日本のスーパーコンピュータ業界を牽引していたペジーコンピューティング(東京都千代田区)代表の齊藤元章容疑者(49)が、国の助成金を詐取したという詐欺罪で先月25日、東京地裁に起訴された。

 逮捕、起訴した東京地検特捜部の捜査は、これで終わりではない。もともと摘発のきっかけは、10数社のグループ企業を持つ齊藤被告が架空取引などで脱税しているという疑いを持った国税当局が、税務調査に入ったことだった。
 
 捜査は高級レジデンス住まいの齊藤被告の私生活にも及び、安倍晋三首相や麻生太郎財務相と太いパイプを持つことで知られるジャーナリストでペジー社顧問の山口敬之氏が使用する、賃料が月68万~240万円もするとされる高額事務所費負担や顧問料なども問題になってくる。

 さらに、特捜案件だけに「政官ルート」を視野に入れた捜査も始まるだろう。齊藤被告は、政府の有識者会議委員を務めるなど幅広い人脈を持つ。また、山口顧問はTBS退社後にフリーとなり、齊藤被告の提唱するシンギュラリティに関する財団や政治団体を設立している。

「スパコンの旗手」として齊藤被告が国から引っ張ったカネは100億円に達する。なぜビジネスの実績がないベンチャー企業に、それほどの資金が投じられたのか。そこに、齊藤被告や山口顧問の地位や人脈を利用した働きかけはなかったのか。今後、焦点はそこに移る。100億円は国のカネである。詐欺罪で起訴された齊藤被告の「入り」の工作と「出」の行方を調べるのは当然のことだろう。

 そもそもペジーは異型の企業グループだった。今回の起訴案件は、経済産業省所管の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の2013年度事業で、上限5億円の助成金のうち4億3100万円を騙し取ったというもの。NEDOからの助成金は、他の4件を合わせると35億2400万円となる。

 齊藤被告が国から受けた他の支援は、文部科学省所管の科学技術振興機構(JST)が16年度予算で関連会社のエクサスケーラーに対して与えた60億円の融資枠。うち52億円はすでに受け取っている。

 異型というのは、ペジー、エクサスともに事業実態がうかがえないこと。売上高、利益などはすべて非公表で、さまざまな手法で事業データを調べる民間情報機関も“お手上げ”なようで、次のような文言が並ぶ。

「事業内容をはじめとして業績など一切の公表を得られず、側面調査においても全般掌握に至らなかった」

●出資額は200億円以上

 実績のなさを補っていたのが、齊藤被告が講演や著作などで語る「世界一のスパコンを製造する」という“志”や、そのスパコンで「働く必要のない『不労』の世界を手に入れ、人体のメカニズムを革新的に解明することによる『不死』の世界を手に入れます」という“夢”だった。

 まるで錬金術師や魔術師の世界である。だが、新潟大学医学部から東京大学大学院医学系研究科で学び、それに飽き足らずに米シリコンバレーで医療系システム会社を起業して成功を収め、11年3月11日の東日本大震災を機に「日本の役に立ちたい」と思い帰国したという齊藤被告の経歴が、「夢のストーリー」に真実味を与えた。

 国だけではない。ペジー、エクサス、電子部品開発会社のウルトラメモリの3社を中核とする齊藤被告のグループ企業は、人工知能開発、仮想通貨の電算処理、投資組合など十数社に及び、そのほか前述の山口氏絡みの日本シンギュラリティ財団、日本シンギュラリティ党など派生する分野もあり、多くの資金を必要とした。そして齊藤被告に賛同した企業や資産家が出資した額は200億円以上にも達するという。

 それなりの実績も残している。齊藤被告の強みはスパコンのなかでも小型化、省力化で、その分野を競う「グリーン500」の世界ランキングでは15年に1位から3位を独占した。また、スパコンの計算速度を競う「トップ500」でも、開発したスパコンの「暁光」が世界4位に入っている。

 天才だがホラ吹き――。特捜捜査によって齊藤被告はホラ吹きの部分だけを強調されているが、NEDOもJSTも専門家集団であり、技術的なウソが通るほど甘くはない。甘かったのは、資金を枠いっぱいに与えるという配慮であり、そこに関与した官僚は誰で、そうさせた政治家は誰なのか。「忖度」が働いたという意味では、森友・加計学園と同じ構図である。

 従って、「第3の森友問題」というのは間違ってはいないが、違いは特捜案件として捜査中であること。今後、復活した特捜部とマスコミが補完しながらスパコン事件を追及すれば、今年は場合によっては政権が揺らぐ可能性もある。
(文=伊藤博敏/ジャーナリスト)

ペジーコンピューティング代表の齊藤元章容疑者(東洋経済/アフロ)