先週より、NHKのBSプレミアムにて2週連続でドラマ「ショートショート木皿泉劇場“道草”」が放送されている(夜11時~)。これは、タイトルどおり、「人生の道草」をテーマに、木皿泉の脚本による数本の短いドラマで構成された番組だ。ドラマの幕間には、今年現役を引退した将棋棋士・加藤一二三が街歩きをするコーナーも設けられている。

先週、12月9日の第1夜では、タクシーの車内での運転手とアイドルの客による「さよなら不思議ちゃん」、吸血鬼の叔父と甥による「バンパイアはつらいよ」と2本の物語が、それぞれ2つのエピソードに分けて放送された。

「人間のそういうとこ、ちょっと、キュンとくるよな」
番組は、“神様”による口上から始まる。声はベテランアナウンサーの加賀美幸子だが、姿はマキタスポーツというギャップ。かつては神々しかったのが、このような「みすぼらしい姿」になってしまったのは、人々が神様をあまり信じなくなったからだと説明される。これは、このあとに出てくる吸血鬼の話ともちょっと関連してくる設定だ。

木皿泉の作品では、日常のなかでの人々の会話、そこに出てくるさりげないセリフに心を揺さぶられることが多い。今回のドラマもそうだった。

「さよなら不思議ちゃん」では、“不思議ちゃん”という設定で活動するアイドル・ピュアコ(門脇麦)が、本当の自分とのギャップに揺れるさまが、会話の端々からうかがえる。

たとえば、ピュアコが唐突に「自分は解離性障害かもしれない」と言い出し、「運転手さんも、(中略)その場、その場で違う自分がいるでしょう?」と訊く。それに対して皆川猿時演じる運転手は、そういえば、テレビで見た動物番組で、ライオンの回ではライオンに、シマウマの回ではシマウマにそれぞれ感情移入してしまったことがあると、彼なりに懸命に理解しようとするのがおかしい。

もう一つの「バンパイアはつらいよ」は、吸血鬼の甥(荒川良々)が人間に恋をしたと、叔父(鹿賀丈史)に打ち明けるところから始まる。このとき甥が、恋した相手の外科医が、なぜ患者を助かりそうもないとわかっているのに全力を尽くして治療するのかわからないと疑問を示した。ここから二人の会話は次のように展開していく。

叔父「人間ってヤツはさ――どんな時でも、もしかしたらって思うンだよ。弱いくせに、自分の限界を知らないんだ」
甥「っていうか、知ろうとしないんですよね」
叔父「バカだよなぁ。無駄だと知ってるのに何かを信じて頑張るなんてさ」
甥「ほんと、バカですよ」
叔父「でも――人間のそういうとこ、オレらには、ちょっと、キュンとくるよな」
甥「それッ! ボクの言いたいの、それですよ。叔父さん」

叔父もまた人間のことが好きなのだった。2話目ではいきなり舞台が50年後に飛び、甥はその外科医とめでたく結婚したことがあきらかにされる。ただし、吸血鬼は年をとらないけれど、人間は否応なしに老いて、やがて死んでいく。甥の妻も50年が経って、すでに80歳になったらしい。これを受けて叔父が、吸血鬼にも終わりがあり、人間から存在しないと思われた瞬間に消えるのだと言い出す。冒頭の口上での神様の話ともつながって、何だか意味深長だ。

もともとはラジオドラマだった「道草」
それにしても、今回のドラマは、ほぼ二人の人物の会話だけで成立し、セットなどもじつにシンプルだ。それもそのはず、この作品はもともとラジオドラマだったからだ。

ラジオドラマ版は、いまから16年前の2001年よりTOKYO FM全国ネットで「エネオス・オン・ザ・ウェイ・コメディ 道草」と題して放送された。当時、ほとんど休業状態だった木皿泉に脚本を依頼して始まったこのドラマは、その後何人かべつの脚本家も加わりながら、2008年まで足かけ8年続く。

ラジオドラマ版「道草」は後年、木皿の脚本だけを集め、4巻に分けて単行本化もされている。このうち最終巻のあとがきでの木皿泉の二人(和泉努と妻鹿年季子)の対談によれば、ラジオドラマ版「道草」を書いているあいだには本当にいろんなことがあったという。初めての連続ドラマ「すいか」を書き、向田邦子賞を受賞したのも、その数ヵ月後に和泉が脳内出血で倒れたのも、続いて手がけた連ドラ「野ブタをプロデュース。」のDVDが売れて、急に金持ちになったのも、「道草」の執筆中だった(ちなみに二人が結婚したのもこの期間中、和泉が倒れたあとだ)。

じつに上がり下がりの激しい、ジェットコースターのような年月である。それでいて、書いている内容は実際の生活とは関係なく、終始まったく変わらなかったと語っているのが、いかにも木皿泉らしい。

べつの巻のあとがきでは、「道草」を書いていたからこそ、テレビの連続ドラマも書けたのだと思うとも語っている。

《ラジオを書いていると、これやりたいけど無理だっていうのがありますからね。映像じゃないと絶対に無理っていうような話が。そーゆーのがたまっていた頃にテレビドラマだったので、一気に吐き出せたというか。だから「すいか」は「道草」のノリの延長みたいな感じで書いてましたよね》(木皿泉『ON THE WAY COMEDY 道草 平田家の人々篇』河出文庫)

その後の「野ブタ。をプロデュース」にいたっては、和泉の在宅介護を始めたばかりの頃で、「道草」のアイデアを流用することで何とか乗り切れたという。まさに「道草」は、木皿泉の原点ともいえる作品なのだ。

今夜放送の第2夜では、「平田家の人々」と題するシリーズからいくつかのエピソードが放送される(ちなみに今回、平田家の母親に扮する石田ひかりは、ラジオドラマ版にも出演経験がある)。この「平田家」のシリーズは、ラジオドラマ版の「道草」のなかでももっともエピソードが多く、脚本集の刊行に際してはこれだけで1冊分にまとめられている。それというのも、木皿たちがネタに詰まるたびに、思い出したように書いていたからだとか。とすれば、ある意味、木皿ドラマのエッセンスが濃縮されているともいえるかもしれない。はたしてそれがどう映像化されるのか、楽しみだ。

■木皿泉ラジオドラマ脚本集『ON THE WAY COMEDY 道草』全4巻(河出文庫)
「平田家の人々篇」
「愛はミラクル篇」
「袖ふりあう人々篇」(「人情タクシー さよなら不思議ちゃん」収録)
「浮世は奇々怪々篇」(「バンパイアはつらいよ」収録)
※テレビドラマ版の第1夜は現在、NHKオンデマンドで配信中(12月23日まで購入可能)

(近藤正高)
「ショートショート木皿泉劇場 道草」はもともとラジオドラマだった。その脚本は4冊に分けて単行本化されている。画像は今夜放送の「平田家の人々」シリーズを収録した巻