2018年になった。干支が一回りすれば時代が「一時代前・一時代後」になった感があるが、思えば前回の戌年である2006年は、ライブドアの証券取引法違反容疑によりホリエモンこと堀江貴文氏が逮捕され、一連の株安をもたらした「ライブドア・ショック」で幕を開けた。「ヒルズ族」なる言葉を生み、周囲を睥睨(へいげい)し、きらめく成功の象徴たる孤高の塔・六本木ヒルズに捜査員が続々と入っていく様は栄枯盛衰を思い起こさせるものであった。

■12年前、ネット界に起こっていたこと

2004年から2005年にかけて、堀江氏は絶頂にあった。プロ野球球団買収をぶち上げたかと思えば、ニッポン放送株の35%を取得し、衆議院選挙にも「改革」と書かれた黒いTシャツを着て広島6区から出馬。自民党の公認は受けなかったが郵政民営化で「造反」した亀井静香氏に対する「刺客」としての役割を期待され、武部勤幹事長(当時)から「我が弟です! 息子です!」と熱いエールを受けた。旧来型の日本企業をぶっ潰すような勢いに対し、守旧派からの反発も強かったが、マスコミからの質問や多少のトラブルに動じることなく「想定内」と言い放ち、天才経営者としての雰囲気をプンプンと醸し出した。2005年末には流行語大賞のトップテンも獲得し、同社忘年会では社員とともにパラパラを踊るイケイケの堀江氏の様子がテレビで何度も流された。

まさに2004年、2005年、2年連続で「パーソンオブザイヤー」に輝いてもおかしくない堀江氏だったが、2006年初頭の六本木ヒルズへの家宅捜索で、人々は若きネット陣営がオールドエコノミーのオッサン・ジジイ連中に完膚無きにまで叩き潰される様を見せつけられたのである。

2006年、他に発生した騒動を見ると、GoogleによるYouTube買収、スカイプ日本国内提供、mixi隆盛などがあり、iPhone発売の前年にあたる。ライブドアの輝きが失われる中、ネット業界の希望は「mixi」と「はてな」が一身に背負うこととなる。当時は、各社が様々なブログサービスを始めるなかで、ライブドアが覇権を握っていたが、堀江氏の逮捕により一気にすぼむ。その後釜を誰が担うか? といった時期にあたったのだ。

結局は多数の芸能人と契約し、テレビ以外の活動の場を作ることが収入に結びつくことを示したアメーバブログ(アメブロ)がNo.1に躍り出るのだが、時代は混沌としていた。テレビから人をジャンジャン連れてきて、『クイズ! ヘキサゴンII』(フジテレビ系)の出演者(上地雄輔・木下優樹菜・里田まいら)が軒並みブログを開始して支持を集めるようになる時代の少し前、ネット界のトレンドは「ウェブ2.0」である。

そう! 小池百合子東京都知事の言う「アウフヘーベン」のごとく、ネットの自由な言論空間とオープンソースにより、様々な知が混じり合い、新しい何かを生み出す装置としてネットが期待されるようになったのだ。ウェブ2.0への期待を描いたベストセラー『ウェブ進化論』(梅田望夫・著)が発売されたのが2006年2月。堀江氏逮捕のショック直後の発売なだけに、ネット関係者にとっては福音とも呼べる本となり、「オレらは負けていない! 何クソ!」と気分を鼓舞されたのである。また、はてなの取締役だった著者・梅田望夫氏が同書ではてなについて好意的に言及したことからも、はてなは「日本のグーグル」と期待されるようになっていた。

■12年間の変化は「ネットと人生が一体化した」こと

さて、そこから12年が経過したが、2017年までのネットの重要な事象をいくつか見てみよう。

・ガラケーおよびPCからスマホへ
・通信速度が圧倒的に速くなった
・Wi-Fi環境が格段に良くなった
・SNSの隆盛
・Hulu、Netflix、AbemaTV、Amazonビデオ、Apple TV、Google TVなど、ネットで動画を見る時代に
・ソーシャルゲームが巨大市場に
・YouTuber、プロブロガーなどを職業にする人々が登場(ただし、勝ち組はわずか)
・新聞社、出版社、テレビ局、通信社のウェブへの注力とウェブメディアへの転職者続出
・インチキクソコンテンツ粗製乱造
・バカッター騒動に見られる「リテラシーのないバカ」の人生崩壊

これらを一言で言ってしまえば「ネットと人生が一体化した」ということになるだろう。かつては「ネットウォッチャー」という言葉があったり、私のように「ネットニュース編集者」と(“ネット”であることを)名乗る必要があったりした。理由はネットが色物・キワモノ扱いされており、まともなメディアからは蔑まれていたため、自らも一段下げた物言いをしなくてはいけなくなったのである。

だが、今やネットもリアルも一体化したとみていいだろう。もはや「メディア」というくくりができるものでもない。家入一真氏(1978年生まれ)が2016年8月に発刊した『さよならインターネット まもなく消えるその「輪郭」について』で記した一節がこれを表している。

