2021年は日本の将来にとって重要な年となる。大学センター試験が廃止され、代わりに導入される入試制度はマークシート式の知識だけでなく、記述と思考を求めるものが中心となる。旧来の教育を受けた世代にとっては厳しい時代に、生き残りをかけてすべきことは何か。佐藤優氏からの実践的提案。(出典:文藝春秋オピニオン 2018年の論点100)

「学習指導要領の改訂」を楽観視するのは間違い

 2020年というと、東京五輪・パラリンピックのことばかりが話題になるが、日本の社会と国家の将来について考えると、もっと重要な出来事がある。文部科学省による小中高校における教育の基準になる学習指導要領の改訂だ。

 小学校は20年度、中学校は21年度、高校は22年度と段階的に導入される。過去に何度も学習指導要領は改訂されたが、大きな変化がなかったため、2020年におきる変化を、「前から文科省が言っているアクティブ・ラーニング(教わる側が積極的に参加する形の授業)と実用英語の重視くらいだろう。かけ声だけで、たいしたことはない」と楽観視しているようだ。しかし、それは間違いだ。

 日本の教育は、大学入試制度が変わるときに大きく変化する。2020年には大学センター試験が廃止され、「大学入学共通テスト」が始まる。新しい試験には、マークシート式の問題に記述式が加わり、さらに英語では「読む・聞く」に「話す・書く」を加えた4つの技能が試験される。英語では、英検、TOEIC、TOEFLなどの民間試験が導入される。数学でも記述式問題が出題され、国語でも小論文を書く力が求められる。

 現在の大学入試は1979年に共通一次試験(大学センター試験の前身)の導入によって作られた形である。その結果、マークシート式の試験が普及した。この方式だと受験者が正確な知識をもっているか否かについては判断できるが、思考の過程を検証することができない。また、記述能力が低下する。

 これでは思考力や表現力を児童、生徒が主体的に育むことができないので、グローバリゼーションが急速に進み、変化が激しい社会状況に対応できなくなる。そのため、今回の大学入試改革と学習指導要領改訂が行われるのだ。この方向性は正しい。

現在の教育は1979年製のプロペラ機

 たとえで言うならば、現在の教育は、1979年製のプロペラ機のようなものだ。

 1940年7月に運用が開始され、45年の敗戦まで使用された旧海軍の零式艦上戦闘機(ゼロ戦)は、11型、21型、22型、32型、52型、53型、54型とマイナーチェンジを繰り返して、米軍戦闘機の能力向上に対応しようとしたが、太平洋戦争の後半は劣勢に追い込まれた。

 現在の日本の教育もこれに似ている。自己推薦入試や大学が特別の基準でユニークな人材を確保するAO入試なども行われているが、多様な学生を確保することで、学生の能力を多面的に発展させるという目的は達成されていない。附属高校からの内部進学、推薦入学、AO入試で合格した学生の学力が、ごく一部の例外を除けば、一般入試で合格した者よりも低く、大学教育の混乱要因になっている。

文科系、理科系ともに求められることとは

 また、一部の中高一貫進学校では、中学1、2年次に数学の成績が不振だと、早稲田、慶応などの難関私大文科系の入試に目標を定め、英語、国語、社会の3科目に特化させ、数学、理科については習得できていなくても単位を与える。その結果、中学数学の怪しい難関私立大の学生が大量に存在するようになった。特に数学がまったくわからない経済学部生、商学部生という、国際基準では考えられない奇妙な現象が生じている。

 理科系に関しても、歴史や公民(現代社会、倫理、政治・経済)の知識が欠如し、国語の表現力が弱いために、教養の欠如した専門家が生み出されている。イノベーションのためには幅広い教養が必要なために、理科系出身者も壁に突き当たっている。

 また、文科系、理科系の大学生はともに実用英語力の欠如に悩まされている。2022年の高校の学習指導要領改訂で、英語力が質的に改善される。また、文理融合が進み、高校卒業レベルの数学力に欠損のある文科系学生や、歴史や政治や思想がまったくわからない理科系学生もいなくなる。また、文科系、理科系ともに、自分の考えを文章にし、発表する力、論理的な討論(ディベート)をする力が磨(みが)かれる。

20代、30代は20年後を視野に入れて

 もっとも飛行機が安定的に飛行できるようになるまでは、運用して初めて明らかになる様々な故障を修理する必要に迫られるように、2020年の学習指導要領改訂による新しい教育も最初の10年くらいはさまざまな欠陥が見つかり、試行錯誤を繰り返すであろう。しかし、その後はジェット機を操縦することができる新しい世代が生まれる。今から20年後には、新しいスペックを備えた人材が社会に輩出されてくる。その結果、旧世代の教育を受けた者は、競争に敗れる。匠の技でプロペラ機を操縦できる人であっても、ジェット機には絶対にかなわないのと同じだ。

 筆者は現在57歳、20年後は77歳となり、隠居生活に入っているので、この競争から逃げることができる。しかし、現在20代、30代のプロペラ機の操縦しかできない人は、20年後を視野に入れた対策を立てておく必要がある。

 文科系、理科系、いずれの出身者も、英検、TOEIC、TOEFLなどの実用英語の試験を受けて、英語力を向上させることだ。現在、高校の「地理歴史」では「世界史」が必修科目だが、2022年の学習指導要領改訂では日本と世界との関わりを、近現代史を中心に学ぶ「歴史総合」という新科目、グローバルな視点で課題を解決する力を育てるための「地理総合」という新科目が必修になる。この知識を、社会人も身につけておく必要がある。さらにプログラム言語の知識も必要になる。

 しかし、もっとも重要なのは、日本語で正確に文章を読み、他人の話を正しく把握し、自分の考えを正確かつ説得力を持つ形で書き、話す力だ。これから社会人教育がかつてなく重要になる。新時代に適用できる勉強をしない者は、20年後に確実に落伍してしまうからだ。

(佐藤 優)

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