新日本プロレス・棚橋弘至――。紛れもなく、現在の日本のプロレス界のエースである。総合格闘技ブームで人気が落ち込んだプロレスを、彼が盛り上げた。ブーイングを受けながらも自身のスタイルを貫き、時代を変えた。そんな棚橋がプロレスに魅了されるきっかけとなったのが、小橋健太だった。新日本プロレスと全日本プロレス。団体の枠を超えて、棚橋が受け継いだ“小橋イズム”とはなにか?



――四天王プロレスは極めて危険だったと言われています。棚橋選手から見て、いかがですか?

棚橋弘至(以下、棚橋):選手間にある程度の信頼関係があったと思うんですよ。その上で、ああいう攻防が成り立っていたんだろうなと。

小橋建太(以下、小橋):見ている人はみんなそう思ってただろうね。

棚橋:小橋さんと、三沢さん、川田さん、田上さんにしかない信頼関係が、絶対あるんですよ。

小橋:「大丈夫かな?」と思って投げるとか、そういうことじゃなくて、「こいつならここまでやっても大丈夫だろう」っていう信頼関係とはまた少し違った思いがあったかな。

棚橋:ジャンボ鶴田さんはバックドロップをするとき、対戦相手によって落とす角度を変えていたっていう話も有名ですしね。僕は自分にしかできないスタイルももちろん見つけたいですけど、もっとベーシックなものでもいいんじゃないかなと思ってます。やられても立ち上がって向っていくということをいつまでも残したいし、そこがやっぱりプロレスの一番の魅力だと思うので。

小橋:俺も先輩方から、やられても立ち上がるっていうのを受け継いだ。プロレスだけじゃなくて、人生ってそういうものだよね。やられてもやれても、世間に対して立ち上がって頑張っていく。それをリング上でやるのがプロレスラーだと思う。

棚橋:小橋さんがグッと握り拳をする姿に、パワーをもらったファンってすごくたくさんいると思うんですよ。「小橋が頑張ってるから、俺も仕事で頑張ろう」とか。ファンの人はみんな、小橋さんに感謝していると思います。いい試合を見せてくれてありがとう、頑張ってくれてありがとうって。僕も目指すところです。「棚橋が頑張ってるから、よし、今日も頑張ろう」と言ってもらいたい。

小橋:ホントに優しいよね。女性だけじゃなくて、男性にも優しい。紳士なんだよ。

棚橋:チャラ男から紳士に(笑)。ベストファーザーにもなりましたし。

小橋:チャラ男って昔?

棚橋:2007、2008、2009年くらいですかね。ブーイングをもらってた時期があって。外見ばっかり派手で、新日本らしくなかったんですよね。

小橋:そこを変えたっていうのはすごいよね。昔からの新日本のファンは硬派な人が多いし、棚橋君のスタイルには拒否反応を示すタイプだったのかもしれない。それを変えたんだから、すごいよ。

棚橋:仮に小橋さんが僕と同年代だったとして、小橋さんが新日本に入門していたとしても、新日本プロレスはきっと変わっていたと思いますよ。みんな握り拳をしていると思います(笑)。エネルギーを持たれてる方なんですよね。影響力がある。

小橋:前から言ってるんだけど、俺のファンのみんなに対する気持ちを、棚橋君は受け継いでくれてるよね。

棚橋:レスラーって不思議ですよね。息が上がってて、受け身で頭が揺れてても、コールが来たら動けちゃうんですよ。あれ、なんなんでしょうね。

小橋:ポパイのほうれん草みたいな感じ。

棚橋:会場が盛り上がってないと、すぐに息が上がっちゃったり。でもワーッてなったら、一緒に立ち上がれる。レスラーズハイというか。

小橋:リングだけで試合はできない。レスラーがいて、お客さんがいて、スタッフがいて。みんながいて、会場が一体になって初めて試合ができる。いつもやってる相手だからいい試合になるとは限らない。試合は生ものだからね。

棚橋:会場が違ったりとか、見ている人が違ったりするだけで、同じ対戦カードでも全然違うカードになったりするからプロレスって面白いんですよね。毎回、緊張感が抜けない。

小橋:いい試合になるとも限らないしね。

棚橋:これはキャリアを重ねても、本当に分からないんですよ。年間150試合以上あったとしても、毎回新鮮な気持ちでできるのが楽しいんですよね。同じ対戦相手であっても、場所やシチュエーションが変わると、全然読めなくなる。これが、やってる側としての醍醐味ですね。

小橋:プロレス雑誌とか見て「また同じ相手じゃん」って思われるかもしれないけど、やってるレスラーとしては毎回違う気持ちで試合に臨んでる。会場も違うし、見ている人も違う。反応も違う。だから新鮮な気持ちで闘える。

棚橋:同じカードでも、同じ試合内容にならないのが面白いんですよね。

小橋:次の試合も想像を超える試合をしたいと思ってやってるから、いい試合になる。自分たちの思いもそれを超えるから。ファンのみんなの思いが高まると、また超えようとする。

棚橋:いま、プロレスラーになったから思うんですけど、「三沢(光晴)対小橋」っていうカードが出たら、ファンの期待値がものすごく高いんですよね。そのハードルを超えないといけないというのは、小橋さんにも少なからずプレッシャーがあったのかなと思います。

小橋:プレッシャーはあったけど、プレッシャーがいい意味で自分を奮い立たせてくれた。期待されるというのは、レスラーにとって一番嬉しいことだから。期待がなかったら、なんの張り合いもないよ。

棚橋:やっぱり人間って、期待されると嬉しいですよね。頼りにされたり必要とされたりするうちは、レスラーとしての華だなと思います。

小橋:どんな世界でも、プレッシャーはそのときその人にしか味わえないことだからね。楽しまないともったいない。

棚橋:出ましたね、名言!

小橋:今度は俺が棚橋君に乗っかったんだよ(笑)。

【PROFILE】
●棚橋弘至(たなはし・ひろし)
新日本プロレス所属。’76年11月13日、岐阜県大垣市生まれ。’99年4月、新日本プロレス入門。同年10月、真壁伸也(現・真壁刀義)戦でデビュー。IWGPヘビー級をはじめ、IWGPインターコンチネンタルなど多くのベルトを巻く。’16年、ベスト・ファーザー イエローリボン賞(スポーツ部門)、ベスト・ネクタイスト賞を受賞。’18年、映画『パパはわるものチャンピオン』公開予定。著書に『全力で生きる技術』『史上最強のメンタルタフネス』などがある。Twitter:@tanahashi1_100

●小橋建太(こばし・けんた)
(株)Fortune KK代表取締役。’67年3月27日、京都府福知山市生まれ。’87年6月、全日本プロレスに入団。“プロレス四天王”と呼ばれるレスラーの一人。2000年6月、プロレスリング・ノアに移籍。’03年3月、GHCヘビー級王座獲得。13度の防衛に成功し、“絶対王者”と呼ばれる。’06年6月、腎臓がんが発覚するが、2007年12月、奇跡のプロレス復帰を果たす。’13年5月11日、引退。現在はチャリティーや講演会など、幅広い活動を続けている。Twitter:@FortuneKK0327

構成/尾崎ムギ子 撮影/橋本一美