唯一、全試合に出場したサイドバックの亀川諒史を左に、ベテランの駒野を右に配置することが多く、両サイドからの正確で速いクロスも福岡の持ち味となった。また、中盤の山瀬、三門、途中加入のウォンらが放つミドルシュートも武器のひとつだった。

 しかしシーズン当初の目標であった「60~70点が取れる攻撃力」という数値目標に対して、リーグ年間54得点と届かなかった部分は課題として残る。攻撃のパターンを増やすことには成果を得たが、より決定的なシーンを増やすこと、シュートの精度を高めることが来季への課題となるだろう。

 とは言え、1年でのJ1復帰を逃したことで、来季は大幅な戦力ダウンも懸念される。そうなれば、今年以上に厳しい戦いを強いられることになるだろう。続投する井原監督のもと、3年間で積み上げた堅守の部分をチームスタイルとして継続しながら、攻撃の質をさらに高めていかなければならない。チームはすでに坂田や中原貴之ら数名の契約満了を発表しており、全体的に若返りを図る方向性もうかがえる。

 クラブとしては、Jリーグ加盟初年度の1996年以降、来季は14シーズン目のJ2となる。J1へ復帰し、J1に定着するために、積み上げてきたものを継続できる環境を整え、来季はさらに進化を遂げたい。

文=新甫條利子

福岡を率いる井原監督 [写真]=JL/Getty Images for DAZN