前年度王者・青森山田が敗れた。3回戦で迎えた相手は長崎総科大附。このタイミングで当たるには余りにも強健な相手である。そのチームを相手に王者が「弱み」を見せてしまった――という試合ではなかった。むしろ際立っていたのは彼らの「強さ」だった。

 この試合、長崎総科大附はオールコートでのマンツーマン対応で青森山田に対峙した。特に郷友太と中村駿太に対しては「トイレまで付いていく」、俗に言う便所マーク。「(相手のやり方は)分かっていたけれど、難しかった」と郷が率直に振り返ったように、ここまで徹底してくる(あるいは、徹底できる)チームは全広しと言えどもそうはないので、戦錬磨の青森山田の選手たちと言えど、打開した経験値が乏しい。徐々に相手のやり方に慣れながら、打開策を模索していく。そんな試合運びにならざるを得なかった。

 その中で青森山田はやはり「強かった」。逆にこれほど長崎総科大附が振り回されるゲームも少なかったのではないか。素い攻守の切り替えと鋭いサイド攻撃で相手の守備の出足を上回り幾つも決定機を作り、パワープレーに入った終盤は高さの勝負で長崎総科大附を圧倒してみせた。結果としてFW安藤瑞季に前半で浴びた一発を取り返すことができずに王者が敗者になったのは事実ながら、青森山田が「弱かった」とは思えない試合である。「王者」というフィルターを外してこの試合を虚心で観れば、青森山田の勇戦ぶりは素直に称えられたに違いない。

 そう、彼らは「王者」だった。豊富な経験を持つ黒田監督といえども、王者として臨むシーズンは初めてのこと。試行錯誤だったのは確かだ。もちろん、選手たちにのしかかっていた重圧は想像を絶するものがあった。昨年2月には新チームに切り替わって々の東北新人大会を取材に行ったが、そこでの彼らは心理面でもサッカーの内容面でも明らかボロボロ休みの遠征でも、それはひどい出来の試合があり、厳しい叱も受けて元々そんなになかったであろう自信をすっかり喪失していた。新将になったDF小山内慎一郎は偉大すぎる先輩較されることへの率直な不安も吐露してくれた。

 チームがうまくいっていないのは明らかだったし、正直うまくいきそうにも見えなかった。その惨状を思えば、高円宮杯プレミアリーグEASTで最後まで優勝争いを演じ、選手権でも確かな強さを印づける試合を見せるほどにまでチームが成長してきたことが、むしろサプライズだろう。個々を観ても、この1年を通じてを付けた感触のある選手ばかりがに付く。そこまで選手たちを導いた導者たちの努耐と、食らい付いていった選手たちの踏んりを思えば、自然と敬意しか湧いてこない。

 黒田監督3回戦終了後、敗因をとつとつとり、選手個々への厳しい言葉も連ねた上で、最後に「勝利の女神が微笑まなかったね」という言葉で試合を総括した。勝負師として厳しく敗因をめる一方で、一人の導者としては選手たちがこの1年間で見せた成長に対しポジティブな感覚もあったのだろう。続けて言った「高校サッカーだからね。彼らはこれからだよ」という言葉に、鋼指揮官がそっとしまい込んだ本音が見え隠れした。

取材・文=川端

前年度王者・青森山田を主将としてけん引したDF小山内慎一郎 [写真]=梅月智史