プレーする日本人サッカー選手は多く、「海外組」は日本代表の中心を形成する。もっとも代表とは縁で、レベルが高いとは言えないプレーする「海外組」の方が圧倒的に多く、その数は優に100人をえると言われる。それらの中には給与の遅配、未払いは当たり前の「ブラッククラブ」に苦しめられている者も少なくない。

そんな中、インドクラブチーム契約していた中村選手(30=前ビィ・フォアード ワンダラーズアフリカマラウィ)はFIFA国際サッカー連盟)に提訴し、4年4か後に未払いだった給与を一部だが手にした。世界を渡り歩くプレーヤーの「ピッチ外の戦い」を紹介する。(ジャーナリスト松田

世界を渡り歩く中村選手、インドチームトラブル

中村選手は小学生の頃、欧州クラブで活躍する中田英寿選手の活躍を見て海外サッカー選手になることを夢見るようになった。高校卒業後の2005年以降、プロ契約してドイツベトナムペルーでアマチュアとしてプレー。その間、帰して社会人チームプレーしつつセレッソ大阪練習に参加するなどして、2011年アルバニアプロデビューを果たす。2012年1月に複数のオファーから条件の良かったインド・コルカタにある当時Iリーグ2部のモハンダンSCに移籍。契約書を交わした後にビザ取得のためいったん帰したが、その間にクラブが態度を一変させた。

「ビザは取得できましたが、チーム約束していたインドへのエアチケットを送ってこないし、給料も支払わないんです。『どうなってるんだ』と何度も電話しましたが、相手はノラリクラリ。結局、日本に留まったまま6か契約期間満了です。クラブが帰している間に既にビザを持ち、すぐにプレーできるウズベキスタンの選手を獲得してプレーさせていたと、後から聞きました」。

その後、メールで「1か分の給料を支払うから、それで解決としよう」と言われたが拒否。知人から紹介されたプロサッカー選手会(FIFProアジアオセアニア支部代表の山崎卓也弁護士の勧めもあり、給与の支払いをめてFIFAへの申し立てを決意した。

こうした給与未払い事例は日本人が多くプレーするアジアインドタイインドネシアマレーシア中国韓国等)をはじめ、世界で発生している。

FIFProの「グロバル雇用報告2016年版」を見ると、調した選手の41.3%が給与の遅配を経験。それ以外にも選手側から契約を打ち切るよう仕向けるため、1人での練習を強制させられた選手が6.2%といった事実が報告されている。

中村選手は「クラブが強く選手のが弱いので、特に『この選手は選択肢が少ない』と見ると、足元を見て条件を変えてきたりします」と現場の状況を説明する。

契約書の内容が履行されると思ったら「大間違い」

2012年12月日本プロサッカー選手会を代理人として、モハンダンSCが未払いの給与を支払うよう、FIFA紛争解決室(以下DRC=Dispute Resolution Chamber)に申し立てを行った。

この種の申し立ては、以下の手続きで進行する。

(1)DRCによる決定

(2)相手が決定に従わない場合、FIFA委員会(以下DC=Disciplinary Committee)に対し相手に懲罰を与えることの申し立て

(3)DCが決定を経て、各サッカー協会に処分の履行を命令

本件事案は以下のような経緯をたどった。

DRCがモハンダンSCに対して2か分の給与の支払いを命令(2013年6月

DCが「支払わなければリーグ戦での勝ち点3を剥奪、それでも支払わなければ降格処分もある」と決定(2014年12月

DCに対して勝ち点剥奪処分と降格処分をするよう申し立て(2015年1月以降複数回)

・降格処分をするよう再度の申し立て(2016年11月

・モハンダンSCが支払い(2017年2月

サッカークラブ側の対応は

ハンダンSCは勝ち点剥奪をチラつかせても視。降格処分を受けそうになった2015年11月には、訴訟外で4分割での支払いと遅延の免除をめる申し出をしてきた。最初だけ支払って処分を免れ、その後支払わずに紛争を長引かせる考えだったのかもしれない。遅延の免除はそうした狙いを思わせる。中村選手サイドは即座に拒否し、あくまでもFIFAに解決を委ねた。

こうして2017年3月中村選手の口座に2か分の給与8000ドル(約896000円)相当と遅延を含む額が入された。24歳の時に受け取るはずだった給与(の33%)を手にしたのは6年後、30歳の時である。

日本人は通常、契約は守られるべきものと思っていますが、が行ったでは全く違いました。海外では『契約書を交わせば100%履行される』と思ったら大間違いです」。

同選手はモハンダンSCを離れてから、その後に入団した外国人選手の話をにした。その選手も2か分の未払いがあり、クラブ契約延長を持ちかけてきた時に応じる条件として未払い分の支払いをめ、2か分を手渡しで受け取るとすぐに出したという。FIFAへの提訴という手段を知らない、知っていても取れない場合には、の化かし合いのようなことをするしかないのが現実である。

今回の事例で、山崎弁護士とともにFIFAへの申し立てをサポートした杉山翔弁護士は、海外プレーを考える選手に向けてこうアドバイスする。

アジアや東・南ヨーロッパなどには給料を支払わないクラブが存在することを認識しないといけません。選手がすべきことは契約書をもらうことです。今回のような手続きに乗せるために必要だからです。それを恐れて渡さない悪質なクラブもあります。そして困った時は選手会や弁護士に相談すること。今回の例を、同じような遇に立たされている選手に知ってほしいです。そうした人たちの依頼を受けることで、彼らを助けられるかもしれませんから」

多くの経験をしてきた中村選手には現役引退後、クラブチームのマネジメントをしないかという打診が複数あるという。

アジアアフリカ東欧では契約通りに給料を支払うという、当たり前のことができないクラブがほとんどです。がそういう立場になったら、まず遅れずにちゃんと給料を支払います。その上でオーガナイズされた練習、選手の年齢や量にあったマネジメントをしてチームを強化していければと思います」と夢をる。自分のような思いをさせたくないという気持ち、契約を守ることの大事さを身を持って知ったからこそ言える言葉なのだろう。

やかな世界の裏に真実の闇がある。中村選手は、そこに一筋の明かりを照らしたと言えるかもしれない。

【取材協

中村(なかむら・げんき) 1987年兵庫県芦屋市生まれ。アルバニアインドフィリピンラオスマラウイチームプロ契約ポジションはFW、攻撃的MF)。2017年マラウィのチームとの契約期間満了に伴い帰現在日本サッカースクールを経営しつつ、全大陸プレーをすることを標に、一未経験のオセアニアクラブへの移籍を模索している。日本語以外に英語ドイツ語スペイン語が堪で、イタリア語もほぼ理解する。

【取材協弁護士

山崎卓也弁護士杉山翔弁護士

事務所名:Field-R法律事務所

事務所URLhttp://www.field-r.com

プロフィール

松田(まつだ・たかし

1961年埼玉県生まれ。青山学院大学大学院法務研究科卒業日刊スポーツ新聞社に29年余勤務後、フリーランスに転身。な作品に「奪われた旭日旗」(Voice 2017年7月号)。

ジャーナリスト松田 公式サイトhttp://t-matsuda14.com

弁護士ドットコムニュース

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