1975年から毎年1回開催されている『NHK古典鑑賞会』は、人間国宝をはじめ、古典の各分野を代表する出演者がNHKホールに集い圧巻の舞台を披露。今年は、第一部で「」にまつわる琉球舞踊・文楽・長唄を、第二部は近門左衛門の名作から歌舞伎女護 俊寛』を上演した。

他では見られないこの祭典の模様が、12月16日Eテレで3時間にわたって一挙放送石田ひかり鹿アナウンサーの案内で届けられる。

まず、の『融(とおる)』を舞囃子で。人間国宝大槻文藏が融(みなもとのとおる)の霊に扮し、荒れ果てた元屋敷で月の光に照らされながら懐旧の舞を披露する。生前子だった融は、『源氏物語』の主人公源氏モデルといわれる。舞囃子は、シテが面や装束をつけず、紋付きでお囃子や地謡を伴ってハイライトシーンを舞うダイジェスト形式の演人間国宝大倉次郎の小鼓や、亀井忠雄の大鼓にもを傾けて。

舞囃子『融』を舞う、大槻文藏(中央)

舞囃子『融』を舞う、大槻文藏(中央)

琉球舞踊でも人間国宝の至芸を堪できる。宮城(みやぎ・のうほう)が、歌三線城間太郎(しろま・とくたろう)らの音楽とともに演じる『諸屯(しゅどぅん)』は、古典舞踊を代表する女踊りの最高峰とされる。琉球時代に中国からの使者を歓待する宴席で踊られていた。月夜にもの思う女を、わずかな振りやしぐさなどで表現する。する女のやるせなさやわびしさが、じんと伝わる深さ。視線を上から下、左上右上へと動かす「三付(さんかくみじち)」と呼ばれる表現にもご注

文楽の『関寺小町(せきでらこまち)』は、美しい歌人だった小野小町の老後もの。御年歳の小町が、寂しい寺で若かりし日をしのぶ。同類の話は、歌舞伎などでもおなじみだが、豊呂勢太夫(とよたけ・ろせたゆう)の浄瑠璃人間国宝澤清治の三味線などに合わせて踊る人形しぐさを見るにつけ、この世の移ろいを思いやる・・・。

長唄の『二人椀久(ににんわんきゅう)』は、大阪筋に実在した商、椀屋久右衛門の実話をもとに生まれた「椀久もの」のひとつ。傾松山に惚れてさんざん入れ揚げるが思いは実らず、心を病んで亡くなった椀久の悲幻想的にうたい描く。「長唄東音会」会長の東音味見(とうおん・あじみとおる)、人間国宝の唄方・東音宮田哲男、長唄囃子の堅田喜三久(かただ・きさく)らが、東音会を中心とする面々と演奏。創立60年を迎えた東音会は元にかわる組織で、東京藝術大学教師卒業生からなり、人名の頭に「東音」がつく。

長唄『二人椀久』

長唄『二人椀久』

そして、この日のクライマックス歌舞伎女護 俊寛』は、壮絶なストーリー

討伐の陰謀が露見して、界ケに流された俊寛(中村芝翫)と流人仲間の成経(中村之助)、康頼(市村太郎)に赦免が下る。しかし、成経の新妻である女の千鳥中村太郎)は赦免船に乗せられないと役人に言われる。俊寛は、役人の瀬尾板東彌十郎)をわざと殺め、自分の代わりに千鳥を乗船させ、遠ざかる船を見送るのだ。

人間国宝中村東蔵が演じる塗りの役人・丹左衛門は善人、顔をく塗った「ッ面」の瀬尾悪役人など、伝統の化粧の他に、出で立ちにも特徴がみられる。瀬尾や丹左衛門の右袖は折りたたんで背中に差し込まれ、左袖は凧のようにピンとられている。現代人には奇異で滑稽に見えるが、正式な使者を示す姿である。

エンディングで、孤の砂が大海原に転換する大がかりな仕掛けも見応えたっぷり。ホール下手に作られたに浪布(なみぬの)がするすると延び、赦免船を見送る岩場が舞台中央に移動し、砂にもあっという間に浪布が敷き詰められて、一面大海原に。

昨年八代を襲名した芝翫が、長男之助と共演。絶の孤でたった一人、遠ざかる船を見送る俊寛をどう演じたかは、放送を見てのお楽しみ。

文=原納暢子

番組情報
44NHK古典鑑賞会 「琉球舞踊・文楽・長唄・ 歌舞伎
 
■日時:12月16日土曜 NHKEテレ 午後2時00分~ 午後5時00分
■出演:大槻文藏、大倉次郎、亀井忠雄、宮城城間太郎澤清治、吉田和生、東音宮田哲男、東音皆川健、東音味見、堅田喜三久、中村芝翫、中村東蔵ほか【ご案内】石田ひかり鹿アナウンサー
■演
「舞囃子“融”」17分15秒)
(シテ)大槻文藏、(地謡)観世銕之、(地謡)柴田稔、(地謡)武富康之、(地謡)大槻裕一、(藤田六郎兵衛、(小鼓)大倉次郎、(大鼓)亀井忠雄、(太鼓)雄一郎
 
琉球舞踊“諸屯”」(15分00秒)
(立方)宮城、(歌・三線城間太郎、(歌・三線)喜瀬学、(歌・三線栄原宗勝、(箏)城間安子、(知念、(胡新城
 
文楽“関寺小町”」(14分53秒)
浄瑠璃)豊呂勢太夫、(三味線澤清治、(ツレ(三味線))蔵、(人形吉田和生、(人形吉田文昇、(人形吉田、(人形吉田和登、(舎名生、(小鼓)舎呂船
 
「長唄“二人椀久”」22分24秒)
(唄)東音 宮田哲男、(唄)東音 皆川健、(唄)東音 村治利、(唄)東音 味見純、(唄)東音 鈴木、(三味線)東音 味見、(三味線)東音 高橋武久、(三味線)東音 喜康、(三味線)東音 高橋智久、(三味線)東音 宮田由多加、(中川 善雄、(小鼓)堅田 喜三久、(小鼓)堅田 新十郎、(小鼓)屋 喜三郎、(大鼓)望月
 
歌舞伎女護 俊寛”」(1時間22分14秒)
門左衛門:作
俊寛僧都…中村 芝翫、丹左衛門尉基康…中村 東蔵、瀬尾太郎兼康…坂東 彌十郎、判官康頼…市村 太郎千鳥中村太郎、丹波少将成経…中村 之助、瀬尾の供中村三郎瀬尾の供中村五郎瀬尾の供片岡三郎瀬尾の供…澤村 矢、丹左衛門の供中村 、丹左衛門の供中村兵衛、丹左衛門の供片岡 孝志、丹左衛門の供中村三郎、(浄瑠璃(義太夫))竹本 東太夫、(三味線(義太夫))豊澤 長一郎、(三味線)杵屋 栄十郎、(囃子)田中 長十郎

 
~すべて、東京NHKホールで収録~
 
歌舞伎『平家女護島 俊寛』で、俊寛を演じる中村芝翫。ホールに回り舞台がないので、岩場は人力で動かしたようだ