〈ある日、仕事の合間にお茶をしていたときのこと。インターンシップをしていた20歳の学生が、ぼくにこんなことを言いました。
「家入さんは『インターネットが大好き』とよく言うけれど、ぼくにはその意味がわからないんです。なんだか『ハサミが大好き』って言っているみたいで」
 インターネットがハサミ? 一瞬、意味がわかりかねたこの言葉。どうやら彼は「インターネットなんて、ハサミのようにあたりまえに存在するもので、わざわざ称賛する価値があるような対象ではない」と考え、そうたとえたようです〉

この感覚が12年前とは異なる。そして12年前、「私はアナログ人間ですからなぁ、ガハハハ!」と言い、頑なに職場でもネット関連の仕事を拒否していたオッサンも定年退職を迎え、仕事人の大多数がネットを当たり前の存在として見ている。

■ネットが「当たり前」の存在になるきっかけを作ったサイト

この「当たり前」の存在になったことを踏まえたうえで、今後を予想していきたい。その前に、2006年は「当たり前」になるきっかけとなるサイトがひとつ誕生している。それはJ-CASTニュースである。時に「Jカス」などと揶揄されるニュースサイトで、娯楽系から経済系、テレビやブログの内容紹介に炎上案件の紹介などコンテンツは多岐にわたるが、同サイトの誕生こそが2006年なのだ。

とにかくアクセスを稼ぐための手腕に長けており、「テレビのネタを出しとけば人々はクリックするだろう」とばかりに「テレビウォッチ」というカテゴリーを作り、その日の朝の情報番組でみのもんたや小倉智昭が語ったことを紹介し、過激な見出しをつけて人々の目を引いた。

これを旧来メディアの記者は「足で稼がないとは何事だ!」とプンスカしていたが、J-CASTは、ニュース記事においては、必ず当事者に電話やメールで見解を求めている。「なお、担当者は不在だった」でも構わないので、とにかく明確な取材の足跡はつけているのである。

J-CASTのこの取り組みは、テレビの世界も実世界も、スポーツの世界も、そしてネットの世界も一体化した「この世」であり、たまたまその「この世」で発生している事象を見せるために我々編集部はネットを使っている――。当時私はそう解釈していた。この思想は同年に始まるアメーバニュースの編集担当に私がなった時、随分と参考にさせてもらった。

■今後のネット界を予想 キーワードは「無防備」

私も以後、とんでもない量のネット記事を編集してきたが、2006年は「リアルとネットの融合」「ネット特別視は無駄」時代の元年だったといえるかもしれない。そしてあれから一時代が経過し、「当たり前」が加速化するであろう2018年が、どんな年になるのかを考えたい。私は「将来を予想してくれ」と言われるのは本来大嫌いである。だって分からないし、外したら恥ずかしいから。だが、メディアにとって「今年を予想する」的な企画は定番だ。これからのネットのキーワードは「無防備」である。ネットでしか見ないような相手でさえ「知り合い」「友達」のような感覚になり、身の危険がないレベルのことであれば、公にしてしまったりコミュニケーションを積極的に取ってしまったりするということだ。

座間9遺体事件で得た教訓もあり、「慎重な無防備」になるのではなかろうか。

【1】現在、LINEグループでヒソヒソやっている会話を公にし、秘密のエロトークでもなんでも公開。これを咎められない職場が人気となる。
【2】ネットの炎上や中傷に対し、企業も個人も耐性が身に付く。メル凸なども馬耳東風、明らかなクレーマーに対する謝罪はキチンと行い、そうでない場合は毅然とした態度で臨み、訴訟も辞さなくなる。
【3】良い情報ならばなんでもあげとけ、とばかりに作成した社外秘以外の文章はウェブで公開。これにより新たなビジネスチャンスが生まれる可能性が出てくる。
【4】セクハラ・パワハラの告発においては、SNSでどれだけ支持者がいるかが重要。SNSで「強いID」を作るべく、個々人が「自衛」のためのSNS更新をするようになる。
【5】同様に、ネット上だけの支持者を日々作っておき、裁判などのいざという時にその支持者からのカンパを受けたりするようになる。
【6】セクハラ・パワハラの被害を受けた場合、自分がその組織を辞める、という決断をした場合は容赦なくネット上に写真や文章も含めた「証拠」を出し、世論を味方につける。【4】と合わせる手法。
【7】一般企業であっても、通販部門や、ウェブメディア部門、会員獲得サービスなど、インターネット関連部署で多大なる貢献をした人物が役員に就任。社内出世コースの中心に躍り出る。
【8】ネットで課金させる手法がますます高度化し、自己破産する者が続出する。
【9】証拠を残したくない、とばかりに重要なやり取りは電話を使う方向に逆戻り。
【10】ネットで誹謗中傷、訴訟合戦が花盛りとなり、保険会社は「ネット炎上保険(仮)」的な商品を作るようになる。もはや自動車保険や火災保険のような扱いで、ネット上での発言が人生を狂わせることも大いにあるため、商品開発が進んでいく。
【11】紙メディアはネットに注力。在庫を持たないビジネスのやり方を模索。

 それでは本年もどうぞよろしくお願いいたします。有意義なインターネットライフを!
(中川淳一郎)